冒険者は様々な武器を用いる。剣、槍、弓、杖……各々は全てひと通り使えるが、特に適性を発揮するものがひとつ必ずあり、それを己の武器とする。



冒険者組合では、これから登録をしようとする冒険者に対しての講習もおこなう。すでに引退した経験豊富な冒険者が、それぞれの武器適性を見極めてやり、新人冒険者の失敗を減らす目的もある。

マルスも時折それを手伝うことがあるのだが、その日の話は訳が違った。

「マルス殿、少し相談があるのだが?」

組合の講師だ。マルスは例によって講習の依頼かと思ったが、

「新人に少し変わったやつがいてな。どうしたものかと困っているのだ」

「変わったやつ?どういうことです?」

「魔力がな、ないのだ」

「!!そんなばかな!」

「そう思うのは当然だが、事実なのだ。しかも……」

「しかも?」

「武器が何ひとつ使えぬのだよ」

「ますます意味がわかりません!」

冒険者に限らず、この世界の人たちは少なからず魔力なるものを持っているし、武器だって練度の差はあれど使えるはずである。それができないというのは不可解極まりないことだ。

「そこでだ。ソフィアの冒険者のなかでも知識豊富なおぬしなら何とかしてくれるのではと思ってな」

「いやいや、私は魔法使いですよ。魔力以外のことなんて門外漢に等しいですよ」

「しかし、魔法以外の武器にも詳しいであろう?すまんが、よろしく頼む」

「はあ……」

(厄介事を投げつけられたな……とりあえず明日会ってみるか……てことは、一度ギルドホームに行かないとまずいな……)


ギルドホームに戻ったマルスは事の顛末を報告する。

「えー!マルスさん、明日食事に連れてってくれるって言ったじゃないですかあ!」

「そうよ!アトリアとリンだけなんてずるい!」

ナナミと霊邪から大ブーイングである。

「日を改めて必ず連れてくから」

「絶対よ!」

(食い物の恨みはこええ……)

「それにしても、何なんでしょうね?魔力がないのはまだしも、武器も使えないのは……」

霊邪が首を傾げる。

「それなんだよな。一応、東の方に魔力ではなく、気というものをあやつる人たちがいるというのは聞いたことがあるはあるんだけど……」

マルスもさすがにハッキリしないといった感じだった。だが、それを聞いていたリセから思わぬ話が聞けた。

「マルス、気は元々全ての生物が持つものだ。扱える人が少ないだけでな……」

「そうなんだ、ありがとうリセ!ちょっと調べてみるよ、ソフィアの図書館で調べてみる」

マルスはすぐに図書館へと向かった。リセは振り返り、

「じゃ、俺らは食事に行こうか」

「わーい!」

リセなりのフォローであろう。




図書館では、興味深いことがわかった。大昔、ソフィアでも気功を使った武術が存在していたこと。そして、それは素手によるものであったこと。それを記された書物があることなどがわかった。

「もしかしたら、何とかなるかも……」


翌日、組合の中庭で彼女に会った。

「あ、淡月と申します。このたびはわざわざ私なんかのためにありがとうございます」

「マルスだ。そう固くならずに。君にいくつか質問してもいいかい?」

「はい」

「君の両親はどこの生まれかな?」

「確か、ソフィアの東のほうの村だと聞きました」

(やはりか……)

「武器が使えないということだったんだけど?」

「はい、力を込めると壊れちゃって……」

淡月は完全に自信を無くしている。

「私はやっぱり冒険者になれないんでしょうか?冒険者って才能なんですかね……」

「そうだね、確かに才能はある。でも、それは誰しも何か持つものだ。君にもある」

そこまで話したところで、マルスを呼ぶ声が聞こえた。

「マルス、お待たせ!」

「クリボー!すまないな、どうだった?」

「あったぜ!迷宮の1000階に!」

「さすがだな、助かったよ」

「貸しいちな!」

「今度メシおごるよ」

クリボーは、マルスに本のようなものを渡し、去っていった。

「さて、淡月。君にはこれから気功術を覚えてもらう」

「気功術……ですか?」

「ああ、君は類まれな気功の持ち主だ。その気功の強さゆえに武器が耐えられない。だから、君の武器は己の体だ」

「そんなことが……私にできるんでしょうか?」

「できる!いいかい?確かに才能の差は存在するし、力の差もある。でもね、そこで諦めるんじゃなくて、別の方法で同じことができないか考えるんだ」

「別の方法……」

「そう、君はその拳でできるんだ!その拳で力の限り殴れ、遠ければ近づいて殴れ!」

「それじゃ、ただのケンカみたいじゃないですか」

「君の場合は違う、そのための方法はここにある」

マルスは、先ほどの本を出して淡月に渡す。

「いいかい、この本には気功術に関することが書いてある。君の物だ。これを読んで鍛錬するんだ」

「無手の書……こんなものがあるんだ……ありがとうございます、やってみます師匠!」

「師匠?いや……そこまでのことは教えてないのだが……」

淡月はその書物を持ってどこかに去って行った。

「あとは彼女次第……どうなるか……」




後編に続く……