冒険者は、魔物を狩り、街や人を守るだけが仕事ではない。その魔物から取れる素材を使って物を作り出すアルケミストやスミス、魔物を使役するテイマーなど、さまざまな職種に分かれる。
今日はそんな話……
ある日の午後、ユユとナナミは装備品を整えなおすため、ソフィアの街の鍛冶屋街に来ていた。
「この弓いいんじゃないか、ナナミ」
ある店で弓を手に取り物色しているユユ。どうやらナナミの弓を買いかえるようである。
「だめよ!形や色が合わないわ、それじゃあ」
「ええっ!でもモノはいいと思うんだがなあ……」
「オシャレじゃないもん、それ!」
ふくれっ面のナナミ。年頃の女性らしく、オシャレにはうるさいようである。ユユとナナミはat homeに入る以前からコンビを組んでいる。付き合いも長い。それゆえにナナミがこうなると譲らないことはわかっていたのだろう。ユユは、
「わーったよ、そしたら、作ってもらおう」
「え?いいの?」
「約束だからな」
「やったー!」
小躍りしながら喜ぶナナミ。どうやらユユがプレゼントすると約束していたようだ。
鍛冶屋に依頼し、満足気なナナミ。それを見ているユユも心なしかうれしそうである。2人は用件が済んだので帰途についた。その途中、どこからともなく、何か聞こえてくるではないか……
「ん?これは?」
ユユが先に気づく。
「歌だねえ、楽器の音も聞こえる」
ナナミが答える。2人はその歌が聞こえる方へと歩みを進めていく。
ソフィアの港へと続く道、その港へと下りていく階段の下にその人物はいた。階段はさながら客席と化しており、大人から子どもまでが階段に座り、歌を聞いている。その声は彼を中心として拡がる波紋のようである。声量はあるのに、不快感は全くなく、むしろ歌が落ち着きを与えている。
「すごいな……」
ユユは素直に感心している。
「いい歌だね……楽器は、ギター?かな?」
ナナミも聞き惚れている。
ギターらしき弦楽器は、その歌を邪魔することなく存在感を有しており、ひとつひとつの音がハッキリと耳に染み込んでくる。
曲が終わるころには、階段がわからなくなるほど人で埋まっており、終わりとともに賞賛の拍手喝采で盛り上がりを見せた。
「ナナミ、行ってみようか」
ユユはおもむろにその歌い手に近づいていく。
「ちょっと!知らない人にそんな軽々しく話しかけに行くなんて!」
ナナミはあわててついて行く。
「いい歌だね。楽器もいい音だった。」
ユユはさも知り合いかのように話しかける。
「ありがとう。」
歌い手の彼は、ユユの言葉に笑顔で応える。
「俺はユユ。こちらはナナミ。2人とも冒険者だ」
「俺はダイ。吟遊詩人だ」
「吟遊詩人か……今の歌は?」
ユユが尋ねる。
「今の歌は、この街に着いたときに感じたことをそのまま歌にしただけだよ」
「いい歌ね。吟遊詩人ってことは旅してるの?」
ナナミも話に入ってきた。そこまで外交的ではないナナミが初対面ですんなり話に入ってくるのは珍しい。それだけ雰囲気が柔らかいということなのだろう。
「ああ、色んなとこに行って歌ってる。でも、ここは初めて来たよ。いい街だ。大人も子どもも笑顔だし、みんなの生きているエネルギーが感じられる」
「そうさ、俺たちの自慢の街だからな」
ユユはにっこりとする。
「ユユが作った街じゃないのに……」
ナナミがあきれたような顔でツッコミを入れる。3人はふふっと笑いだす。
「しばらくはこの街にいるからさ。また聴きにきてくれるとうれしい。じゃあ、また」
ダイはそう言うと、背中に楽器の入った箱を背負い、どこかに歩いて行った。
「あいつ、相当やるな」
ユユが突然話しだすと、ナナミも
「いい声だったよねー」
と答えるが、ユユは少し考えるような表情を見せた。
「どうしたの?」
気になったナナミも聞いてみるが、
「ん?いや、何でもない」
とユユは笑顔で応えた。
ユユとナナミがギルドホームに戻ると、霊邪がやってきて、
「ユユさん、ナナミさん、マスターが帰ってきたら部屋に来てくれって言ってましたよ」
と言うので、その足でアトリアの部屋に向かった。
「アトリア、入るわよ」
ナナミがドアを開けると、アトリアは自分の机に大きな地図を広げて、何やら考え込んでいるようだった。そして、2人が入ってくるのを確認すると、
「依頼よ、女神ピーノ様からの」
「ピーノ様からの依頼?!」
ユユとナナミが驚くのは当然である。女神ピーノには独自の騎士団がある。彼らはひとりひとりが冒険者になってもトップクラスの実力だ。それが冒険者に依頼を出してくるのは只事ではない。
「内容は?」
ユユが口を開いた。
アトリアは、軽くひと息ついた後に、
「死者の軍勢からの街の防衛」
ユユとナナミは息を飲んだ。
アトリアは続けて説明する。
「女神グリーシア様からピーノ様に報告があったそうなの。闇の領域にあるはずの死者の魂がこちらに無理やり召喚されて何者かにあやつられているって」
「つまりは、闇の領域の神様がそれを取り戻すまでの街の防衛ってことか」
ユユは理解したようだ。
「そうよ。街そのものには、マルスとらんなが防護結界を張るんだけど、その結界は弱い魔物なんかは通過しちゃうの。だから、私たちの出番ってわけ」
アトリアは補足を加えた。
「わかった、早速準備にとりかかるわ」
ユユとナナミは踵を返し、部屋を出た。
そのころ、ダイは……
ソフィアの街頭で宿へ向かいつつ、ひとり誰にともなくつぶやいた。
「嫌な気配だ……それに死人の匂いがする……」
後編に続く……