ダイはしばらく考えた後、向かう方向を変え、正門に向けて歩きだした。
(俺の勘が正しければ、これは俺がやらなきゃいけない。俺にしかできない。)
ラカウ平野……ソフィアの街付近の広大な地形である。多少の起伏はあるものの、見渡しはよく、敵を迎え撃つにはもってこいの地形だ。
「ここを突破されたら終わりだ、必ずここで止めないといけない」
さすがのユユも少し緊張した表情を見せる。
「うん、私たちの街を守らないとね」
ナナミも同様だ。
街は結界が張られ、青白い光に包まれている。らんなとマルスが結界を起動したようだ。いくら聖魔法の使い手トップクラスの2人と言えど、限度はある。もって2時間というところだ……。それまでに片付けなければならない。各々が手入れした武器を手に持ち、これからというときに彼がやってきた。
「やあ、ユユ、ナナミ」
「ダイ!なんでこんなところに!早く避難を!」
ナナミは半ば怒るような感じでダイに言う。だが、当の本人何くわぬ顔で、
「申し訳ないんだが、ここは任せてくれないかな?」
「任せてほしいって、ひとりでやる気か?」
今度はユユが反応する。
「ああ、ここで待っていてくれ」
ダイはスタスタと軍勢が来るであろう方角へひとり歩みを進めた。そして……
「来たぞ!」
どこからともなく、そんな声が聞こえてくる。
多い……なんてものではない。人の形をした何かが歩いてくる。数十万はいるのではないだろうか。ここまで多いと軍勢と言うより、黒い塊である。少しずつ這ってくるように軍勢は向かってくる。しかし、その前にダイが立ち塞がる!
「お前ら、俺の歌を聞けぇーー!」
そう叫ぶと、ダイは取り出した楽器で演奏を始める。
「なんで演奏なんか?自殺行為よ」
ナナミは助けに向かおうとする。しかし、ユユがそれを制する。
「待て、よく見てみろ」
ダイが演奏を始めると光の帯が周りに立ち昇りはじめ、それがどんどん大きくなっていく。そして、ダイが歌い始めると、その光の帯が軍勢に向かっていくではないか!
(お前らのために鎮魂歌を歌おう!無事に送り帰してやるからな!)
ダイの歌は以前ユユとナナミが聞いた声よりもさらに大きく、そして響き渡る。光の帯は、軍勢を包み込んでいく……。
『ありがとう……これで帰れる……』
ダイの耳にそんな声が届く。
(良かった……無事に帰れそうだ……)
軍勢は光の帯に包まれて空高くへ上がったかと思うと、一瞬にして全て消え去った。
「ダイ、あいつ……送り帰しやがった」
ユユもさすがに驚く。しかし、これで終わりではなかった。
「ばかな!我が軍勢が消え去った!お前は何者だ?」
ダイの目の前数十メートル先の空間から漆黒に近い紫の物体が現れた。
「お前か、死者の眠りを妨げた無粋なやつは!」
ダイはその物体をにらみつけ、怒りをあらわにする。
「我が名はベクシズ。闇より生まれし者、そして死をあやつる者なり」
「死なんて何かがあやつるもんじない!お前だけは絶対に俺の手で消し去ってやる!」
ダイは楽器を片付ける。
「ダイ!今行く!」
ナナミが助けに行こうとしたとき、またもやユユがそれを制止する。
「ユユ!今度こそ助けに行かないとダイが!」
「いや、その必要はない。あのケースには楽器ともうひとつ入ってたからね」
「え?どういうこと?」
そう、ユユは気づいていたのだ。
ダイは楽器を片付け、代わりにケースから弓を出してきた。
「あいつは弓使いだ。それも相当の……」
ユユはそれをわかって彼に話しかけたのだ。
ベクシズは、ダイに向かい巨大なエネルギーをぶつける。エネルギーは刃の形となり、ダイに直撃する。
「他愛もない……さて、めんどくさいが私が自らの手で街を片付けねばなるまい」
ベクシズがそうつぶやいたとき、
「おいおい、お前は俺が消すって言ったろ?」
ダイが後ろに現れたのである。
「ばかな!なぜそこに!」
「デコイシューター……さっきのは分身だ、いくら攻撃しても当たらんよ」
そしてダイは弓を引き絞る。
「でもな、デコイシューターは、同じ動きをするから、攻撃はするんだよ!」
ダイとデコイシューターの矢に光が集まる……
「よかったよ、お前と俺は相性抜群らしい」
「な!それは光属性の……」
「消えろっ!サンライズアロー!」
光の矢は、ベクシズの前後から飛び、二方向からベクシズを貫く。貫いた瞬間、大きな光となり、ベクシズは跡形もなく砕け散った。
「ふう、終わったか……」
ダイがひと息ついたところに、ユユとナナミが駆け寄ってきた。
「ダイ、すごいね!浄化魔法が使えるんだ?」
ナナミが尋ねると
「違うよ、あれは鎮魂歌。歌と演奏で魂に語りかけて本来の姿に呼び戻すんだ」
ダイは続ける。
「俺は吟遊詩人。だから、人相手でも魔物相手でも歌を歌うんだ、たとえ死人でもね!」
数日後……今日も街頭でダイは歌う。ユユとナナミも聴きに来ている。
「ダイ、相変わらずいい声だな!」
ユユは笑顔で話しかける。
「当然!やっぱり生きてる人に聴いてもらうのが一番楽しいし、気合い入るからね!」
心底楽しそうである。
「ただなあ……」
ダイは付け加えようとする。
「ただ?」
ナナミが尋ねる。
「そろそろ宿屋暮らしもつらいし、ここはいい街だから、しばらく落ち着こうと思うんだけど、住むとこどうしようか、どうやって暮らすかなと……」
それを聞いていたユユとナナミは目を合わせてニヤリとする。2人同時に、
「それなら、いい所あるよ!」
この後、ダイはat homeのギルドメンバーとなり、ナナミに勝るとも劣らぬ弓使いとして名を馳せる。だが、彼がよりみんなに知られるのは、吟遊詩人としての歌と演奏だったことは言うまでもない。
※この物語は、全てフィクションです。場所名や人物名は、同名なだけであり、実際のプレイヤーとは異なります。