マルバロの森……ここには守護者フォレストウルフがいる。冒険者たちはかの魔物に敬意を表し、ここでの狩りやクエストはおこなわない。その木陰にフォレストウルフと共に昼寝をしている者がひとり……

冒険者ユユである。傍らには彼の愛銃とナイフ、手甲が置かれている。
「ふあーあ、平和だなあ……」
森での昼寝は彼の日課である。しかし、今日は違った。彼の平穏な日常はその人物によって壊される……
「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんは冒険者なの?」
突然の声にぎょっとするユユ。見ると子どもがいるではないか。ユユにかまわず、子どもは続ける。
「お兄ちゃん、冒険者なんでしょ?依頼受けて仕事するんでしょ?」
起き上がったユユはあぐらをかいて、子どもに向き直り応える。
「そうだ。それがどうした?」
「依頼をお願いしたいんだ。僕に冒険者となるための技を教えてほしい」
「なぜだ?」
「父さんの敵を取るんだ!」
ユユは一瞬顔を曇らせる。だが、間髪入れずに
「断る。その依頼は受けられない」
「なんで?冒険者は依頼を出して、お金を払えばちゃんと受けてくれるって聞いたよ」
そんな子どもにユユは穏やかな表情で話す。
「いいかボウズ。冒険者は自由なんだ。どこへ行くのも、何をするのも、依頼を受けるのも受けないのも。だから俺はお前の依頼を受けない」
子どもの頬を涙が流れていく。ユユは黙ってそれを見つめていた。少し落ち着いたら、家まで送っていってやろう。そう考えていたとき……
『ユユ、何か来るぞ』
フォレストウルフの声が響く。ユユは傍にあった銃とナイフを取る。あまりにも静かになりすぎている……
「!!!」
子どもを脇に抱え、後方に飛び退くユユ。と同時に地面からイバラのツタが何本も現れる。
「イロズピルツか……やっかいだな」
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ、心配すんな。ちゃんと家に帰してやる」
このユユの返答は、この後間違ったものであったとわかる。なぜなら、
「お兄ちゃん!アイツを、アイツを倒して!アイツが父さんを殺したんだ!」
「なっ……イロズピルツに殺されただと?」
『ほう、ということは、その子の父も冒険者だったのであろうな、街の近くにこいつが出ることはないからのう』
フォレストウルフが珍しくしゃべる。ユユは子どもの目を見て真剣な表情で
「ボウズ、それは俺への依頼か?」
「うん」
しかし、ユユは
「だめだ、依頼は受けねえ」
「なんでだよ!ちゃんとお金も払うよ!お願いだよ!」
子どもは大粒の涙を流しながら懇願する。
だが、今度は子どものほうがユユの言葉の意味を理解していなかった。
「いいかボウズ、冒険者ってのはな、子どもの依頼は受けねえ。でもな、子どものお願いは全力で叶えてやる、もう一度聞くぜ、それは俺への依頼か?お願いか?」
子どもは涙を流しながら叫ぶ!
「お願いだよ冒険者!アイツを倒して父さんの敵を討ってくれよ!」
「いい答えだ!ここで見てな、終わらせてくっから」

ユユはイロズピルツへ歩みよっていく。無防備に。イロズピルツはツタを上から仕掛けてきた。ユユはそれをかわし、銃を打ち込む。本体目がけて一直線に飛んだ矢は当たるかと思われたが、ツタにはばまれる。本来であれば、近接武器でツタをなぎ払い、遠距離武器で貫くパーティ戦でこいつは倒す魔物だ。冒険者が1人で狩る魔物ではない。
「しかたない、やるか……」
誰に言うでもなく呟いたユユは、クロスファイアのタメを始め、左手にはナイフを何本か持つ。そして、ひと呼吸置いた瞬間……
「ガトリングナイフ!」
数十本のナイフがイロズピルツに向けて飛んでいく。当然、ツタにはばまれる……はずだった。
ナイフは魔法でコントロールされているかのように曲がり、ツタをかわし、本体につきささる!
「ナイフが曲がった!すごい!」
子どもは素直に反応する。戦闘しているユユの代わりに子どもを守っているフォレストウルフが答えた。
『あやつはな、風の精霊に愛されておるのよ』
「風の精霊?」
『うむ、風の精霊を使えば、ナイフや矢を曲げて当てることなんぞ簡単よ、あの魔物もかわいそうにな、精霊使い相手では勝ち目はなかろう』
そんな会話をよそに、ユユはイロズピルツへ次々とナイフを刺していく。常に後ろを取り続け、イロズピルツに態勢を立て直すスキすら与えない。
ユユは元アサシンだ……それに精霊の力で移動速度も上乗せされている、鈍重なイロズピルツがそのスピードについていけるはずがない。
「終わらせるぜ!」
構えた銃を放つとクロスファイアはイロズピルツの真後ろから直撃する!木っ端微塵とはこのことである!

ユユは銃とナイフをしまい、子どもに歩みよってくる。
「ボウズ、これでいいか?」
「うん、ありがとう、お兄ちゃん!」
「さあ、家へ送ってやる」
「お兄ちゃん待って!」
子どもは叫んだ。
「お願いだよ!僕を冒険者にして!」
ユユは複雑な表情を見せながら、
「いや、しかしだなあ、父さんの敵もとったわけだし……」
そんなユユに子どもはにっこりと
「だって冒険者は自由なんでしょ?なるのもならないのも自由。それに冒険者は子どものお願いなら全力で叶えてやるんでしょ?」
『ハッハッハッ、ユユ、お前の負けのようだな』
フォレストウルフは楽しそうにユユを見る。
ユユはというと、複雑極まりないといった感じである。
「ちっ、仕方ねえな、ボウズ、名前は?」
「シリウス!」
「いい名前じゃんか!」

ユユがこの後、「風刃の銃士」と呼ばれ、at home四柱となるのは1年後のおはなし……


※この物語は全てフィクションです。場所名や人物名は全て同名なだけで、実際のプレイヤーとは異なります。