「範囲攻撃が来る!」
アトリアの声に呼応する、もうひとつの声……
「任せて!サンクチュアリ!ハイネスヒール!」
聖魔法の重ねがけ……ただでさえ使い手の少ない聖魔法をダブルスペルで使える者などソフィア冒険者多しと言えどひとりしかいない。
「ありがとう、らんな!いっくよー、サテライトアロー、クロスファイア!」
ファンダシオンの2つのスキルは狙ったように同時に命中する。ソフィアで銃士と言われたら、彼の名前が挙がらないわけがない。
彼女たちに立ち向かう魔物たちのほうがかわいそうになるくらいである……
クエスト後、ソフィアの酒場に集まった3人、
「シオン、長い間お疲れ様!そして、おめでとう!」
そう、ファンダシオンはこれが冒険者として最後のクエストだったのだ。彼のたっての願いでアトリア、らんなはパーティを組み、友として新たな門出を祝うことにしたのだ。
「ありがとう、アトリア、らんな!」
にこやかな表情のファンダシオン、そんな彼にアトリアは……
「しかし、シオンが宮廷騎士団入りとはねー」
らんなも続く、
「ほんとに!宮廷騎士団も落ちたわね!」
「お前らひどっ!」
ケラケラと大笑いする3人、それぞれギルドも異なるが、ずっと一緒にやってきた仲間だ。
らんなは、ギルド「espoir・tone」のギルドマスター。ファンダシオンは宮廷騎士団。そして、アトリアもギルド「at home」のマスター。立ち位置は違えど、これからも仲間だ。
「ところでアトリア。サブマスターそろったらしいじゃないか」
ファンダシオンが唐突にたずねる。
「うん、まあね……」
「どしたの?クリボーさん、ナナミさん、ユユさんの3人でしょ?しかも3人とももう覚醒してるんでしょ?じゅーぶんじゃない!」
らんなはギルドマスターとしては先輩だ。彼女の言うことは最もだ。
「でもね、足りないのよ、大事なところが……らんな、レイドパーティのクエスト受けたことあるでしょ?」
「もちろんあるけど…………あっ!」
何かに気づいたらんなだが、それより早くファンダシオンが答える。
「ヒーラーか!」
「そう、そこだけは譲れないの。だから、あとひとり、ヒーラーが必要だわ」
困ったという表情をするアトリア。だが、らんなとファンダシオンはにこやかな表情だ。そして、らんなが代表するかのように答える。
「いるじゃない!優秀なヒーラー!私たちがよく知ってる人が!」
「えっ?それって、まさか…………」
ソフィア冒険者組合……駆け出しの冒険者はここで冒険者の心構えを教わり、職業別に基本を教わる。アトリアはここに来ていた。ある人物に会うために……
「アトリア様、こちらへどうぞ」
受付嬢に案内され、関係者以外立ち入り禁止の区域へと進む。中庭らしきところに出ると、そこには若い冒険者たちと1人の魔法使いがいた。魔法使いはアトリアを見つけると、
「アトリア、ごめん、ちょっと待っててー」
彼こそはマルス。アトリアの古い友であり、ソフィア冒険者組合のヒーラー職の長である。長である彼は、若い冒険者たちを育てることが任務だ。
「いいかい?ヒーラーはひとりでは戦えない。でも、仲間を助けることができるのはヒーラーだけなんだ。だから、回復さえしていればいいわけじゃない。状況を把握し、メンバーを深く知り、戦況を読んで、戦術を立てるんだ!いいね?」
穏やかに諭すように話すマルス。
「はい、ありがとうございました!」
「では、今日はここまで。お疲れ様。」
帰る若い冒険者たちの顔は輝いていた。アトリアにも眩しいほど。マルスが作り出したものなのだろう。
「久しぶりだねえ。ごめんね、昨日は顔出せなくて」
マルスは歩み寄りながら、声をかけてきた。
「いいの、いいの、忙しいんでしょ?」
水楓(すいふう)の魔導師のふたつ名を持つ彼は、すでに精霊使いであり、らんなと同じ聖魔法の使い手でもある。当然目的はひとつなのだが……
(これでうちに来てくれっていうのはちょっと難しいかなあ……)
「今日は近くに来たからちょっと寄ってみたのよ。元気にしてるかなあと思って……」
「ありがとう!元気にやってるよ!アトリアもギルドマスター就任おめでとう!がんばれよ!」
他愛のない挨拶で終わってしまった……
数日後、マルスのもとへ客人が訪れた。
「マルス先生!元気してた?」
「らんな!からかうのはやめてくれ」
らんなは組合の副長でもある。来ること自体はおかしくないのだが、その表情はおかしい……明らかに。
「どうした?何かあったのか、らんな」
「アトリアたちね、討伐クエストに行ったの」
「そりゃ行くだろ、ギルド作ったんだし」
「レイドパーティのね……」
らんなの一言にマルスは青ざめた。戦況を読めるヒーラーなら当然の反応だ。
「マルス!あんたこんなとこで何してんの!」
珍しくらんなが本気で怒った。だが、その後、いつもの笑顔で
「私たちは仲間を守るためにいるんだよ。行きなさいよ。組合本部長には後で一緒に謝ってあげるから」
「ありがとう、らんな!いってくる!」
レイドパーティはすでに戦闘に入っていた。7人がかりにもかかわらずビクともしない……
「冒険者よ、我が名はザッフィローガ。命が惜しくば去れ」
「黙れ!ここから先には行かせない!」
アトリアが叫ぶ。
「やめておけ、自分の命は惜しいであろう?去れば、お前らの命は見逃してやる」
(自分たちが突破されれば街がやられる……でも、ギルドメンバーたちの命が……)
「そうか、ならばひとりずつ死んでもらうとしようか、お前がギルドマスターか」
ザッフィローガは、その腕を振り上げ、アトリアに襲いかかる。
「アトリア!!」
メンバーの悲痛な叫び声。だが、アトリアには防ぐ魔力が残っていない。
しかし、その攻撃は寸前のところで止まる。
「これは、聖魔法の防護陣か!」
ザッフィローガはレイドパーティの奥をにらむ。当然、そこにいたのは、
「マルス!」
「ごめん、遅くなった。みんな無事?」
マルスはその笑顔を一変させ、ザッフィローガをにらみつける。
「俺の仲間を本気にさせたらどうなるか教えてやる!みんな、もう動けるだろ?」
「えっ、体力と魔力が回復してる……」
クリボーはマルスと初対面なので、驚きを隠せない。
「マルス、本気モードだね」
今まで苦しそうな表情だったナナミには笑顔さえ見える。
「あーあ、一番怒らせたら怖い人を怒らせちゃった」
ユユもマルスとは付き合いが長い。
マルスは、らんなのようにダブルスペルは使えない。だが、彼には彼にしかできないものがある。
「ナナミ、ユユは本体の取り巻き2体から先に攻撃!討伐したら、レーレ、桃夏、ダイの3人は本体集中!アトリアとクリボーで魔物の攻撃を防御!回復は俺がやる!頼むぞ、みんな!」
マルスの指示で一斉に動き出す。そう、戦況を正確に読んで、的確な指示を出せること。彼にとって、ザッフィローガの討伐方法を見つけることなど造作もないのだ。彼の能力のひとつである。そして、
「なっ、サンクチュアリ?グロリア?ブレイブオーラ?クイックモーション?マナリチャージ?ハイサイクル?ハイネスヒールまで!いつの間に!」
「クリボー、こいつが水楓の魔導師マルスだ」
驚くクリボーにユユが答える。
そう、これが彼の真骨頂。マルスは全ての回復、補助魔法を無詠唱で唱えるのだ。
「ヒーラーは欲張りで、わがままなのが多いから。街も仲間も全部守りたいわけよ」
ユユのクロスファイア、ナナミのサテライトアローであっという間に2体沈み、ザッフィローガを追い込む。
「マルス、さすがね!」
アトリアにも余裕が出てきたようだ。彼女とクリボーへのダメージはマルスがヒールで相殺している。ザッフィローガはたまったものではない。
「なんなんだ、お前は。ただの魔法使いではないな」
ザッフィローガをにらみつけるマルスの目は右目が青く、左目は金に輝いている。
多重精纏衣者……マルスは複数の精霊を宿す精霊使いなのだ。
「お前が水楓の魔導師……か……」
ザッフィローガは白く光り、砕け散った。
「ふう、終わったかな」
マルスの目は元の色に戻っている。
「アトリア、俺も入るぞat homeに!」
「え?冒険者組合のほうはどーすんの?」
「両方やる」
「無茶苦茶な!」
「何とかなるだろ……」
そこで、ユユが入ってくる。
「マルス、よく組合本部長が許してくれたなあ。どうやってあのじいさん説得したんだ?」
「あ……やべ……らんな置いてきてるわ……」
「うわっ、マルスひどーい」
ナナミがすかさず茶化す。さっきまでの激戦は嘘のように笑い声が響く。アトリアはマルスに向き直り、
「ようこそat homeへ!サブマスター、マルス!」
※この物語は全てフィクションです。場所名や人物名は、同名なだけであり、実際のプレイヤーとは関係ありません。