ソフィアの街にも春が訪れようとしている。日々の街並みに変わりはないはずなのに全ての色がはっきりと明るくなってきているように思える。冒険者たちも心なしか動きが軽やかに見える。
ソフィア冒険者組合……ここだけはそんな春の訪れを楽しむ余裕はなさそうだ。春になり、冒険者が活動しやすくなるということは、新規登録の冒険者も増えるということなのだ。となると当然……
「え?これ全部今日中の手続き書類?」
書類の山を目の前に固まるマルス。秘書官は、気にすることなく冷静に言ってのける。
「はい、よろしくお願いいたします」
大きなため息をひとつついたマルスは、半ば諦めに近い感じで
「わかった、やっとく……」
と答える。が、いつもなら戻る秘書官が今日は何か言いたげである。これ以上無理難題を投げつけられては困ると思いつつも無視するわけにはいかなそうである。
「どうした?まだ何かあるのか?」
秘書官は迷っていたようだが、
「実はですね、異国の方が冒険者登録に来てまして、どうしたものかと……」
「え?それは本部長に相談すれば解決するんじゃ?」
「それが……マルス様に一任するから、彼に従うようにと言われまして……」
(あんのじじい!めんどくさいこと投げつけやがったな!俺はヒーラー職部門の担当だってのに!)
愚痴をこぼしても今更である。
「わかった、とりあえず会おう」
執務室から階下に行くと、応接スペースに1人の男が座っていた。男はマルスを見つけると立ち上がり、深く礼をする。
(ふうん、この男強いな、刀使いか……タカトシさんと同じか)
マルスは男の持つ気配を感じた。銀髪に細身の長身、華奢に見えるが鍛え抜かれた体躯、ただ者ではなさそうだ。
「お初にお目にかかる、リセと申します」
「マルスです、よろしく、敬語は不要だよ」
「気遣いありがとう、助かる」
「冒険者どうしで敬語は使わないしね」
マルスは続けて話す。
「で、どうしてここへ?わざわざ異国の地を訪れるってのも最近では珍しい話だ」
直球である。マルスはこの男には小細工は必要ないと判断したようだ。この人を見抜く目のおかげで使われるわけだが……
「俺は傭兵稼業をしていた。国から国へと渡り歩いて……人の殺し合いをたくさん見てきたし、してきた。もうそれは終わりにしたい。そう思って、ここへ来た」
「なるほどね……わかった!リセのことは、あのじじ……じゃなかった、本部長に任せると言われてるから、俺が冒険者としての身分を保証するよ」
「ありがとう、助かる」
「んー、今更新人研修は必要ないだろうしなあ……どーすっかなあ……リセ、この後空いてる?」
「空いてはいるが、何か?」
「じゃー、ちょいと腕を見せてもらっていいかな?」
「かまわないが、どうやって?マルス殿は今の話を聞くにヒーラーとかいうやつなのだろう?」
ニヤリとしながらマルスは答える。
「あー、敬称はいらないよ、マルスでいい。冒険者はパーティを組んで魔物と戦うんだ、だからパーティを組んでもらう」
横から秘書官があわてて口を挟む。
「マルス様、いけません。今日中に処理しないといけない案件が……」
「わかってる。他のやつらにお願いする。俺はリセのことだいたいわかったから。リセ?パーティ組んでもらうんだけど、斬釘截鉄は使っちゃだめだよ?」
「!!!」
(マルス、この男何者?なぜ使えると知っている?)
リセは表情こそ変えなかったが、内心は驚愕である。
「わかった、マルス、お前何者だ?」
「そのうちわかるよ、じゃあ、頼むね。秘書官、例のクエストをat homeのアトリアに依頼して!」
「承知致しました」
2時間後……マルスの執務室にアトリアはいた。
「マルス、フラキブラキの討伐に新人冒険者を連れて行けだなんて無茶苦茶よ!」
「アトリア、俺はリセをギルドに入れたい。あいつは強い!心も体もな」
「マルス……わかったわ。あなたがそこまで言うなら、1度だけ見てあげる」
「今回のクエストはフラキブラキの討伐よ。新しい冒険者を紹介するわ、リセよ、刀使いだそうよ」
「よろしくお願いする」
「ナナミよ、弓使い。よろしくね」
「私はアトリア。ギルドat homeのマスターよ」
「ほう、冒険者というのは、美人が多い。クエストの後に食事でもいかがですかな?」
(こいつ、軽い……)
アトリア、ナナミの心の声はおそらく同時だったと思われる……
フラキブラキ……ベテランの冒険者たちでも苦戦はまぬがれないやっかいな魔物……
「私が攻撃を引き受けるから、2人で攻撃をお願いね」
アトリアはフラキブラキとの距離を縮め、引きつける。ナナミ、リセは互いに技を駆使して攻撃を仕掛けていく。
「波動刃!」
「サテライトアロー!」
(このまま距離をとりつつ攻撃すれば、何とかなりそうだな、れいの技は使わずに済みそうだ)
リセがそう思った次の瞬間……
「きゃあああ!」
無数の射刃にアトリアが刻まれる。何とか耐えたようだが、アトリアは傷だらけになっている。
「なにあれ!あんなの防ぎきれないじゃない!」
ナナミにも焦りが見える。
(くっ、もう一度あれが来たらアトリアは死ぬ……!あれを使えば……しかし、あの技は……)
帝国の傭兵時代……俺は目の前の相手をただ斬り伏せるだけだった……
「死ねえ、帝国の傭兵!」
周りを無数に取り囲む敵兵……そんな敵兵をどれだけ斬ればいいのか……
「斬釘截鉄!」
カチン!と刀が鞘に収まったときには、周りに無数の死体が転がっている……敵の攻撃を全て弾き落とし、なおかつカウンターの斬撃を浴びせる……人を殺すためだけの技……360度の攻撃を防ぎ、360度全ての方向に斬撃を浴びせる……
(だめだ!あの技を使えばアトリアも巻き込む!)
リセは悩んでいた。殺し合いの刀はふるいたくない。そのために冒険者になったのだ。
「リセ、何か方法あるんでしょ?あるんならやってみて!アトリアを助けて!」
ナナミが叫ぶ。
「しかし、俺の刀は人を殺してしまう……」
「違う!あなたは冒険者でしょ!その刀はもう人を殺すためのものじゃない!人を守るためのものよ!」
リセははっとなる。
(俺にも人を守ることができる?この血にまみれた手でも人を守れる……?)
リセは覚悟を決めた。
「縮地!」
フラキブラキとの距離を詰める。
(斬り伏せは360度いつも通り、カウンターの斬撃は前方の魔物だけに集中させればあるいは……)
フラキブラキが体を回転させる。
(来る!)
「斬釘截鉄!」
リセの光輝く刀がフラキブラキの射刃を打ち払っていく。そして、その打ち払った斬撃がひとつの斬撃となりフラキブラキに集まっていく。
カチン!鞘に刀が収まると同時にフラキブラキは無数の斬撃に切り刻まれる……
「す、すごい!こんな刀の使い方、初めて見た……」
側にいたアトリアは呆然としている。リセは愛刀を握りしめ、今までになかった湧き上がってくる感情に浸っていた。
(これが人を守るということ!人を守るための力!)
「どう?これが冒険者よ!気持ちいいでしょ?」
近寄ってきたナナミの声にリセは
「いいものだな。人のために力を奮うというのは」
クエストの帰り……アトリアはリセに向かい、
「リセ、うちのギルドにおいでよ!」
「しかし、俺は……」
「リセ、あなたはもう冒険者!傭兵ではないのよ!」
ナナミも横から声をかける。
「これから人を守るためにその力を貸して欲しいの。リセなら、これからたくさんの人を守れるわ!」
しばらく考え込んでいたリセだが、
「そうだな。美人2人に誘われて断る道理などない。よろしく頼む」
(やっぱ軽いわあ……こいつ……)
この心の声も2人同時であったことは言うまでもない。
彼は後に「比翼の剣士」と呼ばれ、その刀捌きはソフィアでも三本の指に入る冒険者として名を挙げられるようになる……
※この物語は、全てフィクションです。場所名や人物名などは同名なだけであり、実際のプレイヤーとは異なります。