ギルドメンバーの勧誘……ギルドの業務のひとつである。能力の高いメンバーが揃っていることはもちろんだが、人数もクエスト依頼に影響してくる。レイドクエストと呼ばれる依頼になると、最大16名でクエストに挑むこともある。それだけに能力がある者をギルドにより多く抱えていることが重要になる。
勧誘する方法はいくつかあり、「冒険者組合へ募集を出す」「個人のつてを頼る」「直接スカウトする」などがある。特に「直接スカウトする」方法は能力の高い冒険者に限られ、フリーランスの冒険者にマスターないしはサブマスターが交渉するもので、その条件は多岐にわたるため、経験のあるマスターでも成功率は2割といったところだ。しかし、成功すれば、ギルドにとって大きな戦力となることが多く、交渉人を置くギルドもあるくらいだ。
その日、アトリアはあるパーティに参加し、ソフィアの街付近の魔物排除をおこなっていた。
「リン、そっちはどう?」
「だいたい片付いたよー」
アトリアのソロ時代からの友のひとり、リン。薄紫の長い髪に合わせた紫がかった着物、端正な顔立ちに、大きな瞳、撫子とは、このような美人を指すのだろう。そして、細身の長剣。大剣使いではあるが、通常想像する大剣とは異なり、切れ味と振りやすさを重視した剣だ。その姿があまりにも優雅であることから『紫蘭(しらん)の乙女』の異名を持つ。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」
ソフィアの冒険者組合。依頼完了報告のため、2人は訪れた。
「おい、あれリンさんじゃねえ?」
「ほんとだ、相変わらず綺麗だなあ」
「あんな人とパーティ組みてえ……」
ボソボソと聞こえてくる声……リンにとってはうんざりである。
「隣にいるの誰だ?」
「え?お前知らねえのかよ、ギルドat homeのマスターだよ。何でも3度の飯より昼寝が好きだとか……ひっ!」
言い終わる前にアトリアの鋭い眼光はその冒険者に向けられていた。
「あははっ、アトリア、噂になってるねえ。あんたもマスターなんだねえ」
「ちょっ!リン、笑い事じゃないのよ!ほんと勘弁してほしいわあ……」
「あたしとフリーランスしてるころよりいい顔になったと思うよ。ちょっと羨ましい……」
「リン…………」
冒険者組合を出ようとしたところで呼び止められた。
「アトリア!」
「マルスじゃないの!終わったの?」
「ああ、やっとね……あんのじじい、なんでもかんでも投げつけやがって……」
(この人が水楓の魔導師マルス……らんなと並び称される稀代のヒーラー……)
「あ、マルス。こちらリン、私のフリーランスのころからの友だち!」
「リン、こちらは……」
と言い終わる前に
「知ってる。水楓の魔導師マルス……ソフィアの冒険者で知らないやつはいないでしょ」
「はじめまして、よろしくリン!」
「こちらこそ、マルス」
「アトリア、俺朝から何も食ってねえのよ。メシ食いに行かね?」
「いいね!リンもどう?」
「んー、あたしは遠慮しとくわ、また誘って」
「そっか、わかった」
3人はひとまず冒険者組合を出て、食事処もしくは帰途につく。はずだったのだが……ドン!という衝撃とともに15メートルほど先の地面が砕ける。
「まさか!」
マルスは精霊の力を発動させ、付近を見る。
「街の防護結界が破れてる!魔物だ!」
「なんてこと!」
言うが早いか、アトリアもリンも抜剣している。入ってきた魔物はミノタウロスだ。
「くっ!俺は結界を張り直すので精一杯だ。アトリア!街の人を守れ!リン、ミノタウロスを頼む!」
「え?私?初対面の私に任せるなんていい度胸してるわね?」
「いやいや、関係ねーだろ、同じ冒険者仲間だし!信頼しないで背中なんて預けらんないだろ!」
「!!!」
リンはニヤリと笑った。
(ヤバい……楽しいかも……不謹慎だけど……)
しかし、ミノタウロスはマルス目指して一直線に向かってくる。結界を壊す方法を本能的に理解しているのだ。しかし、マルスは動こうとせず、結界維持に集中している。
(そんなの見せられたらやるしかないじゃない!)
足音すらも聞こえないほど軽やかに、しかし高く、そして美しく飛び上がるリン……
「背中預けられて、頑張らない冒険者なんているわけないじゃない!」
「メテオブレイカー!」
リンのメテオブレイカーは音もなく落ちてきた。ミノタウロスは動きを止め、リンはその長剣を収める。
カチン!
と、同時にミノタウロスは真っ二つに割れた。
「ありがとう、リン!助かったよ!」
マルスは結界の修正を終え、リンに向き合う。
「どういたしまして。こっちこそ、おかげで思い出せたわ、背中を預けられる心地良さを。いいギルドね、at home。羨ましいわ」
戻ってきたアトリアが唐突に言いだす。
「リン、ウチにおいでよ!」
「え?」
「リンなら、わたし背中を預けられるよ!」
「アトリア……」
「条件があるわ」
「なに?」
「わたしもあなたたちに背中を預けていいなら」
アトリアとマルスは見合わせてニヤリとする。2人同時に答える。
「もちろん!」
マルスは続けて、
「よし決まり!じゃあ、リンも一緒にメシ食いにいこうぜ!」
リンはいたずらっぽい笑みを浮かべて
「あら?マルス、アトリアだけじゃなくて私もナンパする気?」
アトリアも悪ノリする
「おやあ、リセだけかと思ったらマルスもか!」
「ちょっ!勘弁しろよ、お前ら!」
「冗談よ。マルスのおごりなら行ってあげる!」
「マルス、あたしもー!」
「やれやれ……高くつきそうだな、討伐報酬……」
「紫蘭の乙女」その異名が、彼女の美しさではなく、彼女の剣術を表す異名となるのは、この後すぐのことである……
※この物語は、全てフィクションです。場所名や人物名は同名なだけであり、トーラム内のプレイヤーとは異なります。