~キモモミツスイ~ 届かなかった"最後のラブソング” | ま、いっか。のブログ

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1987年に絶滅したとされるハワイ島の固有種、キモモミツスイ。

その美しく、悲しい最後の音声が残されていた。

 

 

動画1:キモモミツスイ、最後の求愛の声

1985年にカウアイ島の奥地で撮影されたキモモミツスイの最後の個体(オス)。既に絶滅し、いるはずのないメス鳥に向けて求愛を続ける姿が心苦しい。
 
 

動画2:今、地球では1年に100万種の動物が絶滅しており、多くの鳥の歌が”殺されている”

 

 

 

”ピポパッ…” 


もしも就寝前に、深い森の奥からこんな幻想的な声が聞こえてきたら。

きっと私なら、知らず知らずのうちに深い眠りについてしまうかもしれない。

なにか不規則な笛を吹いてるようで…どこか心地良い音色。

 

でも、なぜだろう。この声には今にも消え入りそうな、何か寂しくて、もの悲しさを含んでいるように感じてならない…。

 

じつは、この声はオスがメスを求愛する時のものなのだが、音源にはメスからの返事は入っていなかった。

一体、どういうことなのか。

 

19世紀にはごく一般の鳥として、カウアイ島で見ることが出来たキモモミツスイ。しかし19世紀後半には急速に個体を減らし、20世紀初頭には手で数えるほどしかいなくなってしまった。1981年には、遂に1組のつがいを残すのみ(2羽)となり、翌年、ハワイを襲ったハリケーンでメスが死んだと推定された。これにより、オス1羽が最後の個体となったのである。

 

そしてこの残ったオス鳥が最後に目撃されたのは1985年。それ以降は探しても探しても見つからず、鳴き声すら聞こえなくなってしまった。しかし、誰もが諦めかけた2年後の1987年、キモモミツスイの声を聞いたという報告を受け、現地に赴いた研究者が録音に成功した。先の動画は、その時の音源だったのである。

 

 カウアイ島の切立った大渓谷を覆う深い熱帯雨林の奥で、ただ1匹鳴き続けるオスの悲しい笛の音色だけが夜の静寂を包んでいる。この声の主は、もう地上に存在しないであろう仲間たちのことをいざ知らず、そして決して戻ってくることはない求愛相手の返事を何年も何年も待ち続けていたのだろうか。先に私が感じた悲愴感や哀愁は、もしかしたら彼の心情そのものだったのかもしれない。

 

そしてこれ以降、キモモミツスイの声を聞いた者はいない。

ゆえにその答えを得ることも永遠に不可能となってしまった。

 

13年後の2000年、国際自然保護連合(IUCN)は正式にキモモミツスイの絶滅を宣言した。1900年代前半まで、島で普通に聞くことができたと言われるこの幻想的な鳴き声を、我々はもう二度と聞くことは出来ない。

 


キモモミツスイは蜜を吸うフサミミツスイ科の鳥で、ハワイには他に3種存在していたが、19世紀以降の大規模な土地開発や、豊潤な黄金色の毛並みが好まれて乱獲されたため、1930年代にほぼ絶滅してしまった。一方でカウアイ島の土地開発が比較的遅く、20世紀に入ってからだったため、人里離れた原始林の奥地の深いところを住処としたキモモミツスイはなんとか戦後まで生き延びることが出来た。また、他の3種と違ってハンターの標的にされた黄金色の毛並みが、足の太ももの一部分にしかなかったことも幸いしたと思われる。

 

しかし、他の3種を襲った鳥マラリアだけは別だった。

1800年代に貯水池の水や船舶に紛れてハワイに運ばれたと考えられている蚊がマラリアを媒介すると、免疫を持たないミツスイ科の鳥たちはあっという間に駆逐されてしまった(メスの蚊にさ刺された場合、ミツスイ科の鳥の場合、数時間以内に命を落とすこともあると言われており、死亡率は最大で90%にも上るという調査報告もある)。気候変動に伴う気温の上昇により、ハワイ固有種の鳥が生息する高地に蚊が移動しはじめたことも原因だ。これは現在進行形の問題でもあり、実際2種のミツスイ科の鳥が絶滅にひんしている。

 

 

 リンク:Kauai Oo / Moho braccatus – World Bird Names

 

 

 キモモミツスイ 

  現地名:Kauai Oo /学名:Moho braccatus

 

ハワイのカウアイ島に住んでいた固有種。20センチほどの小さい鳥で、名前は脚の毛が豊かな黄金色(キモモ)を持っていたこと、そして花の蜜を吸う習性をもつミツスイ科から命名された。また、上の画像ではわからないが黄色い虹彩の綺麗な目をしていたと言われている。同じ種族は4種いたが、いずれも乱獲や森林伐採、蚊を媒介とする病気、そして度重なる巨大ハリケーンの襲来で20世紀半ばまでに、キモモミツスイ以外の3種は絶滅。そして1987年、デビッド・ボイントンによって記録された音声記録をもって、科目すべてが地球から姿を消した。

キモモミツスイは非常に警戒心が強く、人間の居住地域では過去に1度も目撃されたことがなく、人里離れた熱帯雨林の奥深くでしか確認されていない。この為、人間に発見されず、わずかに生存してる可能性もあるが、特徴的な大きな鳴き声を持つこの鳥は、過去何度かの大規模な捜索でも見つからなかったこと、そして1980年代後半に発生した2つの巨大ハリケーンがハワイに与えた被害が甚大であり、生存は極めて困難であると言わざるを得ない。

2000年には国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅宣言され、アメリカ合衆国魚類野生生物局(the US Fish & Wildlife Service)も2021年に絶滅宣言を提案したが、キモモミツスイが1940年代以降2度の絶滅宣言の後に再発見されていること、カウアイ島にわずかながら人間の未踏の地があることから、きわめて少ないながら、わずかな希望をもってDefinitry Extinctionではなく、Probably Extinctionと考えられ、絶滅ではなく絶滅危惧種に指定されている。

 

 

キモモミツスイが住んでいたハワイ州カウアイ島

 

 

先の動画で専門家が、今後数十年で地球上の生物の絶滅速度は加速し続けるだろうと警告していた。過去と比較して1000倍の速度で地球から姿を消していくだろう、と。鳥たちの”殺された歌声(Killer song)”はもう永遠に聞くことが出来なくなるのだ。

 

19世紀後半までニュージーランドに多く生息していたワライフクロウやカロライナインコ、そして18世紀には推定50億羽という史上最も多く生息していたとされるリョコウバコ。数の多さから簡単には絶滅しないだろうと思われていた彼らは、21世紀を待たずにすべて地球から姿を消してしまった。特にリョコウバコは、1878年にはまだ推定で10憶羽いたものの、1890年には観測が困難となるほど個体数が減少し、1906年に野生種が絶滅した。しかしキモモミツスイのように生態系の変化に対して、極めてシビアな反応をみせる種は、仮に人間の手による環境への介入がなかったとしても、活発化する活火山の影響や気候変動の影響、疫病により、遠からず自然淘汰される運命だったのかもしれない。

 

今我々が日常当たり前のようにみる鳥たちも10年、20年後には見られなくなる日が来るのか。そして我々人類という”種”も、決して他人事とは言えないのだ。