「丈瑠様は、ヤキモチなど妬いてはくださいません」
「栞殿?」
少し寂しそうになった栞の声に、彦間が怪訝な顔をする。
「丈瑠様は私が行くところがなくて、可哀想だから、屋敷に置いてくれてるだけではないのでしょうか?」
栞が、ずっと心に抱えていた不安を彦間に話す。
「丈瑠様は私じゃなくても、家臣の誰かがこうなっても、きっと同じことをされました」
栞はあんなに丈瑠と仲良くしているのに、許嫁でなくなり、曖昧な関係が不安なのだ。
そう気付いて、彦間が優しく問う。
「殿は、栞殿に触れませんか?」
「えっ」
栞の手が止まる。彦間が盗み見ると、赤くなって俯いている。丈瑠が栞に触れている事は百も承知だ。
「殿は私が育てましたので、男女の仲に関しては、時代錯誤な程お堅い。殿は女性に簡単に触れたりいたしません。茉子やことはにも、栞殿に対するような態度は取ってはおりませんぞ」
栞が、また彦間の腰を揉み始める。少し力を入れて、彦間が唸る。
「でも、それも私がそう望んでいるからだけかもしれません」
「栞殿」
彦間がため息と共に名前を呼ぶ。
「殿は、もし誘惑されたとして、それに乗るように見えますか?」
栞が首を振る。
「もっと自信をお持ちください。直接聞いてみては。案外簡単に答えるやも」
栞がまた首を振る。
「怖くて聞けません。私は今とても幸せです。今まで生きてきた中で一番。だから、今の関係が壊れるより、曖昧なままでも今のままでいいのです」
「殿は割と、分かりやすい方ではございませんか?思っている事が顔に出やすい」
栞も頷く。だから丈瑠の事は、大体聞かなくても分かる。
「それでも殿のお心は分かりませんか?」
「分かりません。分かりそうになっても、自分に都合よく考えてるだけかもしれないと思うと」
「栞殿、もう結構です」
彦間が腰のマッサージを断り、起き上がる。さっきは立つのもやっとだったのに、今度は一人で起きられた。少しは効いたようだ。