ごはん、味噌汁、きゅうりのぬか漬け、切り干し大根の南蛮漬け、ブロッコリーサラダ、鯵の干物

身長195センチ、体重95キロ…“史上最強のフードファイター”ジャイアント白田43歳が「大食いは才能8割、努力2割」と語る納得の理由

平成の大食いブームをけん引し「史上最強」と呼ばれたジャイアント白田(43歳)。TV番組「元祖!大食い王決定戦」や「フードバトルクラブ」など数々のフードファイトを制した背景には、過酷なトレーニングがあった。一世を風靡した大食い大魔神に、独自のトレーニング理論や知られざる大食いのコツ、自身を「努力家」だと語る理由を聞いた。(全3回の特別インタビュー/#1、#2からの続き)

 フードファイターの幼少期を紐解いていくと、物心がついたときには食欲が旺盛で、親や周囲を驚かせていた……というエピソードがつきものだ。

 白田もその例に漏れず、幼い頃からすでに大食いの片鱗を見せていたという。

「小学生の頃からよく食べていたと思います。回転寿司でいえば、中学生で30、40皿くらいは食べていましたね。親にもちょっと嫌がられて、家を出る前に菓子パンを渡されるんですよ。子どもなんで『やったー、おやつだー』って食べてしまった後に寿司屋に連れていかれることが多々あって。逆に『余計食ってやろう』と(笑)。

 でも、やっぱりどこかで『あなた食べ過ぎよ』ってストップされるので、胃の限界まで食べることはなかったですね。クラスで一番食べられる、というくらいのテンションでした」

大食いは「才能8割、努力2割ですね」

 白田の場合は生まれ持った大食い体質に加え、幼少期からの食生活によって、フードファイターの土台が築かれたようだ。

「うちの親父はものすごい酒飲みで、やたらめったらおかずが豊富だったんですよ。常にメインが2、3種類あるような豪華な食卓でした。でも、いっぱい作っても結局余るじゃないですか。もったいないから全部食べてるうちに、生活習慣として大食いになっていたんじゃないですかね」

 フードファイターの資質は、生まれつきの体質に依るものが大きいように思える。一流のアスリートの多くは身体的な条件に恵まれており、足りない資質を努力でどれだけカバーできるかは競技の特性によるだろう。フードファイターでいえば、才能と努力のバランスはどの程度なのだろうか。

「才能8割、努力2割ですね。トレーニングに耐えうる胃袋があるのか、トレーニングを積んでどれだけ胃が伸びるのかは生まれ持った体質が大きいですよね。僕の場合は身体が大きい分、胃が広がるスペースが大きいじゃないですか。

 その点でいえば、女性は男性より体格も小さいし、子宮という臓器が一つ多い分、どうしても男性より不利になってしまうと思うんです。ただ、女性の方が圧倒的に胃の柔軟性はありますよね。三宅智子さんなんて妊娠中みたいにお腹が伸びますから。その柔軟性もやっぱり生まれ持ったものだろうし、僕には真似できないですね」

「努力しないと、胃の容量を保てなかった」

 身長195センチ、体重95キロの日本人離れした体躯と類まれなる強靭な胃袋。数々の猛者たちの中でも頭一つ抜けた存在である白田は、大食いの才覚の塊のように見える。だが、白田は自身を「努力の人」と表現した。

「僕は調整期間が長いことで有名なんですよ。例えば(小林)尊は1カ月もあれば水だけで十何キロという胃の容量を作ってしまう。彼いわく、胃にもマッスルメモリーがあって、一度伸ばしてしまえば、水だけでバーンと膨らませることができる。でも僕は大食いする機会がないと、胃がどんどん硬く小さくなってしまうんです。2005年に大食い番組が復活した時も本当に苦労しました。

 引退して数年後に、過去の大食いチャンピオンを集めた最強戦のオファーを受けたときは、2カ月くらい調整期間があったんです。1カ月で8キロくらいまで胃の容量を増やしたけど、そこから全然伸びなかった。だから僕の場合はほんとに努力を重ねないと、胃の容量を保てなかったんですよ」

 その努力とは、胃のトレーニングのことだ。アスリートが日々のトレーニングで己の身体を磨くように、フードファイターの生まれ持った胃も「食トレ」によってさらに強靭なものへと進化する。白田の場合、デビュー時点で6キロだった胃の容量はピーク時に12.5キロまで膨れ上がった。

現役時代の過酷すぎる“大食いトレーニング”とは?

 白田は「柔軟体操」を例に挙げ、独学で生み出したトレーニング理論を解説する。

「胃は筋肉なので柔軟性があって。柔軟体操と同じ理論で、胃の限界まで食べ物を詰め込んで、内側から外側に圧力をかけていって『可動域』を広げるんです。よく早食いは、身体が満腹を感じる前に食べすぎちゃうからよくないって言うじゃないですか。それを逆説的に攻めていく感じですね」

 例を挙げるとしたら、カレーと水を1対1で流し込んでいくのだという。8キロの胃の場合、カレー4キロと水4リットルを一気に詰め込み、その重みで胃を広げていく。現役時代はこうした食トレを一日一食行い、トレーニング後にはヨーグルトや野菜ジュースで胃の調子を整えていたそうだ。

 まさにダイエットに逆流する手法だが、体重が急に減らなくなる「停滞期」のように、胃が広がらなくなる“10キロの壁”があったという。

「初めは食道手前くらいまで詰め込んでいる感覚が、その後に食べ物が下に落ちる感覚があるんです。少しスペースができたと思ったらさらに食べ物を詰めて追い込んでいって、8キロくらいまではすっと伸びていったんですよ。でも、10キロを超えたあたりからはなかなか大変。100グラム記録を伸ばすために3回くらいトレーニングをこなすんです。ピーク時の12.5キロまで伸ばすのは一苦労でした」

白田がどうしても苦手な食材は…

 この体感しがたいトレーニングを数カ月積み重ね、大会1週間前には本番シミュレーションとして、限界まで食べ物を詰め込む「刺激練習」を入れていたそうだ。試合会場に行くまで食材は明かされず、あくまでイメージトレーニング。ちなみに苦手な食材を聞いてみた。

「僕は卵料理がね、ダメなんですよ……。デビュー戦がトラウマになってるんです。2回戦でほんとに最悪な気分になるくらい温泉卵を食べたのに、3回戦が卵とじのカツ丼だったんですよ。しかも卵黄が1個トッピングしてある。あの一日で100個近い卵を食べたんじゃないかな。

 卵の黄身って独特の香りがあるじゃないですか。出だしはすごく美味しいのに、食べ進めていくうちにあの個性的なにおいとコクがすごくしんどくなる。特にいい卵を使ってる親子丼はできれば避けたい食材でしたね」

「これは現役当時は誰にも言わなかったけど…」

 逆に得意料理には「ラーメン」を挙げた。スープを吸って麺が膨らみ、やけどの恐れもあるラーメンは、フードファイターが苦手とする料理の一つだが、この制し方に白田の大食い理論が光る。

「確かにラーメンは食べ方が難しいんです。例えば20杯食べるとして、1杯あたり10回すすったら、20杯で200『すすり』しますよね。1すすりに対してスープが10グラムついてきたら、それだけで2リットルも飲みこむことになるわけです。

 その1すすりについてくるスープの量をいかに減らすかが肝なんです。あとはラーメンを食べると口の中が熱くなって水を飲むじゃないですか。これは現役当時は誰にも言わなかったけど、僕はちょっとだけ水を口に含んでからすすっていたんです。そうするとすすった時の勢いで、口の中に水が攪拌されてうまいことやけどしないんです」

 引退前ラストファイトとなった2007年の「元祖!大食い王決定戦」の決勝戦の食材もラーメンだった。2連覇を決めた勝負は「心理戦でした」と振り返る。

「あえて序盤からオーバーペースで突っ込んだんです。序盤に差が開いてしまうと後々追いつけないから、周りもオーバーペースで突っ込む。その流れを作っておいて、途中でしれっとペースを落とすんです。その間も周りはペースを落とさないから、スープとか水とか摂らなくてよかったものを余計に飲んでしまう。後半でガクッとペースが落ちたところで差を詰めて、ラストで差すという感じでした」

大食い復帰の可能性を聞いてみると…?

 画面越しにはただただ食材を詰め込むように見えるフードファイトだが、マラソンや競馬を思わせるような駆け引きが行われているのだ。この一戦を機に一線を退き、すでに15年が経った。ピーク時に12.5キロを飲みこんだ胃は、現在3キロほどまで縮まった。

 一時代を作ったレジェンドとはいえ、加齢には抗えない。

「筋肉が歳を食うと衰えて、断裂しやすくなるのと同じで。実は何年か前に胃潰瘍になったんですよ。たまたま大食いのオファーが重なって、なんか胃の調子が悪いと胃カメラを飲んだら、もうちょっとで穴が空きそうになっていて。かかりつけ医の先生に『ほんまにドクターストップや! ハハハ!』って笑われましたけど。

 現役の頃は大会直前に胃炎と食道炎を起こしても余裕でトレーニングしてましたけど、さすがにもう無理するのはやめようと思いました」

 現在は大食い番組の解説や“食べられないキャラ”として現役フードファイターたちと大食い企画を共にしているが、現役生活に未練はないのだろうか。

「去年の大食い女王決定戦で菅原(初代)さんとアンジェラ(佐藤)とえびまよちゃんが戦った決勝戦は見てて胸を打たれましたし、復帰したいなと少しだけ気持ちが高ぶりました。1年がかりで調整すれば、現役と変わらない胃を作るのは可能だと思いますけど、コストや故障のリスクを考えるとね……。

 もし復帰するとしたら、マックス(鈴木)とかカワザイルとか現役最強と呼ばれる子たちを全員集めて片っ端から戦ってみたいですね。現役時代の胃を作れれば負けないんじゃないかな(笑)」

▼「大食い」のテレビ番組など、食べ物を粗末にしている感じがして好きではなかった。稀に見ると、同じようなメンバーばかりだから、これは「生まれ持った才能(個性)」だと思ってみた。なるほど、才能8割り、努力2割りに納得。そして胃袋の筋肉は鍛えられると言う。あたかも、他のスポーツの話を聞いているような気になった。野球の大谷選手が「才能8割リ」などと言ったら生意気だと言われてしまいそうだが、大食いだと生意気とは思わないのが面白い。

 「才能」と言うのはいい意味で使われることが多い言葉だが、中学時代の回転寿司の話は気の毒だと思ったが笑える。長い文章だが、思わず読んでしまった。ピーク時は12.5キロだったが、今は3キロだと言う。今も胃の容量を把握しているんですね。私?一度も意識したことないですね。ダイエットオタクの人などは把握してるのかも知れないですね。

 考えてみれば「無芸大食」という言葉があるが、「大食も芸のうち」なんですね。