貞彦最終話  『約束(後半)』

 

 

長く暮らしていた町の
懐かしいバスと見慣れた
景色は、今でも住んで
いるかのような気持ちに
なる。

バスは3つ先にあるバス停に

着き、そこから少し歩き交通量の
多い通りで空車のタクシーを
見つけて乗車した。

バスへ乗ったあたりから
ぷう助の口数が減って
いるような気がして
顔を見ると、固い笑顔で
緊張していて、タクシーの
窓を触ったりコートの
ボタンをいじりながら、
座ってはいるけど気持ちが
落ち着かない様子。

私はバッグを開き、中に
入っているものがぷう助に
見えるようにして声を
かけた。


「ねぇぷう助、持ってきたよ。
 見て」
 
「!!!取っていい!?」

「もちろん」



ぷう助は私のバッグに
手をいれ、そっと金銀メダル
を取り出して見つめる。

引っ越し前、荷物を整理
していたらずっと
お菓子の缶へ入れて、
しまっていた金銀メダルを
久しぶりに見つけ
ぷう助にも見せていた。

ぷう助は「また遊ぼう」と
約束して別れたことを
ちゃんと覚えていて、
私はぷう助に、無理かも
しれないけど保育園へ
電話をして会いにいって
いいか聞いてみよう
という話をしていた。

そして会えることが
決まったのは一昨日。

他の日でもお友達には
会えるということだった
けど、園長先生と担任の
先生は異動されていて、
先生方が全員会いに来れる

のがこの日しかないという
事だった。


「これ首からさげていい?」

「もちろん。やっぱり
 最高だね、そのメダル」

「うん!」


本当は家を出る時に
メダルを渡そうかと
思ったけど、電車で
ひっかけて切れたり
したら嫌だなと思い、
電車を降りてから
渡すことにしていて、
タクシーも次の信号を
左折したら保育園が
見えてくるというところ
まで来る。

ぷう助は首からさげた
メダルと窓の景色を交互に
見て、私も心臓をドキドキ
させながら赤信号がかわる

のを待ち、タクシーが
発車すると左前に保育園が
見えてきた。

門の内側では何人かの
子供たちが道路を見ている
ようで、そこへタクシーが
止まった瞬間

「ぷう助くんがきたーーーー!!」

と、後ろの園庭で遊んでいる
お友達たちへ向かって叫び、
遊んでいたお友達たちが
どんどん走り門のまえへ
集まってきて、それぞれに
ぷう助の名前を呼んでいる。

急いで料金を支払い
タクシーを降りると、
1人1人の顔をよく見なく
てはわからないほど
成長している当時のクラス
メイトが立っていて、
それだけで胸がいっぱい
になってしまう。

わざわざこの日のために
足を運んでくださった
先生方も、門のところまで
来てくれた。

先生は子供たちが飛び
出さないように注意しながら
門をあけてくれて中へ
入ると、みんな最高の
笑顔で笑いあう。

そのお友達たちを強引に
かきわけて1人の男の子が
ぷう助の目の前に立ち
手をぎゅっと握った。

その子の顔をよく見ると、
お別れの時に冷たい雨の降る中
窓から身を乗り出し
「ブロックやろーなー!!」
と叫んでくれた、1番の
仲良しだった子。

ぷう助とにっこり
見つめ合うと、男の子が
強く握った手をひっぱり
ぷう助を園庭へ走って連れて
いき、他のお友達も負けじと
2人を追いかけていく。


青空の下、昨日も一緒に
遊んでいたかのように
みんなと鬼ごっこをしている
ぷう助。ドッチボールや

たか鬼もやろう!と

みんなで大盛り上がり。
 

 

いつまでもそんなぷう助を
見ていたいし、明日も
また一緒に遊ぶ姿を
みたいなと思う。

 

でも時間は、あっと

いうまに終わりが
来たようで、集合写真を

撮ることになった。

桜のつぼみが膨らんで
いる木の前に集合すると、
職員室から先生が腕に
たくさんの金銀メダルを
ぶら下げながら走ってきて
みんなの首にかけてくれる。

そして、木のすぐそばにある
ジャングルジムへ子供たちが
思うままにのぼり、ぷう助は
仲良しの男の子と絆でむすばれ
ているかのように肩を組み、
ジャングルジムの前で
金銀メダルを2つぶらさげて
みんなと最後の集合写真。


ぷう助はこんな素敵な友達が

いれば、生きていると必ず

訪れる困難にたいして、

なげいたり、わめいたり、

文句をいったり、涙を流す

だろうけど最後は

自分なりの答えをみつけて

いけるのだと思う。

私も死んだ方がマシだと思う
辛い事も、嫌な事も、怒りも
いっぱいあったけど、どうやって
お礼をしたらいいのもわからない
ほどの優しさにも出会えた。

離婚を決めてからは、
悪い事と良い事がこれで

もかというほど濃厚な

人生の時間をすごしたけど、

これからはまた平穏な毎日に

なるはず。

 

だけど、そんな毎日が幸せ

であるということがよく

わかった大きな出来事

だった。

 

 

4月からぷう助は小学生。

いっぱいトラブルが起きそう

だけど、きっと泣きながら

でも私たちは越えていける。

 

 

 

       おわり。

 

 

☆いつもお読み頂き

ありがとうございます。

 

今後は、現在までに起きた事や、

登場してくれた人の現在、

書きそびれてしまったモラハラの

ことや、育児の失態、漫画化の

事などを書かせていただいてから、

更新を終わります。

 

あと1ヶ月か3ヶ月なのか

わからないのですが、

もう少しだけ、私の記録に

お付き合い頂けたら嬉しいです。

本当に有難うございます。

 

☆まだスマホがなく携帯電話が

主流の時のお話です。

 

☆個人の特定につながらないよう

一部の表現をかえています。

 

☆メッセージをたくさんいただき

ありがとうございます。

あたたかいお言葉に感謝で

いっぱいです。

お返事ができなくてごめんなさい。

 

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最後の最後までお読み頂き

ありがとうございます。

家族とすごす週末がつらい人に

落ち着く時間ができますように。