今回は、垣根仕立てにおける幼木(定植後1・2年目)の新梢管理について解説しようと思います。
剪定方法と同様によく質問されるテーマですが、これがなかなか難しいのです。
畑によってブドウの生長速度は全然違ってくるので、「樹勢」を見極めながら管理することが必要になります。
初めて苗木を植える畑では特に神経を使いますよ。
生育管理の基本的な考え方は「ワイン用ブドウ剪定講座」で説明していますので、未読の方はまずチェックしてくださいね。
さて、植え付け後の幼木管理で注意すべき点の第一は、とにかく「枯らさないこと」。つまり、水管理です。
通常、ワイン用ブドウの苗木定植は4月に行われますが、ここから梅雨入りまでが最初の注意期間。まずは定植時にたっぷり灌水し、その後は天気を見ながら、雨が降らなければ週に一度は水をやりましょう。
順調にいけば、5月の中旬ごろから芽が出てくるはず。出芽後も油断なく水管理をし、梅雨入りすれば、とりあえず一安心です。
もし5月中に芽が出てこない苗木があっても、もう少し様子を見てみましょう。梅雨明けまで待ってみて、それでも芽が出ない時は、残念ながら枯れてしまっているので諦めます。
また、梅雨明け後の急に暑くなる時期も要注意です。せっかく芽が出た苗木を枯らさないように、必要に応じて灌水しながら夏を乗り切りましょう。
と、ここまでは大前提の話。その上で、どのような管理をしていくかが本題です。今回もギヨ・シングル仕立てを例に説明していきます。
図Aのように、ギヨ・シングルでは通常3年がかりで樹形を完成させます。1年目には新梢を1~2本、2年目には新梢4~5本を育て、3年目には新梢8~10本のギヨ・シングルが完成します(※図では省略していますが1、2年目には支柱が必要です)。
ただし、これは標準的な樹勢の場合。肥沃な土壌では1年目から3~4本の新梢が伸びることもあります。そのような強樹勢の畑では、予定を1年短縮して、2年目に完成形にもっていきます。逆に、やせた土壌では樹形完成までに4年かかるケースもあります。
幼木の管理で一番避けたいのは、新梢が必要以上に太くなってしまうことです。
1、2年目の新梢はこれから主幹になる大切な枝。ブクブク太った主幹は樹勢を強くしてしまうだけでなく、貯蔵養分が少ないため凍害にも弱いです。したがって、幼木にいきなりチッソ肥料を与えることは避けましょう。土壌の肥沃度、ブドウの生育スピードを把握するまでチッソの施肥は控える方が安全です。
地力・樹勢を見極めながら、新梢が適当な太さ(8~9㎜)に生育するよう、「芽かき」で枝数を微調整していくことが幼木管理の原則です。
《1年目》
まず、苗木の植え付け時に、穂木を芽数5つ程度の長さで切っておきます。5芽からスタートし、芽かきで芽数を減らしながら調整していきましょう。ただし、一度で芽かきを済ませてしまうのは危険すぎます。特に初めて苗木を植える畑では、生育状況を見ながら2、3回に分けて芽かきします。
一回目の芽かきは、すべての芽が出そろった頃。副芽・不定芽・奇形芽(生長点がない芽)などの不要な芽だけを落とし、健全な芽の生長を促します。
その後は新梢の生長を観察しながら、7月頃までに段階的に芽数を減らしていきます。なるべく真っ直ぐ形良く伸びている枝を選び、生育が遅れている枝から取除きましょう。もし、すべての枝が勢いよく伸びているようであれば、芽かきはひかえて生長を見守ります。
この樹勢の見極めがもっとも難しい所ですが、仮に芽数を残しすぎて新梢の生育が途中で止まってしまったとしても、それはそれで良しとします。芽数を減らしすぎて、新梢が太くなってしまうよりはマシですので。
それから、1年目に実を付けることは生長にマイナスなので、花穂がついたら切り落としてしまいます。枝が垣根の最上段まで伸びたら摘芯し、副梢(わき芽)が伸びてきたら、これも切り落として長く伸ばさないようにしましょう。
《2年目》
2年目の管理では、春の剪定が重要なポイントとなります。前年の生育状況から樹勢を見極め、結果母枝の長さ、芽数を調整します。
適当な太さの新梢1~2本の標準的な樹勢(図A左)の場合、最下段ワイヤーの少し下で結果母枝を切り、新梢4~5本を目指します(図A中央)。この位置で切るのは、よく生長する先端の1、2芽を翌年の結果母枝候補として育てるためです。
1年目に芽数を減らしすぎてしまった結果、新梢が太くなりすぎて副梢もバンバン伸びてしまった場合(図B①)や、いきなり多数の新梢が伸びてしまった場合(図B②)は、かなり樹勢が強い畑です。
そんな時は、遠慮なくギヨの完成形(図A右)にします。成木と同じように結果母枝を曲げてワイヤーに誘引し、新梢8~10本を目指しましょう。
逆に、1年目に新梢1本にしたにもかかわらず、途中で生育が止まってしまったような樹勢の弱い畑(図B③)では、結果母枝を5芽程度で切り詰め、1年目と同様な管理をしましょう。
樹形が完成するまでに4年かかるかもしれませんが、樹勢が弱いことはブドウの質にとっては悪いことではありません。長い目で育てていきましょう。
また、複数の芽を残したために、どの新梢も生育が止まってしまったような場合(図B④)は、新梢がそれほど細くなければ、潜在的には適正な樹勢であると考え、標準的な管理で良いと思います。
いずれの場合も、2年目には収穫しないのが普通ですので花穂は落としますが、樹勢が強い畑では試しに収穫してみるのもアリです。その場合も、新梢1本に対して1房に調整し、早めに収穫するようにしましょう。
さて、ここまで思いつくままにいろいろ書いてみましたが、なかなか思い通りにはいかないものです。1年目におとなしかったヤツが、翌年急に暴れだすこともありますし、その年の天気にも左右されます。
臨機応変に対応しましょう。
そして、最後にもう一つ。
幼木にも農薬散布は必要です。
「1年目は無農薬でも大丈夫」と油断していた結果、べと病が大発生してしまったという話も聞きますぞ。
べと病で葉が傷んでしまうと、貯蔵養分が足りずに翌年の生長に影響が出てしまいます。収穫しない2年間は、細かく防除暦を組み立てる必要はありません。ボルドー液だけでも良いので、定期的に散布してください。
お忘れなく。