What a wonderful world and life

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イギリスでの生活や、大学院の授業、そしてphysiotherapyについて

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留学については一年ほど前に数回書きましたが、
今月修士論文の作成も終了したので、修士論文の過程の違いを少し書きたいと思います。
最後にはイギリスへの留学を薦めるかどうかについても少し言及しようかと思います。

この一年twitterなどで修士論文を書いている方の情報などを見たりしていましたが、
日本だと中間発表や、修士論文作成後に発表などあるようですが、
こちらは一切ありませんでした。

教官の指導の下で、論文を書いて提出すれば修了。
今年からは提出は全てオンラインになり、極端なことを言えば、データコレクションが終わった段階で帰国も可能です。帰国してからそのデータを元に論文を書いて、メールでのやりとりのみで卒業も可能です。友人の一人もこのようにしていました。

ちなみに論文提出のチャンスは10月、1月、3月の三回がありました。1月の〆切までに出せなかった人は、その年の卒業式に参加できないそうです。また、審査に落ちた場合には、追加でお金を払うことでもう一回提出可能になります。


早ければ、丸1年くらいで終われるのですが、私が在籍している大学では9割くらいの生徒は1年と3,4ヶ月かけて修了させていました。遅い人は未だにデータとっていたりします。


全ての行程(審査以外)が終わったいま、
イギリスへの留学(理学療法に関して)を薦めるかと言われれば、

そんなにおすすめでもないです

特に、骨関節系などの技術面の向上を求めるのであれば、アメリカやオーストラリアのほうがいいのではないかと思います。manual therapyのコースもイギリスにはたくさんありますが。
多分アメリカの院はもっと実践的だと思います。

神経系理学療法に関しては、正直なところ、この3つの国の中でというよりも、世界的に大きく秀でた国はないと思っています。脳機能の評価もまだまだ理学療法の分野では十分に進んでいないので、これからの分野なのかなという印象です。

本腰を入れて理学療法関連の「研究」がしたいのであれば、日本の大学院でも十分です。むしろ場所によっては手厚いです。神経科学などの理学療法以外の分野を専攻するのであれば、UCLなど魅力的な大学が多いのでイギリスはおすすめではあります。

また、イギリスは比較した二つの国に比べて、アルバイトがしにくいです。
私が入学した時点で週20時間しか働けず、これからも縮小されていくでしょう。
理学療法士助手としての働き口もほぼなく、介護士としても働けないことはないですが、就労時間が決められているためか、返事ももらえない場合が多いです。オーストラリアなどでは、PT助手として働いたりもできるようなのでそちらのほうが、経験を積みながら勉強ができる環境かもしれません。

理学療法士資格は比較的容易に取れます。英語(IELTS7.0以上)の能力があれば、書類を揃えるだけで申請できます。(私はとってませんが)ちなみに申請代には4.5万円くらいかかります。
申請後、約3-4ヶ月で審査が終了され、登録が完了します。
ここまでは、誰でもできますが、ここから大変なのがVISAです。
就労VISAはEU圏以外の国に対してかなり厳しくなってきています。

まずは就職先を探し、雇ってもらった上で、その病院もしくは会社を通してようやくVISAがとれます。かつ、最初は現地の人にとっても3ヶ月契約などで始まるらしいです。3ヶ月たって、信用されればさらに延長してくような形のようです。

ちなみに、PhDはフルタイムなら3年、パートタイムなら5年以上らしいです。学費はPhDはかなり安いようです。取るなら早めがいいよと勧められましたが要検討です。受けるならもう一度海外に出てみたいですが、結婚してるのでなかなかに厳しいかなぁ。

ここまできて、おすすめしない!というまさかの結論に到達してしまいましたが、
私自身はこちらに来てよかったと思っています。(説得力ないかもですが)具体的に技術が身に付いたということはありませんが、autonomy(自律性)が養われたと感じています。どのような環境でも自分でなんとか勉強してやっていけるかなという位には感じれるようになりました。
これからやらなければいけないことも徐々に見えてきましたし。多分同じ病院で働いていたままでは気づかなかったこともみえました。

イギリスかどうかは別にして、留学自体は可能であればしたほうがいいと思っていますので、これから先どんどん外に出る人が増えればと考えています。
近年では理学療法士も、脳卒中患者の、より麻痺が強い側の上肢の治療に積極的に取り組む場面が増えてきているのではないかと思います。今回紹介する論文では、上肢のトレーニングにより、バランス能力の改善が見られるという論文です。

(はじめに9
立位でのリーチ課題には、姿勢の安定のための予測的姿勢制御、重心移動、対象の視覚的な固定、随意的な把持、リーチ、リリースなどが含まれている。
予測的姿勢制御は異なる、並行の下降経路によって制御されると考えられている。


そのため、リーチ課題は課題の要求の文脈で行われるべきであり、上肢機能と姿勢制御に関与する異なる機械的、感覚、運動、goal orientedのシステムの統合のための基礎となる神経コントロールネットワークは「暗黙的」に従事することが必須であるだろうと筆者らは述べている。

このような仮説の上で、今回の研究が行われています。

対象は慢性期の脳卒中患者9名。Fugl-Myer test中等度の重症度(mean 27±10)に分類された方が参加しています。

評価は
sensory organization testing(SOT):異なる感覚条件にで体性感覚、視覚、前庭システムの使用を同定するために、静止立位で6つの課題を行う(詳細は述べられていない)

Limits of stability(LOS):8方向に随意的に随意的にCOPをその方向に移動させ最大距離を数値化

Rhythmic weight transfer(RWT):動く視覚ターゲットの方向(前後、もしくは左右)へ、3つの異なる速度で重心移動を行い、重心移動の能力を数値化。


臨床的なスケールとして
Berg Balance Scale(BBR)

Activities-specific Balance Confidence Scale (ABC)
が用いられています。


トレーニングは1時間、週3回、6週間実施。
内容は、(直訳なので少々わかりづらいですが)
1)把握、前方リーチ、ボールをターゲットのバケツにリリース
2)把握、(上肢を)輪っかを通して前方へリーチ、ボールをターゲットのバケツにリリース(肘関節の伸展、回外を強調)
3)回内した状態で把持し、そこから回外して輪っかを水平のポールに通す
4)手掌でつかみ、上肢を屈曲外転し輪っかを水平のポールに通す
5)ペグボールを回外した状態です髪、前方へリーチし、上方のペグボードに置く。

これらを30回ずつ繰り返しします。

動作のパフォーマンス(上肢の運動方向等)に対するフィードバックは与えます。初めは適切な運動を行うためにアシストやガイダンスを行う。

ただし、これらの指示はあくまで「上肢」の運動に対するフィードバックであり、姿勢コントロールに関与する外在的な情報(足の位置、姿勢の制御の戦略)は与えない。

ターゲットの距離は前後、左右への重心移動が起こる位置で、かつこれらの課題が達成できる位置に設定します。


One-way repeated ANOVAがSOT、BBR,ABCの統計処理のために使われ、
Two-way ANOVAは重心移動のそれぞれの方向に対する速度、時間の比較のために使われています。Post-hoc testはTukeyが使用された。
LOSに関しては、baselineのテストでno scoreがあったため実施できなかった。


(結果)、
SOTのスコアは優位に向上(P<0.05)
RWSでは方向のコントロールが優位に改善(P<0.05)特に中等度、速い速度での前後方向へのコントロールの改善が著明
しかし左右への重心移動に対しては優位な改善は見られなかった。
また速度の改善は左右、前後共に優位ではなかった。

BB(P<0.01)S、ABC(P<0.05)は共に優位に改善している。

(考察)
今回の結果から姿勢コントロールに関する外部からの情報がない条件にて、麻痺側上肢への介入後に姿勢コントロールの改善が見られることがわかった。これはimplicit postural leaningが起こったことを示唆している。

統合された運動スキルのリハビリテーションにおいて、このような戦略は特に効果があるのではないかと筆者らは示唆している。

このように、上肢の課題に注意を向けた状態では、バランスに関するより自律的、無意識のプロセスが使われたのではないかと考えられる。

姿勢の準備、コントロールは通常意識的、随意的なコントロールではないので、機能的課題の一部として姿勢反応にチャレンジすることは皮質下の神経回路を動員しているのかもしれない。

過去にも意識的な姿勢コントロールに注意を向けることが、無意識下のコントロールを混乱させることがあるという報告もある(1)

その一方で、慢性期脳卒中患者において、意識的に注意を姿勢制御に向けることで歩行速度、耐久性、バランスの臨床指標が改善したという論文もある。(2,3、4)


(感想)
この論文の筆者らは、どういったメカニズムが上肢の運動の基礎に有り、どのような条件が必要であるかを本人らの意見としてきちんとイントロダクションで述べています。かつ、考察では彼らの結果と相反する結果もちゃんと述べているので、個人的に感心しながら読んでいました。

今回の論文では、上肢運動により、バランス能力が向上したという結果が得られていますが、ただ上肢トレーニングをやればいいのかというわけでなく、その基礎となる神経ネットワークの理解が必要です。それがなければ、現時点では本当にその人にとって効果のある治療を提供することは難しいように思います。

学校を卒業する段階での神経学的な知識というはやはり、脳卒中の方の治療を考える上ではやはり不十分かなと思います。かつ情報はどんどん新しいものが出てくるので常にアップデートする必要があります。

それらの知識と合わせた上で、
臨床的に見られる反応、認知、知覚、注意、本人の性格、ニードなどを加味しながら構築してくことが重要ではないかと思います。


(今回の文献)

McCombe Waller, S. & Prettyman, M.G., 2012. Arm training in standing also improves postural control in participants with chronic stroke. Gait & posture, 36(3), pp.419–24. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22522046 [Accessed October 13, 2012].

参考文献
1)Wulf G, Hoss M, Printz W. Instructions for motor learning: differential effects of internal versus external focus of attention . Journal of Motor Behavior. 1998: 30 (June 2): 169-79

2)Eng JJ, Chu KS, Kim CM, Dawson AS, Carswell A, Hepburn KE. A community- based group exercise program for persons with chronic stroke. Medicine and Science in Sports and Exercise 2003;35(August (8)):1271–8.

3) Leroux A. Exercise training to improve motor performance in chronic stroke: effects of a community-based exercise program. International Journal of Rehabilitation Research 2005;28(March (1)):17–23.

4)Dean CM, Richards CL, Malouin F. Task-related circuit training improves performance of locomotor tasks in chronic stroke: a randomized, controlled pilot trial. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 2000;81(April (4)):409–17.
今回は、脳卒中後の上肢の治療により、運動ネットワークのresting-stateに変化が生じることについて述べられた論文です。

resting-stateの測定にはf-MRIとEEGの組み合わせが多いという記載されており、過去にも神経学的病変による変化が調べられています。

脳卒中においても、重症度や機能的損傷からの回復に内在的なresting-stateの病的な影響が関連するという研究がすでにされてきています。(1-3)

今回の研究ではf-MRIでの測定を行い、Structural equation modeling (SEM)という方法でコネクションを調べています。

研究は脳卒中患者少人数ですが以下の3つのグループに分けられいます。
1) Accelerated Skill Acquisition Program (ASAP) という治療を行うグループ(5人の脳卒中患者が参加)。ASAPは上肢レベルに応じて、task-specific trainingを繰り返し行う。また運動学習理論に基づき、セラピストから結果の知識(KR)を与えながら、挑戦し、モチベーションをあげ、参加促す。治療は一日2時間、週5日を3週間実施。

2) usual-and-customary- care control (UCC)という治療を実施(1人の脳卒中患者)。:セラピストが処方した治療を実施。(内容については触れられていない)

3) コントロール群(健康成人2名)

測定は治療の前後2回実施され、それぞれ、二回のtwo resting-state fMRI (rs-fMRI) scans が実施された。またその測定の前には運動課題(isometric precision grip task)の機能的スキャンが先行して行われる。

Region of interest (ROI) は左右のM1 (LM1, RM1), 背外側運動前野 (LPM, RPM),そして 補足運動野 supplementary motor area (SMA)とされています。

SEMで示される矢印は影響の方向と、その影響の強さを示しています。下図はその一例です。
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結果、ASAPを実施した患者5人は全員、障害側の運動前野の非障害側の運動前野への影響が変化した。それぞれに障害部位が違い、治療前の状態も違うが、4人の患者において、障害側の運動前野から、非障害側の運動前野への影響が大きくなっている。また2名の患者はSMAから障害側の運動前野への影響が増しています。
3名の患者はSMAから運動前野への影響がなくなり、直接M1への影響が生じている。

その一方で、UCCを実施した群では逆に、治療前後共に、非障害側の運動前野が障害側の運動前野に影響を与えています。

筆者らはASAPを実施した患者に見られた変化は治療特有のneural-corelateだろうと考えており、リハビリテーション治療が異なれば、脳は違う方法で再訓練されると述べています。
SMAの変化についてはまだ不明瞭であるが、最も良好な回復をみせた2例では、治療前にはSMAが障害側のM1へ直接影響を及ぼしていたのが、治療後には運動前野に影響を及ぼすようになっていると述べています。

また将来的には、複数の治療アプローチで研究を行うことも考えられており、ニューロイメージングにより、どのように回復するかを予測するだけでなく、患者の回復が最大限になるような治療の選択を可能にするかもしれないと考察しています。


現時点では様々な治療概念が存在していますが、このような研究が進められていくことで、障害部位、重症度などにより明確に分類され、それに基づき治療を選択できるようになるのかもしれません。


(今回の文献)
James, G.A. et al., 2009. Changes in resting state effective connectivity in the motor network following rehabilitation of upper extremity poststroke paresis. Topics in stroke rehabilitation, 16(4), pp.270–81. Available at: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19740732 [Accessed October 28, 2012].

(参考文献)
1. He BJ, Snyder AZ, Vincent JL, Epstein A, Shulman GL, Corbetta M. Breakdown of functional connectivity in frontoparietal networks underlies behavioral deficits in spatial neglect. Neuron. 2007;53(6):905–918.

2. Greicius MD, Flores BH, Menon V, et al. Resting-state functional connectivity in major depression: abnormally increased contributions from subgenual cingulate cortex and thalamus. Biol Psychiatry. 2007;62(5):429–437.

3. Bluhm RL, Miller J, Lanius RA, et al. Spontaneous low-frequency fl uctuations in the BOLD signal in schizophrenic patients: anomalies in the default network. Schizophr Bull. 2007;33(4): 1004–1012.