makiusiのすっとこどっこい日記 -2ページ目

物語「瀬をはやみ」

隼人達の周りに人が集まり始めた。各学校の選手達や学校関係者、事務局の職員まで。
「階段から落ちたの?」
「試合前なのに、大丈夫ですか?」
「怪我したの?病院は?」
周囲が騒ぎ始めた。
T高の顧問が連絡を受けて駆け寄って来た。
「岩谷、どうした!」
「いや・・・ちょっと、足を踏み外しました。すみません」
「肩は・・・大丈夫なのか?お前、先々月亜脱臼してたろ、またぶり返したら・・・」
「大丈夫です、ちょっと打っただけですから問題ありません」
「・・・とにかく一旦控え室に戻れ」
「はい」
隼人は、結水子を見た。
「大丈夫・・・」
笑顔だった。
隼人は顧問に付き添われて二階に上がって行った。

結水子は、その場に固まったまま、隼人の身を案じていた。
自分を助けたために、一緒に階段から落ち、冷や汗をかきながら痛がっていた隼人に、何もできない自分が情けなかった。
「早瀬、何があったの?」
声の主は大滝だった。
「あの・・・」
そのうち、「M高の女が岩谷を突き落とした」という声が聞こえ始めた。
「マジかよ・・・」
「えげつな」
「そこまでする?」
それは、結水子の耳にも届いていた。

自分のせいで、隼人の可能性を狭めてしまった・・・
「違う」の一言が言えないまま、涙がこぼれた。


物語「瀬をはやみ」

そうだ、と、隼人は立ち止まった。
M高のカメラ女子、崇徳院さんの名前も連絡先も聞いてなかった。
「崇徳院さ・・・」
振り返って結水子を見ると、上の階からマネージャーが降りて来ていた。
結水子が踊り場に上り切った瞬間、マネージャーが、肩で結水子にぶつかって行ったのを、見た。

「!」
隼人は瞬時に階段にかけ戻り、背中から下方へ落ちかかっている結水子を下段から抱き抱えた。
が、踏ん張りが効かず、結局バランスを崩し、結水子共々階段をなだれ落ちてしまった。

「は・・・隼人先輩!」
マネージャーが悲鳴を上げた。

結水子は、落ちた衝撃にびっくりしたものの、特にひどく痛むところもなかった。
隼人が結水子を庇って受け止めて、クッションになっていたから。

結水子が閉じていた目を開けると、直ぐ横に、隼人が、落ちた時に真っ先にぶつけたらしい、右肩を押さえてうずくまり倒れていた。
「い・・・わたにさん?」
結水子は頭が真っ白になった。
「・・・大・・・丈夫、ですか?」
と、大丈夫ではない様子で結水子を案じる隼人。額に汗が浮かんでいる。
「こっちのセリフです!骨は!?」
結水子の問いかけに、隼人は首を横に振った。
「折れてません・・・全然、OK」
隼人が立ち上がり、笑ってみせた。が、動くと肩に痛みが走るようで、いつもの屈託の無い笑顔ではない。
「先輩・・・肩・・・」
マネージャーが真っ青な顔で隼人を見ている。
「・・・大丈夫だから、騒がないで」
「でも、病院に・・・」
「試合に出るから」
隼人がきっぱりと言い放った。

物語「瀬をはやみ」

階段に残っているのは、上の段に隼人、下の段に結水子。

「・・・お出掛けですか」
二人を置いて立ち去った男子部員の背中を見送りながら、結水子が口を開いた。
「ジャンケンで負けてさ・・・信号渡った先のコンビニまでパシらされてんの」
柔道着姿の隼人が頭を掻いた。
「えっ、優勝候補なのに?」
「そう!扱い雑でしょ!」
隼人が笑った。つられて結水子の頬も緩む。試合前に衝動的にカメラに収めた、あの真剣な表情とは大違い・・・
「あ・・・」
ひらめいた。結水子は隼人の顔をしっかり見上げた。
「写真、撮りました、あの、岩谷さんの!」
名前、呼んでしまった!と、頭に血がのぼる。
「写真?」
と、聞き返されて、急速に不安になった。
仕上がったら譲ります!と言おうとしたのだが、肖像権とか、色々無作法な事をしたのでは、と気になって・・・
「あ、ハイ、あの・・・勝手に・・・すみません・・・許可もなく・・・」
どんどん恐縮して小さくなる結水子を見下ろしながら、やっぱり隼人は気持ち良く笑っている。
「ホント?出来たらちょうだい」
隼人は笑顔でテーピングしたままの手を伸ばし、結水子の頭にポン、と置・・・こうとして、少しハッとして止め、代わりに肩を軽く叩いた。
「あ・・・はい、ぜひ、受け取ってください」
「ありがと!じゃあ、また!」
隼人は手を上げ会釈をして、笑顔で階段を小走りに降り始めた。
「・・・また」
くすぐったいような、少し寂しいような気持ちで返して隼人を見送る結水子。でも笑顔だった。

「また・・・」
次がある、と思うと、心がどんどん澄んで行く。体が軽くなる。胸が満ちてくる。知らず知らず、顔がほころぶ。世界が鮮やかに彩られる。

心ここにあらずな結水子が、上の階を目指して階段を上り、踊り場に上り切ろうとした時、斜め前方に人の気配を感じた。
その人影に焦点を合わせると、表情なく自分を見詰める・・・T高の女子マネージャー。
「・・・あ」
と結水子が口を開きかけた瞬間、マネージャーの肩が、結水子の肩を思い切りはね飛ばした。
結水子は後方に、ぐらり・・・