映画『ディア・ファミリー』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『ディア・ファミリー』

『ディア・ファミリー』

(上映中~:J-MAXシアターとやま、TOHOシネマズファボーレ富山、TOHOシネマズ高岡、イオンシネマとなみ)

公式サイト:https://dear-family.toho.co.jp/

 

小さな町工場を経営する坪井宣政と陽子夫妻の次女・佳美(よしみ)は、

生まれつきの心臓疾患で、幼い頃に余命10年を宣告されてしまいました。

どこの医療機関でも治せないという厳しい現実を突きつけられた宣政は、

娘のために自ら人工心臓を作ることを決意し・・・という物語です。

 

世界で17万人の命を救い、今も救っている、

IABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテル誕生に

まつわる実話を、主人公のモデルとなった方と長きにわたり親交のある

ノンフィクション作家・清武英利さんによる膨大な取材ソースを基に、

君の膵臓をたべたいの月川翔監督、大泉洋さん主演で映画化しました。

 

物語は1970年代前半から始まります。

石岡タローでもそうでしたが、やはり当時の車が演出に一役買ってます。

その他、ファッションも建物も「当時」を意識した演出になってました。

あと、ちょっとすすけた映像も時代を感じさせます。

 

月川翔監督作品って、もちろんそればっかりじゃないのですが、

『キミスイ』以外でも余命わずかなお嬢さんが出てくる映画が多い印象です。

そして、今回そのお嬢さん、高校生以降の佳美を演じたのは福本莉子ちゃん。

ぶっちゃけ、イオンシネマで鑑賞すれば少し安く済んだのですが、

莉子ちゃんがヒロインなら敢えてTOHOシネマズで観よう!と思いました。

幕間映像シネマチャンネルの2代目案内役。

ある意味、私が今いちばん映画館で観ている女優さんです。

 

といっても、主演はあくまでも大泉洋さんです。

人工心臓の製作を決意した宣政はなりふり構わず行動します。

これは、それ以前の仕事ぶりからも描かれているキャラで、

その行動的な姿は妻の陽子も常に後押ししています。

また、川栄李奈さん演じる長女の奈美が健気なしっかり者でして、

いざというときに家族一人一人の支えになっていましたし、

川栄さんも演技者としてそういう立場にいたように感じました。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

 

私、この家族が素晴らしいなと思うのは、

3姉妹なんだけど、宣政が佳美のことで頭がいっぱいになっていても、

佳美の姉も妹も「私のことも!」みたいなことは言わないんですね。

人工心臓の製作を断念するまでに8億円も使っちゃってるというのにです。

しかも、その後はバルーンカテーテルの製作に打ち込みます。

宣政だから成し遂げられたのは確かですが、それだけでは無理で、

この家族だから成し遂げられたのです。

 

もちろん、家族以外にも多くの人が関わってきます。

①最初から最後まで応援してくれる人

②最初から応援せず、傍観したり離れていく人

③最初は応援してくれたけど、途中で邪魔するようになった人

④最初は冷ややかだったけど、途中から応援してくれるようになった人

①番に工場の古株の社員さんがいまして、野添義弘さんでした。

こういう人が会社にいてくれると社長は助かるだろうなぁ。

 

主人公に感情移入してしまうと、邪魔する人は悪人に見えます。

本作では宣政が出入りすることになる医科大の石黒教授。③番です。

でも、教授には教授の立場や事情があるんですよね。

光石研さんの安定の上手さで、途中から凄く嫌な人になってますが、  

誰が良いとか悪いとか正しいとか間違ってるとか、簡単には言えません。

ただ、早い段階から力を貸してくれた医大の若い医師たちが、

志半ばで宣政と別れるシーンはやるせなくて、

私、家族のシーンよりも、そっちの方がちょっとウルっと来ました。

人の夢や挑戦を手助けしてくれるのも人なら、阻害するのも人ですね。

 

その医大で研究・開発されたものがその医大病院で使用されない限り、

どんなに良いものでも、他の医大や病院では使えないという、

当時だけなのか今もなのか、日本だけなのか外国もなのか、

そこは分かりませんが、医学界のお約束みたいなものもあるようです。

医学界に限らず、どこの世界でも、そういうお約束みたいなものが、

その世界の進歩を遅らせてしまうということは往々にしてあります。

それでも人類が人類であり、諦めない限り進歩と改革は続くのです。

そうやって偉業を成し遂げた宣政でしたが、

彼はずっと「娘を救えなかった」と悔やんでいるのが切なかったです。