映画『石岡タロー』 ※追記アリ | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『石岡タロー』 ※追記アリ

『石岡タロー』

(上映終了:ほとり座、※【追記1】7.13〜7.26:御旅屋座)

公式サイト:https://ishiokataro.com/

 

主に昭和の時代の茨城県石岡市を舞台に、

1匹の保護犬が飼い主を探すために駅に通い続ける姿や、

犬と人々との交流を、実話をもとに温かなまなざしで描いた映画です。

これまでに短編映画を多数手がけてきた石坂アツシ監督の初長編作。

出演は校長先生役の山口良一さん、行商人役のグレート義太夫さん、

最終盤に登場の渡辺美奈代さん以外、失礼ながら子役さん含めて、

どこかで観たことあるような気もするけど名前がスッと出てこない方、

これは明らかに地元のエキストラさんですよねという方ばかりで、

演技力を問うてはいけないシーンも少なからずあります。

 

しかし、ほっこり温かくて素敵な映画でした。

名前がすぐに浮かんでこない出演者が多い一方で、

エンドロールでは「○○地区のボランティアエキストラの皆さん」

のようなよくある表記ではなく、全員のお名前が表記されていました。

そういったところにも、本作品の温かさを感じました。

そして、なんといっても、合わせて3匹の犬が演じた、

主人公のタロー(幼い時はコロ)が本当に可愛くて、

いわゆる動物事務所の犬ではないという書き込みもあって、

その真偽は不明でしたが、いずれにしても上手な演技でした。

※【追記2】三頭のうち二頭は実際の保護犬でした

 

(以下、“適度”以上にネタバレしています。ご了承ください)

 

1963年、鹿島鉄道玉造町商店街のマカシマ電器店の次女、

恭子ちゃんは、毎日、電車で約30分の石岡にある幼稚園に通っています。

幼く小さな愛犬のコロが、毎日、玉造町駅までお見送りとお出迎え。

賢い犬で、一度、1両編成の列車内に入って恭子ちゃんと触れ合って、

出発のベルが鳴ると車外に出て、列車が行くのを見届けてから、

すたすたと自宅の店に戻り、また帰りの時間にお出迎え。

その光景を商店街の人たちも優しく見守っています。

短い時間とはいえ犬が車内に乗り込むこと、

幼稚園児がそれだけの距離を一人で通っているなど、

今だったら、どこかからクレームが来たり意見が飛び交いそうですが、

当時の特に田舎では、こういうこともあったんじゃないかと思います。

 

で、ある日のこと、その日は車内が行商人たちでぎゅうぎゅうでして、

コロがいつものように下車できず、石岡駅まで来てしまいました。

身体が大きくて怖そうな行商人に「犬を乗せてはいけない」と叱られ、

駅長さんや駅員さんに「これは君の犬?」と聞かれたけど、

恭子ちゃんは大人の圧が怖くてちゃんと答えられなかったことから、

コロは石岡駅から追い出され、二人は離ればなれになってしまいました。

 

ここで恭子ちゃんが本当のことを話していれば済んだ話だったと思います。

というのも、後半、毎日2回、石岡駅の待合室にやってくる犬を、

駅長さんは「駅で待つのは人だけじゃないから」と受け入れたんです。

なので、本当のことを話せば、しばらく駅で預かるとか、

駅から自宅に電話で連絡して引き取りに来てもらうとか、

それなりの対処をしてくれたんじゃないかと思うのですが、

でも、恭子ちゃんが恐怖を感じて答えられなかったのは分かります。

ただ、何年か経ってからでも、恭子ちゃんが石岡駅に探しに行けば、

一日待合室にいるだけで再会できたのに・・・とも思うんです。

 

※【追記3】

との疑問に関し、コメントくださったいとぽんさんのブログにリンクされていたページを、

ここでもリンクします。なるほど~、そういう事情があったのかぁ。

 

さて、恭子ちゃんと離ればなれになってからしばらくして、

男子中学生3人組(本作における数少ない悪役)にいじめられ、

傷ついていたコロは石岡東小学校の用務員の娘さんに保護され、

学校で飼われることになり、ここでは「タロー」と名付けられました。

タローは毎朝は校門で児童たちをお出迎え、1年生の教室を順々に見回り、

愛らしさと賢さで学校の人気者になっていました。

そんなタローのもう一つの日課が石岡駅待合室に毎日2回通うこと。

そう、恭子ちゃんをお迎えに行ってたんですね。

 

東小学校から石岡駅までは約2km。それを1日2往復。

序盤の玉造町駅の送り迎えもそうでしたが、

この学校と石岡駅の往復も丁寧に何シーンも続いていきます。

幹線道路を走る車が、スバル360などの1960年代の車、

時代が流れ70年代の車・・・など、どこで集めてきたのかというと、

それもまた丁寧にエンドロールに全てUPされていました。

CGではなく本物のクラシックカーが走っていたということです。

当時の商店街の風情や、恭子ちゃんのお母さんの髪型なども、

確かに60年代ってこんな感じだったかもと、意識された演出です。

 

時代が流れ、山口良一さん演じる校長先生が登場。

東小学校も児童数1000人を超える「マンモス校」になっていました。

授業参観に来る保護者の数も多くなる。

タローはいつものように1年生の各教室を見回りに・・・。

不用意に近づいたマダム(?)に軽く唸ったところ、

そのマダムが話を膨らませてPTAを通じて苦情を入れてきました。

校長先生がしゃくし定規に対応して保健所に連絡してしまうのも、

保健所が「1週間預かって殺処分にします」という流れも、

実話がもとになっているとはいえ“あるある”な展開です。

 

人間はなかなか犬、動物優先に物事を考えられないんですね。

そこ、ギリギリ1週間引っ張ります?とか思っちゃう。

タローがいなくなった事情を知らず寂しがる児童たちや、

タローと遊んだ懐かしさを語る卒業生の言葉を聞いて、

早く保健所に引き取りに行った方が良いと思いつつ、

結局は行動できないでいる校長先生は、

終盤でそのことを後悔しているような話をしていました。

 

タローとの絆が一番深くなっている用務員さんも、

やはり、校長先生や学校との関係があるので行動できない。

でも、最後はやっぱりタローへの愛が勝って・・・となりました。

タローは一命をとりとめましたが、保健所職員さんの話を聞くと、

動物の殺処分の問題は役所としての解決策は難しく、

結局は人間一人一人の意識にゆだねるしかないのでしょう。

これは時代を超えて、今も続く問題です。

 

結局、タローは17年間、学校と駅を往復しました。

学校の子供たちだけでなく、石岡の街なかでもタローは愛されました。

昭和の話だなと思うのは、今だったらすぐにSNSで話題になりますよね。

そんなものはない時代、私、これはテレビや新聞が記事にしない限り、

タローと恭子ちゃんは再会できないんだろうな・・・と思っていたら、

やはり・・・、でも、それはもうタローが亡くなって26年後のことでした。

 

恭子ちゃんは恭子さんになっていて渡辺美奈代さんでした。

久しぶりに観た美奈代さん、実年齢は50代半ばなので、

恭子さん役で良いのですが、なんというか見た目が若すぎて戸惑います。

最初、恭子さんの娘が会いに来たのかと思いました。

鹿島鉄道は廃線となり、駅は立派なJR石岡駅だけが映ってました。

でも、タローを愛した石岡の人たちの優しさは変わらない。

そんな感じのエンディングで、ほっこりしながら劇場を出ました。