映画『かくしごと』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『かくしごと』

『かくしごと』

(上映中~:J-MAXシアターとやま)

公式サイト:https://happinet-phantom.com/kakushigoto/

 

絵本作家の里谷千紗子は、

長年絶縁状態となっていた父・孝蔵が認知症を発症したため、

仕方なく故郷の長野へ戻って介護をすることにしました。

他人のような父との同居に辟易する日々を過ごしていたある日、

彼女は事故で記憶を失った9歳の少年を助けます。

その少年の身体に虐待の痕跡を見つけた千紗子は、

少年を守るため、自分が母だと嘘をついて一緒に暮らし始め・・・。

 

例によって原作未読ですが、北國浩二さんの小説『嘘』が原作。

関根光才監督作品は、私は初めて鑑賞しました。

「かくしごと」は「秘密」ですが、「嘘」は「嘘」ですね。

物語は何人もの登場人物が嘘をつくことで展開していきます。

それを面白いと思えるか、嘘をついた人に共感できるかがポイントです。

正直、私は「ん~」と思ってしまう点が幾つかありました。

予告編で「その嘘は、罪か、愛か」とありましたが、

細かく言うとどちらでもなく、悲劇的要因、あるいはエゴです。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

 

千紗子にはかつて本当の自分の子を事故で亡くし、

もともとが未婚の母でもあったことから、

当時は厳格だった父から強く責められた過去があります。

ゆえに、認知症になった父との間にもわだかまりが残っています。

そして、助けた少年は事故で記憶を失っていて、

調べてみたら、義父の虐待で身体があざだらけだったことで、

「この子を守りたい」という正義感ではなく、

ずっとくすぶり続けていた母性のエゴが出てしまったのだと思います。

 

千紗子役は杏さん。

記憶喪失の少年に「自分が母親だ」と説明するシーンでは、

マジで目に怖さを感じました。そう、この判断は狂気でしかない。

この怖い目が終盤にも観られました。杏さん、ゾクッとしました。

実はここに至るまでのいきさつでも、

親友で今は役所の福祉課に勤める久江が飲酒運転中に少年と接触して、

同乗していた千紗子に飲酒運転の隠ぺいを頼んでしまいます。

そこからして、この二人はなかなかに酷いのです。

 

ですが、少年が救われていることも確かです。

確かに普通に警察に通報して本当の家庭に返されたら、

この少年はまた虐待されてしまうことになるでしょう。

それでも、千紗子の判断や行動に共感するのは難しかったです。

千紗子や少年にとって100点満点の結果は得られないとしても、

もっと他の方法があるんじゃないかな・・・とは思いました。

とはいえ、千紗子の判断をいさめている久江に対しては、

「お前が言うな!」とは思いましたけどね。

終盤で「この判断で良かった」みたいに言ってるのも都合が良いです。

 

ですが、少年が救われていることも確かです(二回目)。

名前も里谷拓未(たくみ)と名付けられ、

おじいちゃんの認知症は進んでいて苦労や悲しみはあるけれど、

拓未少年はおじいちゃんと仲良く粘土で観音様とか作ってる。

拓未は千紗子に刷り込まれた嘘の過去の楽しい思い出を、

なんとなく本当にあったこととして思い出したような気になっていて、

自分の記憶が戻る代わりにおじいちゃんの記憶がなくなっちゃうの?

とか、ものすごく優しいことを言ってます。

このままこの生活が続けば良い。少年のために・・・とは思います。

 

そう、この少年はいい子なんです。ここが救いです。

ですが、この子も嘘をついていました。

穏やかな日々は長くは続かず、義父が千紗子の家に現れて・・・。

やはり、この嘘は悲劇的要因だったのでは・・・と思える展開に。

ラストシーンでついに少年も真実と本心を話すことになります。

その本心の言葉に千紗子は救われることになります。

でも、ミッシングでも感じましたが、

これが唯一の救いなら、それはちょっと悲しさが過ぎると思います。

 

実は私は少年の嘘には序盤の時点ですぐに気がつきました。

多分、私以外の観客にも気づいた人が多かったんじゃないかと思います。

ひょっとしたら、制作サイドも気づかせたうえで観せよう、

という演出意図があったのかもしれません。

その嘘は最初は自分の身を守るためでしたが、

そのうち、自分だけでなく、この家族を守りたいと思ったのかもしれません。

一方で、私は少年の本心だと思った最後の彼の台詞も、

ひょっとしたら噓だったのかもしれない・・・とも考えたのですが、

それではあまりにも悲しいので、その考えは捨てることにしました。

 

少年役は中須翔真くん。さかのこにも出演してました。

とてもお上手。この先、観る機会が多いんじゃないかと思います。

奥田瑛二さんはもう、こういうおじいちゃん役もやられるんですね。

そして、里谷家の理解者、町医者役が酒向芳さん。

酒向さん、放送中のドラマアンメット(面白いです!)では、

大学病院の会長役で、これがものすごく嫌な男なんです。

本作は真逆の優しい町医者さん。ほんま、俳優さんは凄いですなぁ。