映画『枯れ葉』
『枯れ葉』
(上映中~3/8:ほとり座)
公式サイト:https://kareha-movie.com/
フィンランドの首都ヘルシンキ。
廃棄食品を持ち帰ろうとしたという理由でスーパーを解雇された女性アンサ。
工事現場で働くも、ヘビースモーカーでアルコール依存の男性ホラッパ。
二人はカラオケバーで出会い、その後、偶然にも再会し、
互いの名前も知らないまま惹かれあうが、果たして・・・という物語です。
フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督が、
2017年の引退宣言から、6年ぶりに新作を発表しました。
といっても、6年ぶりなんて映画監督ならよくあることです。
私はこの監督の作品は『過去のない男』しか観た記憶がないです。
なので、その作風を語ることはできませんが、
登場人物の変わらない表情とあまり抑揚を感じない台詞回し、少ない動き。
敢えて奥行きを作らないような平面的な画。
多ジャンルの音楽がふんだんに使われ、適度にウィットな台詞もあり、
それでいて、全体的には寂しく悲しく切ない世界観。
俳優の演技は淡々としていますが、ちゃんと思いが伝わってきます。
ホラッパはところかまわずタバコを吸い、仕事中にも酒を飲んでいます。
そんな男に私が共感するはずないのですが、なぜか適度に感情移入。
ラジオからはロシア軍がウクライナを攻撃しているニュースばかり。
ヘルシンキは首都ですが、街に華やかさがなく、貧しい感じがします。
だから飲まずにやってられるか!を肯定はしませんが、
ホラッパの死にたくはないけど生きるのもしんどそうな姿に共鳴しました。
もちろん、もっと感情移入したのはアンサの方でしたけどね。
アンサは職を失い、金もなく、パブで働きだしますが、
店の主人が麻薬の密売で逮捕されて給料はもらえずじまい。
店の前で立ち尽くしていたら、そこに現れたホラッパに声をかけられました。
ハッキリとはしていませんが、二人は40代半ばというところでしょうか。
漫画『黄昏流星群』世代(説明割愛)のちょっと手前という感じですかね。
(以下、“適度”以上にネタバレしています。ご了承ください)
カラオケバーで出会った(というか、席が隣になっただけですが)時から、
アンサが気になっていたホラッパは、彼女を食事や映画に誘います。
この時に観た映画がまさかの『デッド・ドント・ダイ』でした。
爆笑していたわけではないアンサでしたが、「今までで一番笑った」と。
その夜はそれで終わり。アンサはホラッパに電話番号のメモを渡します。
ところが、ホラッパは無造作にポケットに入れちゃったものだから、
彼女と別れた直後にタバコを取り出した時にそのメモを落としちゃうんです。
ほら~、ところかまわずタバコなんか吸ううからですよ。だらしない!
これでホラッパはアンサに連絡できなくなり、アンサはアンサで寂しい。
ただ、なかなか恵まれない日々ですが、彼女の意思はハッキリしています。
その顛末を話した知人女性が「男なんてブタよ」と吐き捨てたら、
「違う!ブタの方が賢くて優しい」ですって!良いですね~。
なんだかんだで、また二人が再会したときも、
「あなたのことは好きだけど、アル中は嫌!」ときっぱり拒絶しました。
彼女は少しやつれているけど、ある意味“現実的な”美しさがあり、
加えて、内面には寂しさと強さが同居していて、はい、魅力的です。
アルマ・ポウスティという女優さんが演じています。
また別れた二人。
でも、ここまま終わってしまうのはやはり寂しい。
心の中に枯れ葉が舞うように寂しい。
『ポトフ~』じゃないですが、二人の人生も秋に差し掛かっています。
果たして、アンサとホラッパはまた出会うことはできるのか・・・。
最終的には、酒を辞めたというホラッパがアンサの家に誘われますが、
途中で事故にあい意識不明になったところを彼女が懸命に看病して、
彼は一命をとりとめ退院して、二人仲良く公園を歩いてハッピーエンドでした。
貧しく先が見えない暮らしの中でも、
こうやって幸せが手に入るというのは良いですね。ちょっと羨ましいです。
ホラッパの職場の同僚は自分で言うほど歌は上手くないのですが、
カラオケパブで知らない女性の客に褒められてその気になってました。
その同僚がホラッパに「なぜそんなに飲む」と聞いたら、
「欝なんだ」「なぜ欝なんだ」「飲みすぎなんだ」ですって!
「北極(ナントカ)」って本、アレは子供の読む本じゃないですよね?
ホラッパが上着が必要になって、安ホテルの隣の部屋の男に頼んだら・・・。
ホラッパが退院するとき、看護師さんが別れた夫の服を持ってきて・・・。
アンサが飼うことになった犬(多分、雑種)の名前がなんとチャップリン!
81分という短い上映時間ですが、印象的なシーンの多い映画でした。