映画『ポトフ 美食家と料理人』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『ポトフ 美食家と料理人』

『ポトフ 美食家と料理人』

公式サイト:https://gaga.ne.jp/pot-au-feu/

 

19世紀末、フランスの片田舎の美しいシャトーに暮らす

有名美食家ドダンと女性の天才料理人ウージェニーの物語です。

計ってないので体感ですが、オープニングから40分ぐらい、

ウージェニーの指揮のもと美味しそうな料理が作られていき、

それをドダンと招かれた友人たちが食べているシーンが続きます。

 

これが観ていて全く飽きないどころか、高揚しました。

スープも舌平目も骨付き仔牛も本当に美味しそうでした。

19世紀ですから、今どきではない厨房の風情がまた良い。

溶かして濾したバターをまた濾して・・・。丁寧な仕事ですね。

アイスクリームを焼き菓子に使っても溶けないという、

「ノルウェー風オムレツ」(デザートですよ)も食べてみたい!

 

これ、単純に美味しそうと思わせるだけではなくて、

ドダンは追求してきたメニューを哲学的かつ芸術的に言葉にし、

それをウージェニーがドダンが望む以上に具現化してきた、

その究極ともいえる食の世界と二人の信頼関係が描かれているのです。

どうやら、この関係は20年も続いているようです。

 

ウージェニー役はジュリエット・ビノシュ。

ショコラではチョコレート職人、本作では天才料理人。

ジュリエット・ビノシュ、今年で還暦だそうですが、

いつまでも変わらず品のある美しい女優さんですなぁ。

 

だからというわけでもないのでしょうが、

ドダンはウージェニーに求愛を続け、

しかし、ウージェニーはそれを拒み続けていました。

彼女は彼女でドダンへの想いはあるのだけれど、

それよりも料理人として生きたいと思っていたのですね。

基本的に描かれているのはこの二人の関係です。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

 

ここに絶対味覚を持つ少女ポーリーヌが登場したり、

ユーラシア皇太子の晩餐会の顛末などが絡んできます。

招待されたドダンは、この晩餐会の料理にうんざりしました。

豪華なだけで、量が多すぎるし、テーマも感じられないと。

 

今度はこちらが皇太子を招待しよう、

その時のメイン料理に選ばれたのがポトフでした。

本作のタイトルですね。

ドダン曰く「フランスらしい家庭料理」だからと。

ただ、実際に作られたポトフはなかなか豪華でしたよ。

 

ドダンはお屋敷住まいですが、私は彼の生業がよく分からず、

まぁ美食家=料理研究家ならそれは確かに職業でしょうし、

ウージェニーにも「あなたも仕事が・・・」的な台詞があったし、

友人たちも医師など裕福そうなので、彼も余裕があるのでしょう。

 

さて、ウージェニーは重い病気にかかっていました。

ドダンは愛を込めて、彼女のためにスープを作ります。

そして、二人はついに結婚することになりました。

友人たちを招いた結婚の食事会で、

ドダンは「自分たちの人生は秋に入った」と言いました。

人生を四季に例えることってありますよね。私は晩秋かなぁ。

 

一方、食事会の帰り、

ウージェニーは「私はずっと夏だ」と言いました。

いつまでも盛りであるということなのでしょう。

病気で自分の終末を感じているからこその台詞ですね。

また、二人の人生についての見解には相違があったともいえます。

 

鑑賞しながら気になっていたのは、

実際にこの二人はどういう関係なのかなということでした。

ラストシーン、ウージェニーはドダンに、

「あなたにとって私は妻?それとも料理人?」と尋ねます。

私も知りたかった。だから行き届いた脚本だとは思います。

思いますが、その会話のシーンの直前に、

まぁそうなるよねぇ・・・と感じられるシーンがあったので、

あ~ドダンの答はやはりそうか・・・となりました。

 

あの答のドダンの真意はどこにあったのかなぁ。

ウージェニーはどう受け止めたのかなぁ。

彼の中には美食家の自分と男として彼女を愛する自分、

彼女の中に料理人としての自分と女として彼を想う自分、

両方あるはずで、解釈は簡単ではないところが本作の魅力だと思います。

本当はそんな風に考えなくても良いのかもしれませんが・・・。