映画『身代わり忠臣蔵』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『身代わり忠臣蔵』

『身代わり忠臣蔵』

(上映中~:J-MAXシアターとやま、TOHOシネマズファボーレ富山、TOHOシネマズ高岡、イオンシネマとなみ)

公式サイト:https://migawari-movie.jp/

 

「忠臣蔵」をベースにした土橋章宏さんの同名小説を、

河合勇人監督、ムロツヨシさん主演で映画化したエンタメ時代劇です。

松之廊下で浅野内匠頭に斬りつけられた吉良上野介義央は、

その傷がたたって死んでしまい(この時点でフィクションですよ)、

お家存続のため義央そっくりの弟・孝証(たかあき)が身代わりになる。

という展開です。ムロさんは孝証と義央の2役です。

 

「忠臣蔵」自体はあんまり好きでもないのですが、

実際、よく知られている物語はどこまでが事実かは分からず、

ゆえにいろいろと脚色された映画やドラマ、芝居などはあって、

それは結構面白いものが多いですね。

本作も、終盤には切なさも出てきますが、

全体的なテイストとしては軽く楽しめるコメディでした。

なにより、吉良家の人間が主人公なところが面白いです。

 

いわゆる「忠臣蔵」によれば、赤穂浪士四十七士の仇討ちは、

庶民からは支持されたとのことですが、世間なんて衆愚ですからね。

赤穂藩士や世間から見た真実はそれでもいいけど、

吉良家には吉良家の真実があるんじゃないの・・・とも思うわけです。

そもそも、吉良上野介の今でいうところのパワハラが酷くても、

浅野内匠頭にもう少し思慮があれば起きなかった事件であるともいえます。

本作では大石内蔵助がそこを嘆いていて、まぁそうなんですよね。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

 

孝証は出家していましたが、修行に身が入らず、

たまに吉良邸に来て金をせびっては、またふらりと出ていくフーテン野郎。

今回はたまたま帰ってきたタイミングで騒動に巻き込まれます。

しかし、偽物とはいえ主君になって、初めて見えてくることもありました。

 

実は史実によると、吉良上野介は地元では名君と謳われている人物でした。

なので、江戸城から屋敷に戻った時、家臣たちは一同に喜んでいました。

やはりそういうことなのかな・・・と思ったのですが、

いざ、孝証が兄の真似をする稽古に入ると、やはり暴君だったようで、

パワハラ、モラハラ、セクハラのオンパレード。

この描き方はちょっと統一感に欠けていました。

 

でも、吉良上野介は孝証に変わっていますので、

おかしいと思ったことは改革していくわけです。

ただ、孝証ももともとは聖人君子ではなかったわけで、

まぁ、川口春奈さん演じる女中の桔梗さんと暮らしているし、

屋敷の子供たちと接していれば心も洗われるわけで、

それでだんだんまともになりましたと解釈しております。

また、庶民感覚を持っていたことは間違いないので、

やたらと「武士」を強調する周りの意見に疑問を持っていたことも確かです。

 

もうひとつ、現代的な展開の面白さとしては、

互いの立場を知らないまま出会った孝証と大石内蔵助は友人になります。

が、結局は立場を知ってしまった。その時はもう討ち入りは止められない。

果たして赤穂浪士は本物の吉良上野介ではない孝証を討つのか、

それとも、なにか別の方法を考えるのか・・・というところです。

 

実は本作で一番悪いやつは、幕府で実権を握る柳沢吉保です。

これも史実は分かりません。本作ではとにかく悪役です。

柄本明さんが演じてまして、意外と(でもない?)こういう役が多いですね。

松之廊下で背中を斬られたので吉良家をお取り潰しにしよう。

吉良上野介がその傷がもとで死んだのであればお取り潰しにしよう。

そういう圧力をかけているわけです。

 

また、赤穂浪士の仇討ちは幕府としては認めないと決めた以上、

仇討ち奨励の時代にあっても、討ち入りを評価することはしません。

それは「幕府の面目」が立たないからという理由です。

その一方で、吉良家の江戸屋敷を本所松坂に移動させて、

赤穂浪士が討ち入りをしやすいようにしています。

そして、「吉良家の方で返り討ちにしなさい」と命じました。

 

いや、どこまでが史実かは分かりません。

でも、本作では柳沢吉保こそが極悪人なのです。

時の幕府の政治下にあっては、吉良家も被害者だったことになります。

そして、この政治的構図、権力者の横暴は今も変わらないのではないかと。

それは私のイデオロギーが勝手にそう感じさせてるだけかもしれませんが・・・。

 

そんなこともあって、私、ちょっと望みを持って観ていました。

そもそも身代わり自体がフィクションなんだから、

誰も不幸な人間が出ないように、幕府を欺き続けて終われないかな・・・と。

でも、赤穂浪士が吉良上野介を討ち取って、のちに浪士たちは切腹した、

という真実ではなく“事実”がある以上、そこは動かせないのですね。

やはりそうなってしまうのか、切ないな・・・という終わり方でした。

 

それよりも、終盤のギャグに行きすぎのところがありまして、

討ち入りの後にラグビーの演出は必要だったのか疑問が残ります。

そこまで面白かったのに、なんかぶち壊してるなぁとさえ感じました。