映画『ほかげ』
『ほかげ』
(上映中~2/9:ほとり座)
公式サイト:https://hokage-movie.com/
終戦直後、焼け残った小さな居酒屋に1人で住む女は、
体を売ることを斡旋され、絶望から抗うこともできぬ日々。
そんなある日、空襲で家族を失った男の子が、
女の暮らす居酒屋へ食べ物を盗みに入り込みました。
それ以来、男の子はそこに入り浸るようになり、
女は子どもとの交流を通してほのかな光を見いだしますが・・・。
最近は俳優としての活動が目立つ塚本晋也監督ですが、
何年かぶりに監督作を発表すると、やはりインパクト大です。
『野火』の時も感じました。こういう反戦映画もあるのだと。
焼け残った居酒屋は夜のシーンが多く、
いや、昼間であっても、全体的に暗い映像が続く中、
主演の趣里さんのテカった表情が艶めかしくて、
この女主人自身は生きる希望なんか失ってるんですが、
本人の望みとは関係なく、男たちに生気を与えているような・・・。
ただ、主演は趣里さんですが、主人公は男の子です。
男の子役は塚尾桜雅(つかおおうが)さんという子役さんです。
本作はほとんどの登場人物に役名がありません。
あるのかもしれませんが、誰も名前で呼んでない。
終戦後のどさくさ、生きていくのがやっとの中で、
名前なんか呼び合ってなんになるのかということでしょうか。
女主人と男の子はしばらく一緒に暮らしているのに、
しかも、彼女はその暮らしに希望を感じ始めていたのに、
それでも「ぼうや、ぼうや」と呼び続けていました。
(以下、“適度”以上にネタバレしています。ご了承ください)
女主人は男の子に盗みなどせずちゃんと働くように諭します。
男の子は昼間働いて、夜は居酒屋に戻ってくる。
ただ、何をして働いているのかは話そうとしません。
よく考えたら、女主人は昼間もずっと店にいますが、
男の子は外に出て、終戦後の社会を目の当たりにしてるんですね。
ほどなく二人に別れが訪れます。
というのも、女主人が病気になってしまった。
暗い映像の中での趣里さんの唇が気になりました。
そう、恐らく梅毒、ひょっとしたら別の病かもしれません。
そこははっきりさせませんが、とにかく男の子は出ていくことに。
男の子は少し前に知り合って「仕事を紹介する」といってきた、
森山未來さん演じる若い男に着いていくことになります。
その道中、子供が売られていく場面を目の当たりにしたり、
おかしくなってしまい納屋に閉じ込められている男に会いました。
そして、若い男の目的は戦時中の元上官への復讐でした。
ここで、若い男の名前だけアキモトシュウジだと分かります。
元上官は今は優しそうですが、戦時中は鬼で悪魔でした。
そう、戦争は人を悪魔に、社会を地獄に変えてしまうんですね。
あの時は戦争だった。仕方なかった。
という理屈を通用させていいのでしょうか?ということです。
そして、国家が戦争終結を宣言し、天皇陛下が玉音放送したとしても、
一人一人の戦争は簡単に終わりはしないのだということが分かります。
男の子は再び居酒屋に戻りますが、
もうそこに彼の居場所はありませんでした。
彼は女主人の言葉を胸に刻んで、終戦直後の厳しい社会を、
今までと違って、まっとうに生きようと決意します。
そこに救いを観ることもできますが、
そもそも、戦争してる時点で社会に救いはあるのかとも思えるのです。