映画『野火』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『野火』

『野火』
(上映中~8/7:フォルツァ総曲輪)
公式サイト:http://nobi-movie.com/

太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。
日本の敗戦は時間の問題となっていた中、田村一等兵は肺病を患い、
所属する部隊では病院に行けと命令されるが、病院では肺病ぐらいで来るなと追い返される。
そうしているうちに、自分の部隊も病院もアメリカ軍の攻撃で壊滅し・・・。

部隊と病院を何度も往復していく中でのやりとりは、受け止めようによってはギャグです。
しかし、戦場はどう肯定的に理解しても、笑いごとではない悲劇の舞台です。
大岡昇平さんの実体験をもとに書かれた小説が原作です。
戦場で極限状態になった人間はこうなってしまう・・・という世界が描かれています。

この時の日本軍は既に「どう戦うか」という次元にはない状況です。
一人一人の兵士が「自分はどう生き延びるか・・・」ということしかありません。
そこには、今の私たちが平和に暮らしている日本での倫理観とは別の倫理観が存在します。

本当にたくさんの人が死んでいきます。日本兵の死体の海です。
腕はちぎれ、血は流れつづけ、生きていても身体にはウジが湧いて湧いて湧いて・・・。
一方で、◎◎を食べてでも生き残ろうとする者も出てきます。

これPG12程度で良いのですか?と思う程の映像表現です。
いや、良いのだと思います。子供のうちからトラウマになるぐらいが良いのかも。
考え方はいろいろで構わないと思いますが、戦争の大義なんて本当はないですよ。
国家としては防衛の装備と準備は必要ですが、戦争はダメ。絶対にダメです。

田村はルソン島内をさまよう中で、ある部隊と遭遇し、行動を共にし始めます。
ここの部隊長は変わり者で「大丈夫!弾は俺をよけて通る」なんて言ってます。
しかし、その部隊の隊員は田村に言います。
「こんな酷い俺たちの部隊につき合う必要はない。君は“自由”なんだから」と。

あの状況下で得られる“自由”って・・・。「自由」って何なのでしょうか。
なんていうか、その他のことも、本当にいろいろ考えさせられました。
塚本晋也監督は監督・脚本・編集・撮影・製作、そして、主演を務められました。
金銭面など条件は揃わなかった。でも、今、撮らなければ・・・という思いも伝わりました。

金曜日の昼の上映で観ましたが、フォルツァ総曲輪の客席は結構な人の数でした。
戦後70年の夏を迎えている今、この作品を映画館で観られて良かったです。