映画『午前4時にパリの夜は明ける』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『午前4時にパリの夜は明ける』

『午前4時にパリの夜は明ける』

公式サイト:https://bitters.co.jp/am4paris/

 

フランス映画です。

原題は『Les passagers de la nuit』、翻訳すると『夜の乗客たち』。

本作で重要な要素になる深夜ラジオ番組のタイトルが『夜の乗客』で、

邦題の『午前4時に・・・』というのは、その放送が終わる時間・・・だったかな?

ラジオが絡んでくる映画ということで、私、当然のように沁みちゃいました。

物語の舞台となる1980年代は今よりラジオにパワーがあった時代です。

いや、パリはどうだったか知りませんが、多分そうだったんでしょう。

 

フランスにミッテラン政権が誕生したころ、

主人公の中年女性エリザベートは夫と別れて仕事を探すことになります。

夫は新しい女ができて出て行っちゃったみたいで、

それなりに成長してはいますが、2人の子供は彼女が育てることに。

大学生の長女は政治活動に熱心、高校生の長男は詩を書いています。

エリザベートは結婚生活では働いてこなかったようで、

勤め始めた会社ではデータ入力ができずに一日でクビになってしまいました。

 

で、行きついた仕事は深夜ラジオの電話オペレーター。

人生相談の番組でして、リスナーとパーソナリティの橋渡し役です。

これ、意外と難しい仕事でして、私がFMとやまに就職したころは、

夕方の生放送『電リクパニック』は大学生が、

午前の生放送『おしゃれフリーク』は大人の方が、

それはもう上手にリスナーとの電話での会話をメッセージ変換なさってました。

アルバイトなんですが、ある意味、プロ意識を強く感じる仕事ぶり。

ですが、メールが主流の時代になると、学生さんのスキルは落ちました。

本作の『夜の乗客』とは違うタイプの番組ですが、

そんなことを思い出しながら、序盤からどっぷりドラマにはまっていきました。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

ラジオの仕事を通じて、エリザベートは家出少女のタルラと出会います。

正直、素性がよく分からないまま、しかし、放っておくことができず、

エリザベートはタルラを自宅へ招き入れ、子供たちと4人で暮らし始めました。

でも、そんなにセンセーショナルな物語という印象は受けませんでした。

そして、だからこそ沁みるし、観ていてなんだか心地よかったです。

 

いや、いろいろあると言えばあるんですよ。

エリザベートは乳癌の手術をしていて、片方の乳房がありません。

でも、それに関しては基本的には立ち直っています。

図書館でも働き始めて、新しい男性と出会います。

高校生の息子は授業に身が入らず、詩ばかり書いています。

でも、高校の先生が「詩人になるなら高校生のフリはしなくて良い」と。

ちょっとクールに突き放すんですが、自主性を尊重してるんですね。

こういうのって日本の教育現場にはない感じじゃないかなと思いました。

姉弟は当時の今どきのファッションながら、政治の話もちゃんとしています。

そして、タルラは薬物依存になってしまいます。

 

何もないわけじゃないんです。でも、そこまで特別でもない。

多くの人の人生って、そんなものかもしれません。

夢を持つ。恋をする。上手くいかないことも多い。そして、新しい扉を開く。

これまでの人生、日々の生活、いずれもその人なりに悲喜こもごも。

それでも夜は明けて、また新しい一日の中で暮らしていくことになる。

だとしても、誰の人生もこんな風に映画にしようと思えばできる。

と感じさせる、淡々と流れていくフランス映画の空気感が心地よいのです。

3年後、7年後、急に展開が新しくなっていますが、

なんとなく想像ができてしまうので、話に置いてけぼりにされません。

 

エリザベートは『夜の乗客』に救われていたから、今の仕事にたどり着いた。

タルラもラジオと映画に救われていたと話します。もう共感しかないです。

ドラマ波よ聞いてくれの感想でも書きましたが、

私はラジオパーソナリティとしてリスナーさんの役に立てているのだろうか・・・。

その他、映画館では当時ヒットしたハリウッド映画も流れて、

あぁ俺も青春だったな・・・と、まぁそんなことも感じながら観ていました。

 

エリザベート役はシャルロット・ゲンズブール。

綺麗ですが、自然体の50代。同世代の私は全く違う人生だけど共感できます。

『夜の乗客』のパーソナリティ役がエマニュエル・ベアールでした。

久しぶりに拝見しましたが、ちょっとお顔を加工しすぎてしまったようです。

もうスタジオで煙草をプカプカプカプカ・・・。80年代はこれが許されました。

それ以外にも、多くの登場人物がプカプカプカプカ・・・。そういう時代でした。