映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』

妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII

(上映中~:TOHOシネマズファボーレ富山、J-MAXシアターとやま、TOHOシネマズ高岡)

 

ついに3作目。パートⅠ」「パートⅡと根本的な部分は変わらないですよ。現代社会の庶民の普遍的な課題が山田洋次節コメディタッチで描かれています。今回は「主婦の尊さ」という、「え?今さら、これ?」というようなテーマなのですが、実際に観てみると、今だからこそ考えたい世界が描かれていました。

 

山田洋次監督作品は昔からそうですが、今となっては完全に「古典落語的映画」です。でも、古典落語は今の人が聞いても感覚的に理解できるんです。つまり、世の中は変わっても、人の中身はあんまり変わってないんですね。悪く言えば、全く成長していないということです。

 

今回のヒロインは夏川結衣さん演じる平田史枝。平田家の長男・幸之助(西村まさ彦さん)の奥さんです。幸之助の自分に対するぞんざいな扱いに嫌気がさしたというか悲しくなっというか、家出をしてしまう・・・という展開です。で、家族が集まって会議してる。あとはなるように・・・。

 

プロレタリア映画ですから権力批判・・・ということも今回はなく、過疎化とか高齢化とか、今回も社会問題を併せて描いてはいますが、なんというか、実は政治では解決できないことで、我々が日頃の生活の中で対応するしかないのでは・・・と考えさせられます。まぁ、そこも落語なんです。

 

ただ、ちょっと怖いなと思うのは、序盤から中盤にかけての幸之助の考えや言動に、実は賛同してる人も少なくない現実もあるのでは・・・ということでした。最近、◎◎ハラスメントを訴える人も増えてきましたが、逆にそういう人たちを理不尽に非難する声も少なくないでしょ。

 

落語っぽいといえば、林家正蔵師匠は平田家の長女の夫役ですからレギュラー家族なんですが、今回、初めて出演した立川志らく師匠が演じる刑事とのやり取りが・・・。これはなんですか、「代理戦争」と呼ぶにはブラックユーモア溢れすぎの共演。などと深読みせずに素直に楽しめばいいのでしょうか。

 

シリーズとしての楽しみとしては、今回、小林稔侍さんはどんな役で登場するのか・・・と。前作は丸田さん、今回は角田さんでした。ちなみに、第1作では沼田さん(笑)。あと、笑福亭鶴瓶師匠も、何げに毎回違う役で出てくるんですよね。その他、風吹ジュンさんや木場勝己さんは同じ役。そして、鰻重も!

 

前作までは男はつらいよでいうところのマドンナ的存在だった憲子ですが、庄太(妻夫木聡さん)と結婚して完全に平田家の一員になった今作では、演じている蒼井優さんの雰囲気に、なんとなく倍賞千恵子さんを感じてしまいました。山田作品の蒼井優さん、ちょっと他の作品の役とは違う印象です。

 

過去2作に比べると、間延びや辛気臭さを感じましたし、「こういう映画が見られる平和」というのも、本作に限っては違うような気がします。また、山田洋次監督は最近、オマージュ系映画が増えてきて、本作もタイトルからしてそうなんですが、その元になる作品は観ていなくても理解できます。

 

なんだかんだで、こういう映画は観ていて落ち着きます、僕はね。ただ、色覚異常だからでしょうか、オープニングのクレジットは目がチカチカして読みづらかったです。山田洋次監督作品には珍しい、弱者にやさしくない演出でした(笑)。