「父が先週、亡くなりまして」と電話が入ったのは昨日。
不謹慎ながら、「良かった」と思ってしまったのはわたし。
「良かった」と思ったのは、その「父」の最後の意思を遂げられたから。
『入院している父が、どうしても今、不動産を母に贈与したいときかないんです』と、相談を受けたのは先月末。
脳裏をよぎったのは4年前。
同じようなシチュエーションで、贈与の立会をするその朝に、贈与者が亡くなったと時のこと。
間に合わなかった、と自分を責めたのは、相談を受けてからどうしても、業務の調整がつかなくて、最短で3日後と約束を取り付けたその日の朝、贈与者が亡くなったという連絡を受け。
「間に合わなかった」と、自失茫然。どうしてすぐにアポイントを取りつけなかったのか、駆けつけられなかったのかと自分を責め、その想いを4年間、ずっとわたしは引きずっていた。
そして今回、同じような相談を受け、その日のことが蘇った。
『最優先で取り掛かろう』
一時入院と言っていた。
明日にも退院すると言っていた。
贈与税の相談に行ったら、「そんなに慌てずやらなくても、いずれ相続でやればいい」、そんなことを係員から言われたとも言っていた。
けれど、問題はそこではない。
大事なのは、今、「父」が「母」に贈与をしたがっている、ならばそれを今必ず、実現させてあげなくては。
すぐに準備に取り掛かり、翌日には病院を訪ね、贈与契約を交わしていただき、わたしは病室のベットに座る「父」の目を見てはっきり尋ねた。
『この不動産を奥様に贈与する、ということで間違いないですね』
間違いないです、との言葉を聞いて、横で頷く奥様、そして見守る娘さん。
登記に必要な権利証は、本人が退院してからお届けしますと、言われたきり二週間。退院が遅れているのかと思っていた矢先、入った不意の一本の電話。
「父が先週、亡くなりまして」。
良かった、間に合った。
権利証も確認済だし、ここに「父」の意思を示す全部の書類は整っている。
落ち着いたら、お伺いしますと、一度電話を切る娘さん。
問題が無ければ若しかしたら、「相続」を選択するかもしれない。
贈与税を考慮して、「贈与」という原因での名義書き換えはしないかもしれない。
それでもいい、未来のことは、遺されたもので、決めればいい。
大事なのは、「父」が「母」に、贈与ができたと安心して逝けたこと。
双方が最期の意思を、きちんと贈り、それを受け止めたこと。
4年前の宿題を、ようやく片付けられた気がした。