ある晴れた日に。
「うにゃ」
駅に向かう途中。どこかから声がする。
「むむ?」
いつも通る道。猫とすれ違うことは珍しくもないマイホームタウンだが、声がすることはあまりない。
声がする方を振り返る。
車だ。
下か?
しゃがみ込む。
「にゃ」
また声。
「お」
発見。
「おお、よしよしいい子だ、こっちこい」
「な」
来た!
ひとしきり撫で回す。
「よし、お前の名前はトラにゃんだ!」
首輪をした明らかな飼い猫を名付けるまくしも。
しばらくナデナデしていると、
『ガブり』
いきなり噛まれる。
「ふ、まだ若いなお前は」
若干痛いが動じないまくしも。
かつて実家で飼っていた華子の本気のガジカジに比べればなんでもない。
『ととと』
トラにゃんが少し離れる。
「なんだ、もう行くのか?」
『ととと』
戻ってくる。
「よ~しよしよし」
ナデまくる。
『ガブり』
繰り返す。
時折ワンツーで繰り出す左右両手の猫パンチがかなりプリチーだ。
やがて、母親に連れられた小さな女の子がトラにゃんと私の戯れに気がつき近寄ってきた。
「なこ」
「なこじゃない。ねこだぞ」
「なこ~」
聞いてない。
「それに名前はトラにゃんだ」
と口にしそうになるが、本名は知らないのでそっと飲み込む。
なでなで
ナデナデ
少女と共に猫と戯れる。
「ねこが好きなのか?」
少女に尋ねる。
「なこ~」
多分好きなんだろう。
母親は小さな犬を連れていたため、少し離れて娘と私とトラにゃんを眺めていた。
「ふわ!」
突然少女が立ち上がる。
その小さな身体にしては大きな足音に驚き、トラにゃんが車の下の奥の方へと飛びのいた。
少女はそれにも気付くことなく、母親の元へ戻る。
「どうもすみません」
少し申し訳なさそうに笑顔で私に会釈すると、母親は少女の手を引いて去っていった。
「と、俺も行かないとな」
ふと現実に返る。
「じゃ、またな」
車の下、奥の方でまだこっちを見ていたトラにゃんに声をかけ、立ち上がる。
東京にも、こんな風景はある。