その声に僕は、「キュピーン」と音が出る程の勢いで振り返った。
「ど、どうしたんですか牧島さん。効果音出てますよ」
そこには我らが劇団音響部チーフ、せっきーこと関戸が苦笑いで立っていた。「効果音出てますよ」なんてツッコミは音屋じゃなきゃなかなか出てこない。
「友よ‼‼‼‼」
僕は関戸との距離を限りなくゼロに近づけ、その両肩を掴む。
「何ですかそれ(笑)」
韓国に到着してホテルまでのバスの中、関戸と話していたのだが、彼はプライベート含めて韓国は4回目。
「そうですね、大阪公演程じゃないけど、新潟公演よりは韓国の方が馴染みがあるかな。今更韓国だ~って盛り上がる程でもないかな」
みたいなことを目を細めながら語っていたのだ。彼に着いて行けば間違いはないだろう。
「ふふ、どうしたブラザー、今更照れるな」
「だからその意味わからないキャラはもういいですって(笑)。松本と明洞行こうって話してたんですけど、牧島さんも行きます?」
「ミョンドン?なんだそれは。あまり強そうじゃないな」
「怪獣とかじゃないですから(笑)」
こうして我々は明洞へ向かうこととなった。スタッフさん二人を加えてメンバーは五人。
タクシーに分乗し、一路明洞へ。
「すごいな、大都会だ!」
「そうですね、日本で言うところの銀座って言われてますし。僕らの泊まってるホテルのある方に比べたらかなり綺麗ですよ」
「メガネ屋さん多いね、せっきー」
振り返ると、松本が眼鏡屋の看板を見上げていた。
「カタカナだな…」
「カタカナですね…」
なるほど、言われて見回すと、至るところに眼鏡屋があり、とある一角ではそれこそ眼鏡祭りかと言わんばかりに眼鏡屋が密集している区画もあった。
なんとなく入る一同。
「ふむ、これかな…」
普段からかけているような少し輪郭の細い黒縁をかけてみる。似合わなくはないだろうが、今持ってるのとあまり変わらない。
「牧島さん、いつもそんな感じのメガネですよね。たまにはこういうレンズの大きい感じもいんじゃないですか?」
松本は、あれこれ眼鏡を試している僕を覗きこんで、少し逡巡して一つを僕に差し出す。
「ふむ…」
なるほど、フレームの色や太さは同じようだが、レンズ部分の縦幅が普段僕がかけている眼鏡の倍近くもある。所謂アラレちゃん眼鏡だ。
「確かに、たまには違う感じのもいいかもな。どれ」
松本から眼鏡を受け取り、かけてみる。
「どうだ?」
「ええっと、うーん、どうですかね…」
「おい、なんで半笑いなんだ」
「わ、笑ってないですよ、ええっと、他には…」
鏡を見てみる。
「うわぁ…」
我ながらなんとも形容し難い姿だ。松本が言葉に窮したのにもすごく納得がいく。お手元に僕の写真がある方は、是非その写真にアラレちゃん風味眼鏡を書き込んで貰いたい。半笑いで言葉を失うはずだ。
「なかなか俺に合うメガネってないんだよ、だからいつも同じような眼鏡なんだ(笑)」
今度こそはと上だけフレームがあり、下はノーフレームの眼鏡を持ってきた松本にそう言い添えて、一応受け取ってかける。
松本は吹いた。
ほんの少し、悲しかった。
「牧島さん、近くに実弾射撃場があるんですよ。行ってみませんか?」
そこはスタッフさんの一人が何度か行ったことがある射撃場とのことだった。明洞の少しメインから外れたところにあるらしい。
どうせなら日本ではできないことを、と一同は向かう。
中はもの静かで、僕らの他には誰もいない。パスポートを見せ、銃のカタログから撃ちたい銃を選ぶ。
「この銃を選んでる時間がまた楽しいんだよ。撃つのは一瞬だしね」
何度かここに来ているスタッフさんがカタログを繰りながら呟く。同感だった。数々の銃の写真を眺めていると、それだけでも意気が高揚する。
おのおの銃を選び、準備に向かう。僕が選んだのはワルサーP-99。スタジオライフの小道具にもあり、なんどか舞台を共にしている銃だ。小型でオートマなので初心者向けらしい。
「OZで使うかも知れないしな、感触を知っておくのも悪くない」
「フィリシアの撃つ銃はありますね?(笑)」
かなり大型のリボルバーを選んだ関戸と共に射撃スペースへ向う。
防弾ベスト、ゴーグル、耳当てを付け、まず関戸が中に入る。
やがて、銃を構える関戸。
見守る一同。
関戸が引き金を引くと、防弾ガラスと扉越しにもかかわらず、耳を引き裂かんばかりの銃声が響いた。思わず身を竦めてしまう程の衝撃波。運動会のピストルとは桁違いだ。
「まくしもさん、どぞ」
やがてお店のスタッフに僕が呼ばれる。ちなみに僕の名前は牧島だ。
装備を付け、中に入る。目の前にチェーンが渡されていて、そこに外せないように銃が取り付けられている。上下左右ある程度は動かせるが、的以外のものを狙ったりはできないようになっている訳だ。
チャンスは12発。中央が10点で、外側へ外れるごとに9点8点と減点していく的だ。
的に狙いを定め、引き金を引く。
『バンッ!』
小型の銃なので、反動は思いの外少なく、身体はブレない。だが、音は耳当て越しでもかなり耳に刺さる。また、当たり前だが本物は銃から薬莢が飛び出す。舞台ではたいていはSE、稀に火薬を使っても薬莢が出ることはないのでかなり新鮮。本物の銃を撃っているのだという実感が涌く。
最初の数発、照準が上手く捕まらず大きく外してしまったが、終盤はかなりいい感じに…
終了した的を渡される。
「なんと…」
僕の打った弾は綺麗に中央の10点を避け、その円を囲むようにぐるりと9点を貫いていた。
的に当たった数は10発。合計点は88点。
「負けた~」
見ると関戸は87点。
「ふふ、お前もなかなかやるが、まだまだだな」
一点差でご満悦のまくしも。二人共初心者だ。
中を見ると、松本が銃を構えている。小柄だがスタイルがいいから結構サマになってるな。
しかし、一発打つごとに首を傾げている。何か不具合だろうか。やがて撃ち終わり戻ってくる。
「全然あたんないです!」
えええっΣ(゚д゚lll)
「いやぁ、狙いが定まらなくて、どっちの目で見ていいか解らないし、駄目ですね(笑)」
松本は77点。さほど悪い点とも思えないが、器用にこなしそうな松本だけに驚いた。
「銃が苦手なんて、可愛いとこがあるじゃないか、ヒポリタよ」
「いいんですかね、僕がムトーで(笑)」
「まっちゃんフィリシアの方がいいんじゃないの?(笑)」
帰り際、自分の打った銃の缶バッジを記念に貰う。これがなかなか可愛くてかなり気に入った。思いがけない韓国土産♪( ´▽`)
その後、夜も更けてきたので、近くのお店でサムギョプサルをいただき、軽く飲んで今夜はお開き。
明日は初日。いよいよスタジオライフの初韓国公演が幕を開ける。