「まっきー、9時だぞ」
夢現の中ジンの声がする。
昨夜は劇場からホテルに直帰。コンビニで買い物をして大人しく休んだ。旅疲れ、という訳でもないが、まる一日劇場で走り回った翌日だけに身体は重い。
ちなみにこのホテルにはジンと僕の他、松本、関戸、吉田、仲原が滞在している。同じホテルで全員の予約が取れなかった為、数カ所に別れて宿泊している。スタッフさんはスタッフさんでまとまっていて、Jr5と9がまとまって泊まっているホテルもある。富士と鈴木はどこなんだろう。
今日は仕込み二日目。昨日の仕込みが思いの外順調だったので、昨日より一時間遅い10時目指して劇場へ向かう。
9時半に部屋を出る。
仲原は徒歩で向かい、松本、関戸も既に部屋を出た様子。
ロビーに降りると吉田が残っていたので三人でタクシーに乗ることに。
大通りに出ると、ジンが先頭に立ってタクシーを止める。英語を話せない僕が聞いても適当だと解る英語で運転手と話し、
「OK、乗るよ」
とこちらを振り返った。
国内ツアーでも然りだが、ジンは本当に行動力があり、頼りになる存在だ。僕一人だったらタクシーに乗るにもジェスチャーで四苦八苦することだろう。
昨日帰りも歩いたので、韓国でのタクシーは初めて。なんだかこの旅は初めてが至るところに転がっていて退屈する暇がない。
音響チェックを経て、そのまま歌のチェックへと進む。先輩方は今夜到着なので、ヴァイオラ、セバスチャン、鳥が中心。またまたトラブルもなく順調に進んでいく。
ソロのない僕はひたすら客席で音を聴きつつ、トラブルがあった際にすぐ動けるよう待機。若干うつらうつらしているのはご愛嬌だ。
客席の後ろの方では衣裳準備も落ち着いたゲシちゃんこと青木さんが通訳の方と何やら相談している。
「薬師丸…?解りませんねぇ」
「そうですか…ワンピースは大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
不思議な会話だ。
「あと人気があるのはセーラームーンとかコナンとかですかね。特にアニメが好きでなくても皆知ってますね」
「そうなんですか~。じゃあじゃあ…」
最後まで聞かないうちに読めてきたので静かに退散。本番まで楽しみにしておこう。
ほどなく昼休憩。今日は照明さんとタイミングが合ったので、音響チームと照明チームで食事へ。
例によって通訳さんの案内のもと、ダッカルビの店に到着。
僕のテーブルは仲原、鈴木、原田の照明チームトリオと僕の4人。すぐ隣のテーブルに照明さんと亮さんと関戸が座っている。
「ダッカルビ人数分と、ご飯人数分でいいですか?」
と通訳さん。
「あ、でも辛いかも知れません。チーズ入れると少しまろやかになりますけど、入れますか?」
本場の辛さも魅力だが、昨日の例もある。それにチーズ入りといのはそれだけでテンションが上がる。料理に乳製品は魔法だ。
という訳でチーズ入りダッカルビを人数分注文。
「やべぇすげぇうまそう。やべぇすげぇうまそう!」
原田大興奮。
しかし、この湯気といい匂いといい、原田でなくても盛り上がらざるを得ない。
「ヨギヨ~」
ふと仲原が謎の鳴き声を発した!
「な、なんだ急に。新しいネタか?」
「あ、えっと」
仲原が答える前に店員さんがやってくる。仲原は空になったキムチの皿を渡し追加を促した。
「む?キムチはお代わりできるのか?」
「キムチだけじゃなくて、サラダもナムルもお代わりできますよ。あ、さっきのは韓国語で「すみません」って意味で、店員さん呼ぶときに使うんです」
「なんと、既にネイティブか!」
「いや、みんな知ってますよ(笑)」
く、遅れを取った…。ヨギヨ~、か。覚えておこう。
「本来は「ここです」って意味なんですけどね。店員さん呼ぶとき使うんで、日本語に意訳すると「すみません」になるんです」
と、鈴木。彼はは学生時代サークルで韓国語をやっていて、こっちに友達もいるらしい。
「ヨギヨ~」
原田が店員を呼ぶ。早速使ってるな。
「サラダチュセヨ」
えっ?
頷き去る店員。
「おい原田、今のはなんなのだ?」
「え?サラダ下さいって言っただけですよ」
「なんと…サラダは韓国語でもサラダなのか?」
「わかんないですけど、そもそも日本語じゃないし、通じるかなって」
なるほど、確かにサラダはそとそも外来語だ。日本で「サラダ下さい」なら韓国語で「サラダチュセヨ」で言い訳だな。どうも僕のような昔気質な者は、全部韓国語じゃなければいけない気がして気後れするが、そもそも日本語を話すときも英語やその他外来語を交えて話すのが普通だ。勉強になるな。
その後、チーズでまろやかになったとは言え辛過ぎるダッカルビを食し、休憩は終了。ちなみにご飯は白飯ではなく、ダッカルビをベースにした焼き飯。これまた激辛で、美味さと辛さにヒーハーしながらも完食。やはり韓国での食事は闘いだ。だが今日は勝ったぞ、多分。汗だくだけど。
劇場に戻り、作業は続く。
あまりに順調で部署によっては夕刻には作業が完了。19時を少し回ったあたりで解散の運びとなった。
この時間に解散は、東京でも国内ツアーでもまずないこと。ましてやここはソウル。一同のテンションは上がりまくる。
ここは韓国散策の大チャンスだ。
どこへ行こうか…しかし、まさか自由時間が訪れると思ってなかったから全く知識も予定もない。
「牧島さん、どうします?」
そこに救世主が降臨する!
続く!