学生時代は鴻上尚史が好きで、この人の書いたものは一文も逃さずに読みたいとさえ思っていた。『天使は瞳を閉じて』もそんなふうに思って買い求めた本で、当時は上演されていなかったので戯曲を読んで何度も脳内で上演した。この本のあとがきで鴻上尚史は『ベルリン・天使の詩』に触れている。鴻上氏が感動しながらも「問題はこの後じゃないか」と怒ったという映画が今『午前10時の映画祭』として上映されている。
ダンサーに恋をして人間になることを選んだ天使1と天使のまま留まった天使2の物語である。鴻上氏の言う通り、いつか恋は終わるかもしれない。コーヒーにも風景にも感動することはなくなるかもしれない。そのとき、天使1はどうするのか。どうすればいいのか。鴻上氏の言うように、旅立ちを描くことはたやすい。
しかし彼はあのベルリンで何十年、何百年と天使をやっていたのだ。それでも人間を諦めず、天使としてではなく人として彼女のそばにいたいと思ったのだ。
いつか恋は終わる。しかし天使が肩を抱いても救えなかった誰かを、人として関わることで今度は救えるかもしれない。コーヒーを初めて飲んだときの感動は無くなっても、やっぱり寒い日のコーヒーはうまい。
だからピーター・フォークだってこっちにおいでと言ったんだ。
『ベルリン・天使の詩』
ヴィム・ヴェンダース
『天使は瞳を閉じて』
鴻上尚史
白水社