意思がはっきりしない雨降り模様だった5月11日の昼下がり。
毎月恒例、
今月の銀座『日本歳時記 壬生 』のお時間でした。
私にとって、
日本を学ぶ学校です。
玄関先の掛け軸には、
◎
「すかる」と書かれてましたが、
「すかる」とは、
「しゃれこうべ(頭蓋骨)」のことです。
お手洗いには、
花菖蒲、
お部屋には、
葉菖蒲が飾られてます。
「今の季節は、ごちゃごちゃした色の花ではなく、
緑色の菖蒲だけを鑑賞していれば、
心の病もなくなるのよ」(By女将さん)
◎
『壬生』唯一の飲みものである日本酒が入っていたのは、
水さしに使われる「水注」です。
取っ手が長く、
水を一本の柱のように注ぐことができるのが特徴です。
◎
お部屋の隅には、
木で造られた空豆の置き物がありましたが、
触っておくとご利益があるとのことで、
ムツゴロウさんが動物を「よーしよしよし」と撫でる位、
触りまくりました。
何で「空豆の置き物」があるんだろうと思っていたら、
今月のお料理には、
天豆(空豆)が登場するからとのことです。
でもって、
今月のお題は、
『豆とまめがら』でした。
なんのこっちゃと思えば、
掛け軸に描かれていた「吉田兼好」の「徒然草」(NO69)に、
“豆を煮るに豆殻をもってす”
という台詞があるからだそうです。
お部屋に掛けてあった「吉田兼好」の掛け軸を写真に撮りそびれましたが、
その頭は、
まさに「すかる(頭蓋骨)」です。
「人間、生きてる内は、色んな格好したり、おしゃれしたりするけど、
結局最後は、皆同じ姿(頭蓋骨)になるんだよ」(By女将さん)
相変わらず、
ずしっとくるお言葉ですが、
これでようやく玄関先の「すかる」の意図することが分かりました。
では、
いい加減、お料理へと移ります。
甘酢で味付けされた「春蘭」の熱々お寿司です。
春蘭がまさか食べられるとは思いもよらなかったので、
驚き一入でしたが、
甘酢と酢飯との相性、
申し分ございません。
「春蘭を食べると、きれいになるわよ。これ、一輪で1000円もするんだからね」(By女将さん)
見た目も美しく、
味わいも美しく、
美しくもなれるなんて、
最高ですよね。
すると、
女将さんから、
「まりちゃん、左手出して」(なぜか『壬生』では、私の名前は「まり」です)
と言われたので、
左手を出すと、
はい、指輪になりました。
「昔はこうやって、春蘭を指輪にして遊んだのよ。 まりちゃんの婚約指輪ね」(By女将さん)
「わー、きれいきれい~。婚約指輪だぁ」と喜んだのも束の間、
生憎、
婚約相手がおりませんでした。
てぃらりーん(BGM)
気を取り直して、
「杜若」のお椀です。
「杜若」といえば、
在原業平が詠んだ歌がありますね。
から衣
きつつなれにし
つましあれば
はるばる来ぬる
たびをしぞ思ふ
こちらは、
頭文字をとっての歌ですが、
そういえば、
私にも、
「そのやままきえです 」
がありました。
なんの風情もへったくれもないですが、
よろしければ、
ご参考までにどうぞです。
蓋を開けると、
蓋の裏にも「杜若」柄です。
茹でた小豆をさらした時に出る色ですね。
お椀の中には、
今しか食べられない「琵琶湖の天然鮎(炙り)」が2匹いました。
香ばしさとほろ苦さが何とも言えません。
鮎の下は、
ことことおだしで炊かれた「ずいき」です。
このとり貝を食べたら、
いかに今までヘンテコとり貝を食べていたのかが分かります。
今回は、
豆がテーマでしたから、
胡瓜や大根のつまの代わりに、
絹さやの千切りが添えてあります。
しかし、
相女はどこにいるのでしょう。
氷の下にいました。
さぞかし寒かったことでしょう。
ここで、
今回ご一緒だった『壬生』歴30年の奥様が、
いつも常備なさっているという「ういろう」とやらを一粒お恵み下さいました。
この写真の中央にいる白っぽくて丸っこいのが、
小田原でしか作られないという「ういろう」です。
仁丹そっくりです。
昔は、この「ういろう」に助けられた関東人さんが多いんですってね。
齧ると、
「良薬は口に苦し」
でした。
ぷっくりふっくらのキスの天ぷらは、
筒揚げにされているので、
中骨ごと頂きます。
一緒に、
今月でおしまいの「たらの芽の天ぷら」も、
自然界の食べるお薬です。
ジャックと豆の木の「天まで届け」といわんばかりに、
独活の千切りを雲に見立てて、
空豆が天に伸びてます。
空豆は、
鞘から取り出した空豆をフライパンで焼いてありました。
茹でるよりフライパンで焼いた方が、
はるかに旨みもホクホク感も残るからだそうです。
◎
空豆の下には、
おだしで炊かれた独活がいました。
2種類の独活(生と煮)の食感と味わいも楽しめる逸品です。
ここで、
鯉が龍になった永楽の器が出されましたが、
今度は、
女将さんが、
大きな龍の模様の器を持って、
ご登場です。
ご立派な器の中にいたのは、
◎
大振りの「本カマス」の焼き物でした。
これを女将さんが一人ずつ取り分けて下さいます。
「水カマス」とは違って、
身はすこぶるしっとりふっくらです。
幽庵焼きになってました。
「お魚を食べたら、お口をさっぱりしましょ」ってことで、
お次に、
パッションフルーツが運ばれてきましたが、
◎
中は、
卵白と寒天で作られた「淡雪寒」になってました。
「パッションフルーツは、自律神経を整えてくれる働きがあるから、
まぁ、何も問題ないだろうけど、まりちゃんもしっかり食べなさいよ。
特に女の人にはいい果物だからね」(By女将さん)
「はい、身も心も正常値でいるために、しかと頂きます」(Byまり)
パッションフルーツの種も全て取り除かれてます。
手間がかかるのなんのっての渾身作ですね。
「本カマス」同様、
女将さんが、
大器を抱えてらっしゃいました。
湯気がもくもくと立ち上る乳白色のカステラ風なものです。
◎
百合根・めりけんこ(薄力粉)・卵白でできた「百合根の蒸しカステラ」でした。
ふんわり食感が、
雲に乗ったような(乗ったことないですが)夢気分にさせてくれます。
最後に、
お抹茶を頂きながら、
女将さんのお言葉を耳から頂きます。
「やっぱり人間は食べることが一番。 そして、生まれ育った土地のものを愛して食べるんだよ」
と。
というわけで、
◎
帰り際にお土産として頂いた「相女のお造り」と「独活」に、
私の生まれ育った島根で作られている
『森田醤油店 』さんの「果汁だけのぽん酢」をかけて頂きました。
他にも、
森田さんには、
◎
こんなデキタ良い子達もいます。
これからも、
“すかる”になるまで、
故郷と、今を過ごす地で生まれた元気あるものを、
心から感謝して、
おいしく食べ続けようと思います。
自分の食べるものが、
自分の内面と外面、
そして、
自分の遺伝子をつくり上げます。