いよいよ丑年最後を飾る『壬生 』のお時間です。
玄関先の掛け軸は、
“丑寅”、
お部屋の中の掛け軸は、
“柿本人麻呂の午睡”
お部屋のお花は、
“寒椿”
お手洗いのお花は、
“冬菊”
お料理のお題は、
“あられ”
でした。
女将さん曰く、
「人間、死にたい位悩んだ時は、
よく食べて、よく寝て、体を温めるのが一番。
だから、柿本人麻呂も午睡(お昼寝)してる掛け軸なんだよ」
「人麻呂の顔、見てごらんなさい。いい顔してるでしょ。
15歳過ぎたら、自分の顔は自分で作るもの。
理想とする人の顔を見て、理想のいい顔を作りなさい」
と。
ますます感謝して食べる意欲がわき、
笑顔でいられるお言葉です。
食欲を駆りたててくださるお言葉を頂いたところで、
生子(海鼠)は蒸すと、
一気に旨み成分やミネラルを外に出すとのこと。
炊きたてのおかゆ風ごはんに、
海鼠特有の旨み・えぐみ・苦味等が沁み渡ります。
まさに五味を感じる逸品です。
やや白濁がかったおだしですので、
見えづらいかと思いますが、
上には、あられをイメージしたという
ちびっちゃくて丸い寒天がのってます。
お箸でつまむと、
こんな感じです。
ほろ甘い寒天でできてます。
このあられちゃんを食べ終えると、
びろ~んと、
千枚漬けより薄い聖護院蕪が、
下のしんじょうを覆っていたのですが、
そのしんじょうは、
慈姑を摺って、
蜆と合わせて練りあげられたものでした。
慈姑の強い苦みに、
体内清浄化完璧です。
お椀には、
白鳥の蒔絵です。
私も早く白鳥になりたいものです。
○
“スワンのおわん(椀)”と、
語呂もよろしいようで、
障子には、
所々光のラインが映り、
“さざ波障子”になってました。
これは一瞬しか見れないようです。
茶柱が立った感覚でしょうか。
縁起ものですね。
氷色(白色)をしたキス・平目・平貝です。
白は白でも全部微妙に色が違うから、
よーく見てから食べなさいとのことなので、
暫しにらめっこしてから、
キスから頂きます。
口の中がひんやりすると、
女将さんが、
温かい蕪の器を、
「“掌(たなごころ)”だよ」
とおっしゃって、
私の手に渡してくださいました。
○
日本は器を持って食べる食文化があります。
“掌”という言葉には、
“手の温もり”という意味が込められていますから、
「おいしいごはんを、手の温もりを感じながら食べましょう」
ということなんでしょうね。
やはり日本は素晴らしい文化を持つ国です。
○
蕪の器を置くと、
菖蒲が描かれた大きな漆器に盛り込まれた
「巨大えび芋の素揚げ」と「白子の天ぷら」が運ばれてきました。
この世にえび芋を生んだ“大阪富田林”のえび芋です。
えび芋の姿形は、
土から掘り起こされたままです。
よくもまあ、
ここまできれいに皮が剥けるもんだなぁと感心していると、
どうやら、
一度皮ごと蒸して、
その後、毛抜きで皮を剥いてらっしゃるそうです。
そうすることで、
形が崩れないというわけです。
ご主人の手から織り成される珠玉のワザですね。
この巨大サイズ、
皆様にうまくお伝えできないのが、残念ですが、
長さ20㎝はあるでしょう。
ずっしり重いので、
250g位ある気がします。
香ばしさとほっくりねっとり感に、
大地の凄みを体感せざるを得ません。
えび芋ばかりにクローズアップして、
白子がそっちのけになってましたが、
白子だって、
しっかり地に足のついた妙味です。
酢橘をぎゅっとしぼって頂きます。
ネーミングの通り、
強く大木が立ってるように見えますが、
これゴボウです。
成田ゴボウを4~5時間炊いて柔らかくしたものの中がくり抜かれてますが、
3段階に分かれていて、
まず一番上の温かい柚子甘煮とゴボウを食べると、
やや温かい金時人参が顔を出します。
まるでマスカルポーネチーズのような白和えが登場です。
敷かれたおだし(お酢入り)と共に冷たくなってます。
温度差も楽しめる極み3変化ゴボウ料理でございます。
グジ(アマ鯛)の入ったお椀です。
21世紀の新型蕪蒸しとのことですが、
まずは蕪をのせる前のおだしだけ提供され、
おだしを味わいます。
鰹と昆布とグジの旨みが濃縮された喉応えあるおだしです。
すると、
女将さんが大きな器に盛られた淡雪のような蕪を持って
ご登場です。
これを一人一人に、
先ほどのお椀にのせてくださいます。
もこもこのメレンゲ状になった蕪蒸しです。
中のおだしもグジも、全部ぐじぐじに(寒)して頂きます。
また足の先から頭のてっぺんまで温まりました。
3種のみかんで、
口の中をすっきりさせてくれましたが、
食べ終えた皮をまとめてねじり、香りを嗅ぐと、
鼻からも爽快気分になります。
これで甘いものへの食欲がわいてきました。
と、
いいタイミングで、
甘くスモーキーな匂いと共に、
女将さんが、
大きな塵取のようなものと一緒にお目見えです。
燻された松の中には、
“葛焼き”というお菓子です。
もちっとクレープ生地に包まれた中身は、
出ました、
私の大好物の大納言小豆です。
ほんわかした甘さの大粒大納言が、
至福の味わいを醸し出してくれてます。
最後に女将さんから一言、
「明日は元旦です。いっぱい食べて、ゆっくり休みなさいよ」
と。
「はい~」
と勢いよく一発返事しながらも、
明日も早朝から終日収録だったことを思い出しました。
いっぱい食べるのはお手のものですが、
早朝から終日仕事なので、
ゆっくり休むのはお預けです…。
というわけで、、、
苦笑いで、女将さんに、
今年のお礼と、新年も宜しくお願い致しますの挨拶をして、
2009年の『壬生』の幕がおりました。
ホンモノの元旦には、
何とか実家に帰って、
家族ののんびりできればと思います。
では、皆様、
一足お先に、
あけましておめでとうございます。