空のお姫様
私は世界の姿を知らない。
私が世界と距離を置いたのは産まれてから間もない頃。唯一記憶にあるのは青く晴れた、雲一つ無い空。
あの空の美しさは鮮明に覚えてるわ。抜けるような青がどこまでも続いていたの。誰にも汚される事の無い青。私はそれを閉じ込めようと決めて視界を閉ざした。だから今も私の瞳にはあの青空が広がっているの。
あの日から十三年。
私の視界は黒に覆われている。
私の楽しみはあの高くて澄んだ空を思い出す事だけ。目を開けば、あの日見た空は失われてしまう。私の宝物が奪われてしまう。それは考えるだけで寒気がしちゃうわ。
私、黒い世界は嫌い。
でもそれは仕方のない事だと私は思うの。それはもちろんあの青空の為だからね。
だから私は一人では何もできないの。どうやって暮らしていけばいいのかわからないの。パパとママがいないと生きていけないの。
パパは私にご飯を食べさせてくれる。スプーンで一口づつ、ゆっくりと。けれど時々熱いままのスープを食べさせようとするの。私が熱いよって怒るとパパはごめんね、って言って私の頭を軽く撫でてくれる。その瞬間はね、うん、嫌いじゃないわ。
ママは私をお風呂に入れたりお洋服を洗ったりさてくれるわ。私、水のように冷たいお風呂が好きなの。だって熱いのって我慢できないんだもの。冬は冷たくも熱くもないお風呂じゃなきゃ嫌なの。ママはその辺りちゃんとわかっててくれるから大好き。あ、けれどお洋服の趣味はどうなのかな?私はそれを知らないから少し心配。けれど、きっとママなら大丈夫だと思うわ。
パパとママは大好き。私の瞳にある空の次に好きかな。恥ずかしいから言わないけどね。
でも最近、なんだかパパとママの様子が変なの。
私は一人じゃ何もできないのは二人とも知ってるの。なのに、私を一人ぼっちにするの。黒い世界に私だけ残される。これがどれだけ寂しいかわかるかしら?きっと誰にもわからないわ。私の気持ちはそんなに簡単にわかるほど軽くないんだから。
それでね、パパとママが私を一人ぼっちにした後は絶対、ごめんね、って言ってくれるんだけど、パパだけとかママだけとか、二人一緒じゃないの。ケンカでもしたのかな?なんて思ったけれど、どうにも違うみたいなの。なんていうのかしら、優しい声なの。少し震えてるんだけど、甘い声。そう、オレンジ色のイメージだわ。その声を聞いたら、私何も言えなくなっちゃうの。
そんな日がしばらく続いて、私もそれに慣れちゃったから、そんなに怒ってないの。もちろん寂しいわよ。でも、私ももう子供じゃないんだから、我儘なんか言わないって。偉いでしょ?
けどね、今日は違うの。
バパもママもいないの。
もう二日も私一人ぼっち。
お腹も空いてるし、身体もベタベタしてる。冷たいお風呂に入りたいし新しいお洋服に着替えたい。私だけじゃできないのに。
どこへ行ったの?パパ…。ママ…。私を一人にしないで…。
…その時ね、なんだか目を開かなきゃって思ったの。理由なんかないわ。直感かもしれないし、神様が耳元で囁いてくれたのかもしれない。
いいえ、違うわ。きっとあの青空が教えてくれたんだと思う。根拠なんかない。理由なんかない。でもそうなの!
あの青空が目を開けてごらん、って言ったの。私はそれに従う事に躊躇いはなかったわ。だって理由なんかは言わなくてもわかるでしょ?
もう私の宝物じゃなくなっちゃうけど、仕方ないよね?
きっと今、目を開けないいと私絶対に後悔するから。それぐらいわかるわ、子供じゃないんだから!
だからね、私ゆっくりと目を開いたの。
太陽の光が眩しい。刺すよう視界を金色が覆う。目を開けてなんかいられないじゃない!いたい。痛い!イタイ!もう目を閉じちゃいたい。でも、仕方ないじゃない!目を開けないとパパとママを探せないじゃない!
…パパ、どこ?
…ママ、どこなの?
…ごめんね、パパ。ママ。
私、二人の顔わからないわ。
私が世界と距離を置いたのは産まれてから間もない頃。唯一記憶にあるのは青く晴れた、雲一つ無い空。
あの空の美しさは鮮明に覚えてるわ。抜けるような青がどこまでも続いていたの。誰にも汚される事の無い青。私はそれを閉じ込めようと決めて視界を閉ざした。だから今も私の瞳にはあの青空が広がっているの。
あの日から十三年。
私の視界は黒に覆われている。
私の楽しみはあの高くて澄んだ空を思い出す事だけ。目を開けば、あの日見た空は失われてしまう。私の宝物が奪われてしまう。それは考えるだけで寒気がしちゃうわ。
私、黒い世界は嫌い。
でもそれは仕方のない事だと私は思うの。それはもちろんあの青空の為だからね。
だから私は一人では何もできないの。どうやって暮らしていけばいいのかわからないの。パパとママがいないと生きていけないの。
パパは私にご飯を食べさせてくれる。スプーンで一口づつ、ゆっくりと。けれど時々熱いままのスープを食べさせようとするの。私が熱いよって怒るとパパはごめんね、って言って私の頭を軽く撫でてくれる。その瞬間はね、うん、嫌いじゃないわ。
ママは私をお風呂に入れたりお洋服を洗ったりさてくれるわ。私、水のように冷たいお風呂が好きなの。だって熱いのって我慢できないんだもの。冬は冷たくも熱くもないお風呂じゃなきゃ嫌なの。ママはその辺りちゃんとわかっててくれるから大好き。あ、けれどお洋服の趣味はどうなのかな?私はそれを知らないから少し心配。けれど、きっとママなら大丈夫だと思うわ。
パパとママは大好き。私の瞳にある空の次に好きかな。恥ずかしいから言わないけどね。
でも最近、なんだかパパとママの様子が変なの。
私は一人じゃ何もできないのは二人とも知ってるの。なのに、私を一人ぼっちにするの。黒い世界に私だけ残される。これがどれだけ寂しいかわかるかしら?きっと誰にもわからないわ。私の気持ちはそんなに簡単にわかるほど軽くないんだから。
それでね、パパとママが私を一人ぼっちにした後は絶対、ごめんね、って言ってくれるんだけど、パパだけとかママだけとか、二人一緒じゃないの。ケンカでもしたのかな?なんて思ったけれど、どうにも違うみたいなの。なんていうのかしら、優しい声なの。少し震えてるんだけど、甘い声。そう、オレンジ色のイメージだわ。その声を聞いたら、私何も言えなくなっちゃうの。
そんな日がしばらく続いて、私もそれに慣れちゃったから、そんなに怒ってないの。もちろん寂しいわよ。でも、私ももう子供じゃないんだから、我儘なんか言わないって。偉いでしょ?
けどね、今日は違うの。
バパもママもいないの。
もう二日も私一人ぼっち。
お腹も空いてるし、身体もベタベタしてる。冷たいお風呂に入りたいし新しいお洋服に着替えたい。私だけじゃできないのに。
どこへ行ったの?パパ…。ママ…。私を一人にしないで…。
…その時ね、なんだか目を開かなきゃって思ったの。理由なんかないわ。直感かもしれないし、神様が耳元で囁いてくれたのかもしれない。
いいえ、違うわ。きっとあの青空が教えてくれたんだと思う。根拠なんかない。理由なんかない。でもそうなの!
あの青空が目を開けてごらん、って言ったの。私はそれに従う事に躊躇いはなかったわ。だって理由なんかは言わなくてもわかるでしょ?
もう私の宝物じゃなくなっちゃうけど、仕方ないよね?
きっと今、目を開けないいと私絶対に後悔するから。それぐらいわかるわ、子供じゃないんだから!
だからね、私ゆっくりと目を開いたの。
太陽の光が眩しい。刺すよう視界を金色が覆う。目を開けてなんかいられないじゃない!いたい。痛い!イタイ!もう目を閉じちゃいたい。でも、仕方ないじゃない!目を開けないとパパとママを探せないじゃない!
…パパ、どこ?
…ママ、どこなの?
…ごめんね、パパ。ママ。
私、二人の顔わからないわ。
たとえ、すれ違いでも
少年の手はとても小さくて、何も持つ事ができない。本やペン、スプーンさえも握る事ができなかった。
少年はそんな自分の手をどうしても好きにはなれなかった。仕方のない事なんだと理解はしていたとしても、とうてい納得できるものではなかった。
そんな劣等感から次第に少年は人と関わりあう事を避ける様になった。使い道のない自分の手に幻滅し、それでもいつか自分の手が何かを掴む事ができると期待し、結局は何もできない自分の手にどうせなら最初から手なんかいらないと思うようになった。
少年には友達がいなかった。ただ一人の少女を除いて。
少女は少年を特別視はしない。甘やかすこともなければ突き放すこともない。少年の手について何かを言うことはしない。いや、それは正しくない表現かもしれない。少女は何も思わない。思うことができないのかもしれない。少年が思うには、少女には感情が欠落している。
少年は、自分の小さな手に苛んだ。
少女は、苛む感情を持ったりしない。
そんなある日、少年は自分の未来を想像した。そこには到底幸せである自分の姿を想起することができなかった。自分の手は何も掴めない。本やペンやスプーンも掴めない。そして、夢も掴めない。そこにあるのは、何も変わらない自分。
少女は自分の未来を想像したりしない。今を生きるだけ。そのなかで、少女は今を生きる為に必要な言葉を知る。その言葉は魔法だ、と誰かが言っていた。
ある日、少年は少女を訪ねる。未来のない自分を彼女はどう言うだろう。それが知りたかった。彼女の言葉はいつだって真実だと思っていたから。
少年は少女に自分の話をした。でき得る限り細かく、感情的にはならないように。ゆっくりと時間をかけて気の済むまで話をした。
話を聞き終わった少女は、少しの間無言だった。その間、少女の脳裏に浮かんでいたのはあの魔法の言葉だった。
そして少女は、少年の手をそっと握ると優しい声でこう言った。
「私は貴方と手を繋ぐ事が好きだから」
少年は、うん、と応え、それでいいのだろうと思った。救われたとは言わないけれど、ただ、それでいいのだろう、と。
少女は結局その魔法の言葉の意味について理解はできなかった。だから自分には必要のない言葉だと思った。捨てていい魔法の言葉、自分には必要のない言葉、それは。
嘘。
少年はそんな自分の手をどうしても好きにはなれなかった。仕方のない事なんだと理解はしていたとしても、とうてい納得できるものではなかった。
そんな劣等感から次第に少年は人と関わりあう事を避ける様になった。使い道のない自分の手に幻滅し、それでもいつか自分の手が何かを掴む事ができると期待し、結局は何もできない自分の手にどうせなら最初から手なんかいらないと思うようになった。
少年には友達がいなかった。ただ一人の少女を除いて。
少女は少年を特別視はしない。甘やかすこともなければ突き放すこともない。少年の手について何かを言うことはしない。いや、それは正しくない表現かもしれない。少女は何も思わない。思うことができないのかもしれない。少年が思うには、少女には感情が欠落している。
少年は、自分の小さな手に苛んだ。
少女は、苛む感情を持ったりしない。
そんなある日、少年は自分の未来を想像した。そこには到底幸せである自分の姿を想起することができなかった。自分の手は何も掴めない。本やペンやスプーンも掴めない。そして、夢も掴めない。そこにあるのは、何も変わらない自分。
少女は自分の未来を想像したりしない。今を生きるだけ。そのなかで、少女は今を生きる為に必要な言葉を知る。その言葉は魔法だ、と誰かが言っていた。
ある日、少年は少女を訪ねる。未来のない自分を彼女はどう言うだろう。それが知りたかった。彼女の言葉はいつだって真実だと思っていたから。
少年は少女に自分の話をした。でき得る限り細かく、感情的にはならないように。ゆっくりと時間をかけて気の済むまで話をした。
話を聞き終わった少女は、少しの間無言だった。その間、少女の脳裏に浮かんでいたのはあの魔法の言葉だった。
そして少女は、少年の手をそっと握ると優しい声でこう言った。
「私は貴方と手を繋ぐ事が好きだから」
少年は、うん、と応え、それでいいのだろうと思った。救われたとは言わないけれど、ただ、それでいいのだろう、と。
少女は結局その魔法の言葉の意味について理解はできなかった。だから自分には必要のない言葉だと思った。捨てていい魔法の言葉、自分には必要のない言葉、それは。
嘘。