たとえ、すれ違いでも | fish-onさんのブログ

たとえ、すれ違いでも

少年の手はとても小さくて、何も持つ事ができない。本やペン、スプーンさえも握る事ができなかった。

少年はそんな自分の手をどうしても好きにはなれなかった。仕方のない事なんだと理解はしていたとしても、とうてい納得できるものではなかった。

そんな劣等感から次第に少年は人と関わりあう事を避ける様になった。使い道のない自分の手に幻滅し、それでもいつか自分の手が何かを掴む事ができると期待し、結局は何もできない自分の手にどうせなら最初から手なんかいらないと思うようになった。


少年には友達がいなかった。ただ一人の少女を除いて。

少女は少年を特別視はしない。甘やかすこともなければ突き放すこともない。少年の手について何かを言うことはしない。いや、それは正しくない表現かもしれない。少女は何も思わない。思うことができないのかもしれない。少年が思うには、少女には感情が欠落している。


少年は、自分の小さな手に苛んだ。
少女は、苛む感情を持ったりしない。


そんなある日、少年は自分の未来を想像した。そこには到底幸せである自分の姿を想起することができなかった。自分の手は何も掴めない。本やペンやスプーンも掴めない。そして、夢も掴めない。そこにあるのは、何も変わらない自分。


少女は自分の未来を想像したりしない。今を生きるだけ。そのなかで、少女は今を生きる為に必要な言葉を知る。その言葉は魔法だ、と誰かが言っていた。

ある日、少年は少女を訪ねる。未来のない自分を彼女はどう言うだろう。それが知りたかった。彼女の言葉はいつだって真実だと思っていたから。

少年は少女に自分の話をした。でき得る限り細かく、感情的にはならないように。ゆっくりと時間をかけて気の済むまで話をした。


話を聞き終わった少女は、少しの間無言だった。その間、少女の脳裏に浮かんでいたのはあの魔法の言葉だった。
そして少女は、少年の手をそっと握ると優しい声でこう言った。

「私は貴方と手を繋ぐ事が好きだから」

少年は、うん、と応え、それでいいのだろうと思った。救われたとは言わないけれど、ただ、それでいいのだろう、と。


少女は結局その魔法の言葉の意味について理解はできなかった。だから自分には必要のない言葉だと思った。捨てていい魔法の言葉、自分には必要のない言葉、それは。

嘘。