『続・傘がない~下駄の男』第9章6話 | 文化系寄り道倶楽部

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アラフォーで2児のパパであり、80年代の音楽をこよなく愛し、ガンプラを愛で、パソコンをいじくり倒し、台所を妻から奪い取り、キングの小説におびえ、究極超人あ~るで笑いころげ、夜な夜なUST配信をしている

物語の概要

笠井町の組織犯罪対策部の後藤刑事は、警察がマークしている重要参考人が立て続けに3人も変死を遂げている事件を追っていた。事件は決まって雨の日に起こり、3人とも車にはねられているが、交通課の調査ではまったくの偶然の事故だというが・・・後藤は単独で捜査を始める

一方この事件について、別の組織も動き出していた。それは立て続けに3人も身内を失った暴力団組織である。さらにそれらの組織を影で操る人物も、ある専門化にこの事件の解決を依頼する。

通称:下駄の男

尾上弥太郎と名乗るこの老人は、あらゆるハイテク技術と呪術に精通する拝み屋であった。

実は下駄の男はすでに、この事件について独自に調査を始めていた。なぜなら一連の事件の重要な人物について、下駄の男は心当たりがあったからだが・・・

警察、暴力団、闇の人物と拝み屋

後藤刑事は事件の真相にたどり着けるのか?
その犯人とは・・・

短編『傘がない』のその後を描いた作品、いよいよクライマックス

ということで、書き下ろしたばかりの最新話をアップします
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『続・傘がない~下駄の男』第9章6話 三体の怪獣

直前までのあらすじ

ついに、一連の事件の核心に迫った後藤刑事は、下駄の男とともに犯人=真壁を捉えたが、真壁はすでに命が危険な状態にあった。下駄の男は真壁の命を救うべくある呪術を行うことにする。それは真壁が葬った3人の魂を真壁の部屋から追い出すことなのだが、下駄の男は後藤刑事の部下に命じて思いがけないアイテムを用意させる。そしてついに儀式は始まった。




 下駄の男はソフトビニールの怪獣の頭や尻尾を胴体からはずし始めた。後藤はその様子をただ、じっといぶかしげに眺めていた。下駄の男は懐から何かを取り出す。ハンカチのような布のようなものの中に何かが入っているようだった。下駄の男はテーブルの上にそれを広げた。中から小さな三つの透明なビニール袋。袋にはそれぞれ何か書いてある。『加藤』『三上』『山本』、中に入っているのは――後藤は思わず口にした。

「おい、拝み屋のオッサンそいつはまさか!」
「あー、そうじゃよ。あの3人の遺骨の一部じゃよ」
「あんたそれをどうやって!いや、そんなことはこの際どうでもいい。どうするんですかそんなもの?」
「手順をなるべく省略するために、ちょっと無茶をな。本物に勝るもの無じゃよ」
「本物って、悪い冗談は――」

 後藤は下駄の男の表情を見て取った。これは嘘じゃない。どうやら、とんでもないことを始めるらしい。刑事の目の前で拝み屋が呪術をやろうとしている。
「怖いか?」
「こう見えても信心深いんですよ、俺は。罰が当たるのはあんただけなんでしょうね」
「その点は心配いらん、なんせワシはこの世界のプロじゃからのぉ」
「なんかその、塩とか酒とか身を清めるようなことしなくても大丈夫なんでしょうな?」
「そんなに心配するのなら、ほれ、台所に行って酒でも探してこい。まぁ、真壁の部屋にはそんなもの、置いてあるとは思えんがのぉ。せいぜい食卓塩じゃろう」

 後藤はもう、口を出すのはやめようと思ったが、どうしても言わずに居られなかった。
「で、なにか、行事の前の注意事項とかないんですか?」
「ふん、簡単なことじゃよ。他言無用。それだけじゃ!」

 後藤と話しながらも下駄の男は手を休めずに小さなビニール袋の中身――遺骨をソフトビニールの怪獣の中に入れて頭や尻尾を元通りにしていった。
「まずはベムスター、加藤三治よ、ドラゴンスケールの12代目!お前の居場所はここじゃよ!」
 部屋の置くから冷たい視線が下駄の男に向けられた。それは歪んだ心、闇に沈み行く魂のもがき苦しむ慟哭。なんともいやなうめき声が聞こえたような気がすると思った瞬間、下駄の男は手に持っていたベムスターのソフビ人形を闇に向かって投げつけた。刹那、後藤は思わず息を呑んだ。闇の中に蠢く、何者か――影のようなものがベムスターのソフビ人形に絡みつき、人形の腹から中に吸い込まれるような錯覚を見た。いや、見たような気がしたのか?

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 奥の部屋のどんよりした空気が少しばかり軽くなった気がしたが、同時に何かザワザワと騒がしいような気もする。下駄の男はすでに右手にエレキングを握っていた。
「次はこれじゃい。三河剛よ!お前は組織の飼い犬だな。エレキングが御似合いじゃわい!」腹のそこから響くような唸り声。憎悪、非情、愚直……加藤のときとはまた違う負の感情の波紋が部屋中に広がる。その波紋の中心めがけて下駄の男はエレキングを投げ入れた。エレキングは一瞬空中で静止したかのような錯覚のあと、波紋が渦のようにエレキングの角めがけて集まるような幻影。

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「最後はこれじゃ、山本茂よ!凶悪で攻撃的、しかも貪欲。ゴモラほどの威厳はこれっぽちもないが、貴様はゴモラのそれと同じ邪な魂を宿した目をしておるわい!」ドーン!と突然地響きがしたような波動が襲い掛かる。思わず後藤はよろけそうになる。幻覚ではない、はっきりとした輪郭で不純な魂を宿した邪ないやらしい視線を感じ、思わず身震いをした。下駄の男はゴモラのソフビ人形を右手に持ち、正面へ突き出した。その手が震える。ぶるぶると震える。まるで何かの圧力が下駄の男の正面にあるような……いや、きっとなにかあるに違いない。「ふん!」下駄の男が気のこもった息を吐き、その圧力を押しのけた。「己の姿に憤怒しおったか!たわけめ!これが貴様の姿じゃ!」ついに下駄の男はゴモラを闇に向かって投げつけた。

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「なに?」後藤は目を疑った。投げられたゴモラの人形は奥の壁に当たる軌道を描くのを突然やめてしまったのだ。こんどこそ、それは一瞬静止した。次の瞬間まるで何かが下から突き上げたように天井に向かって飛び上がり――いや、カチ上げられ、ぐるぐると回転しながら天井にぶつかると、今度は何かに叩きつけられたかのように勢いよく床に転がり落ちた。一瞬の静寂のあと、後藤は何が起きたかよりも、今実際に身の回りで起きている変化に驚いた。

「あの、いやな感じが……なくなっている」

 不意に後藤の携帯がけたたましく鳴る。後藤は慌てたが下駄の男は微動だにしなかった。

「もしもし、鳴門です。指示通り、準備できました。西港公園です」
「あー、あー、鳴門か、そうか、わかった……」
「後藤さん、どうかしましたか?」
「あー、いやー、なんでもない。こっちも片付いた。すぐにそちらに向かう」

 後藤は携帯を切ると。助けを求めるような目で下駄の男を眺めた。
「あー、すいません。勝手に準備できたとか、いっちゃいましたが……」
「いや、構わんよ。準備はできておる。さて、最後の仕上げじゃ。真壁も連れて行くぞい」

 下駄の男は、奥の部屋に転がった3体の怪獣のソフビ人形を拾い集めると、何も省みずに玄関までまっすぐに歩いて出て行った。後藤は真壁を抱きかかえ、その後を追うしかなかった。





10章につづく