「ハイパーボリア人」

チリの映像作家コンビ、レオン&コシーニャが手がけた長編第2弾。
前作「オオカミの家」はストップモーションアニメだったが、その独特の作風と摩訶不思議な魅力に衝撃を受けた。
今回は生身の人間として女優がひとり登場するが、前作以上に奇妙な怪作に仕上がっていた。感想を書くのが難しい…
実写だけでなく、アニメ、パペットや影絵など駆使して語られるのは、物語形式を超越した内容だ。その点では「オオカミの家」の方がまだわかりやすかった。
この作品には極めて政治的、社会的な背景があるが、チリの政治や情勢に詳しくないとわかりづらい部分があるのは確か。
訳が分からないなりにも、何だか首尾一貫しているように感じるのが不思議だ。
客を選ぶ映画だが、71分と短い尺だしヘンテコなキャラが次々に登場するので、そこそこ退屈はしない。
こんな映画体験はまずめったにないだろう。

 

「愛を耕すひと」

「北欧の至宝」などという呼ばれ方までされるマッツ・ミケルセン主演の歴史ドラマ。
歴史小説の映画化だそうだ。18世紀のデンマーク、貧しい出の退役軍人ケーレンは、不毛の大地の開拓に名乗りをあげる。成功した暁には貴族の称号を得られるように約束を取り付けた。
だがケーレンの前には厳しい大自然がたちはだかると同時に、権力者シンケルによる執拗な妨害行為が始まるのだった。
来る日も来る日も荒地をひとり耕す姿が、実にマッツ・ミケルセン的。まるでデンマーク版の西部劇を見ているようだが、悪役によるいやがらせや妨害に必死で耐え、身内同然になった女や子どもを守ろうとする姿が渋い ! 本当に彼はこういった役が似合うし、深い感情表現ができる演技力はさすがだ。
荒地を背にした彼の姿は、哀愁が漂うなんてものじゃなくて、まさに哀愁ダダ漏れなのだ。思わず応援したくなるが、次々に試練が襲いかかる。18世紀の人々の凶暴な行為に、彼はひとり抵抗し続けるがそれもむなしい。

でも最後はやっぱり、愛。

開拓時代の荒々しく男っぽい筋書きながら、脇の女性たちもしっかり描かれていて好感が持てる。原作者が女性、ということもあるかももしれない。
英語タイトルは the promised land だが、邦題もなかなかだと思う。


 

「リアル・ペイン 」

ニューヨークに暮らすユダヤ人のデヴィッドは、亡き祖母の遺言に従って従兄弟のベンジーといっしょにポーランドのアウシュビッツへのツアー旅行に出かけることに。
子どもの頃は兄弟のように育った従兄弟同士だが、性格が正反対の2人。旅行の最中も幾度となく衝突を繰り返していた。
ツアー旅行を選び申し込みをしたデヴィッドは、行く先々で問題を起こすベンジーにほとほと手を焼いていた。ツアーのメンバーやガイドに失礼な態度をとったり、迷惑をかけてばかりのベンジーだが、実は心に深い傷を抱えているのだった…
祖母の人生と縁のある場所を訪ねるうちに、2人は自分自身の生き方を見つめ直すことに。美しい景色や史跡をめぐりながら、その裏にある歴史の重みやさまざまな痛み(ペイン)を感じとっていく。アウシュビッツ収容所跡地への訪問もある。
空気を読まないベンジーの態度に、こんな人が同じツアーにいたら嫌だろうな、と思いながらも彼の言動はある種の真実を突いていたりする。ガイドが最後に放った言葉が印象的だった。
凸凹コンビのロードムービーと思わせながら、かなり深いところに刺さる物語に仕上げたデヴィッド役の俳優であり、監督&脚本も担当したジェシー・アイゼンバーグ。今回、彼の監督としての手腕には驚かされた。様々な人々の複雑な心情を、(ポーランド出身の)ショパンの曲に乗せたセンスもいい。
そして何といってもベンジー役のキーラン・カルキン(マコーレーの弟)が、誰より印象的で、無遠慮な態度の裏に哀しみを秘めた演技が光っていた。

 

 

追記

キーラン・カルキンはこの作品でアカデミー賞助演男優賞を受賞しました!!

 

 

「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」

 

アルモドバル監督のNYを舞台にした初の英語作品。母国スペインでなくても、彼らしさは少しも変わらなかった。ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアという大女優を主演に据えたとはいえ、どこからどう見てもアルモドバル作品なのだ。
今回のテーマは尊厳死。重くなりがちだがシリアスになりすぎず、ストレートに心に染みるヒューマンドラマに仕上がっていた。
不治の病に犯されたマーサは、自らの強い意志により尊厳死を選択した。かつての親友イングリッドと再会したマーサは、彼女に自分の死を見守ってほしいと頼む。迷いながらもイングリッドは、マーサの希望を受け入れることを決心した。
マーサは自然の中にある山荘を1ヶ月間借りていた。そして2人の生活が始まる。
しばらく音信不通だった2人は、空白期間を埋めるようにお互いを語り、おしゃべりは尽きない。「あのドアが閉まっていたら私はもういないと思って」とマーサは言う。
毎朝起きるたびに確認するイングリッド。対照的な視点から死を見つめる2人。オスカー女優2人の演技が見どころだ。
途中ちょっとしたハプニングも起きるが、やがてその日はやってくる。突然に。
イングリッドにはその後の人生もあるのだが、人がひとりこの世を去るというのは煙のように消えるわけにはいかないから、残された者は感慨にひたってばかりはいられないのだ。
警察の事情聴取もあるし、疎遠になっていたマーサのひとり娘への説明も。このあたりの流れは比較的あっさりしていたが、監督がずっと主題にしてきた生と死、親子の愛、女性たちの連帯といったテーマは描ききっていたと思う。
美術や衣装のカラーがいつものアルモドバル作品同様に色あざやか。重い死のテーマの中に生を感じさせた。山荘からの景色や自然の描写も心洗われるような美しさだ。
ティルダ・スウィントンは重病人の役なのにどのシーンでも着こなしが抜群で、寝巻き姿さえも格好よかった。

 

「敵」

筒井康隆の原作小説は未読なのだが、この映画は実に不思議な魅力に満ちていた。
不条理SFか何かだと勝手に予想していたが見事に裏切られ、そうきたか、と思わず唸ってしまった。
映像化はかなり難しかったと想像できるが、吉田大八監督の脚色が素晴らしかった。
前半はまるで「Perfect Days」のような静かな入り方で、引退した仏文学教授、儀助のひとり暮らしが淡々と描かれる。
妻には20年前に先立たれ、古い一軒家でつましいが規則正しい生活を送っている。退屈しない程度には仕事も続けているし、教え子などとも繋がりがあるので、世間から取り残された寂しさはない。
行きつけのスナックでバイトの女子大生に懐かれたり、教え子の女性が食事にやってきたりと77歳ではあるが、色っぽい話ともまだ無縁ではなさそうだ。
しかしそんな日常をゆるがす出来事が突如として起きる。そのまで何度か「敵がやってくる」というタイトルのメールが届いていたが、そのたびに特に気にもせず迷惑メールとして削除していた。
だが「敵」はある時、本当にやって来たのだ、儀助のもとへ。
こうなるともうどこまでが現実で、どこからが儀助の妄想なのかわらなくなってしまう。例えようもない不安。そう、彼は自分で死ぬ頃合いを決めているが、そんな彼を嘲笑うかのような出来事が次々に起きる。
恐怖に怯える儀助。やがて訪れる死が、本当は怖いのだ。いくら悟ったように遺書を用意し入念に準備しても、死ぬのは怖い。
そんな彼の元へ死んだ妻が姿を現す。ああ、やはり彼は寂しいのだ。そして山ほど後悔もあるのだろう。
妄想が始まってからは、まるで別の映画を観ているようだったが、とても興味深く鑑賞した。老人の妄想はすごい、おそろしくパワフルだし。
白黒のコントラストがきつめのモノクロ映像は、最初は少し見にくい感じがしたが慣れてくると味があったし効果的だった。
主演の長塚京三は、もうこの人以外あり得ないというほどの適役だった。

本当に、すごい映画でした…


 

「どうすればよかったか?」

統合失調症の症状があらわれた姉と、娘を家に閉じ込めた医者の両親。弟である監督が20年にわたってカメラを回し続けた家族のドキュメンタリーだ。
監督自身がきわめて稀有な体験をし、それを題材にした映画だが、ひとつの家族の物語でもある。
8歳年上の姉は面倒見がよく優秀で、両親の影響なのか医師をめざしていた。4浪の末にようやく医学部に入学したが、在学中に突然おかしなことを叫び続けたり、奇妙な行動を取り始める。
統合失調症が疑われたが、両親は頑なに認めようとはせず、娘を家に閉じ込めた。一般的な親なら無理解もわからなくはないが、両親そろって医者であり医学の研究者だというのに。おそらく彼らも他人の子どものことなら、専門医に診せるようアドバイズしただろう。我が子のこととなると違うのか。
当時まだ高校生だった監督には発言権はあまりなかった。とにかく家族の記録としてビデオを回し続けることぐらいしかできない。精神科へ受診させることを、徹底的に拒み続けた両親の本意はどこにあったのか。老いた父親が語っていたことは本当なのか。
姉は60過ぎで亡くなってしまうが、一体彼女の人生は何だったのだろう。
晩年、投薬治療でようやく病気が落ち着いてきた姉は、とても穏やかそうに見えた。
早くそうしてあげればよかったのに。家族にとっても、何より姉自身にとっても楽になったはずだ。
では、「どうすればよかったか?」というのは両親への問いかけであると同時に、監督自身が自分に向かっての質問でもある。
映画は、ドキュメンタリー作品としてはまだ表現が拙い部分もあり、知らない家族のホームビデオを延々と見させられている気分になることもあった。
身内を撮ることの難しさもあっただろう。本当に、家族とはやっかいなものだ。
 

 

 

個人的には、「成績優秀だった姉が医学部入学のために4浪した」というのが、少し引っかかった。普通は二浪あたりで手を打つものだが。両親が志望校について過剰に口出ししていたのか。それとも受験勉強に集中できない、つまり当時からすでに症状が出始めていたのか。このあたりは言及がないのでわからない。
医学部9浪の末に、過度のプレッシャーを与えていた母親を殺した女性の話(事件)を思い出してしまった。ほとんど関係のない案件だが。


 


2025年が始まってもう半月経とうとしています。やっと2024年を総括。
昨年1年間に観た映画の中で、個人的に印象に残った作品を挙げます。

当ブログで取り上げた中から選んでいます。なので趣味色かなり強め。

順位はつけず、また悪い意味で印象に残ったものも入っていません。
基本的には新作、というか新たに公開された作品で、ほとんどが劇場での鑑賞です。

旧作やリバイバル上映も何本か観ましたが、ブログには書いていません。
またタイミングを逸したりして、観たのにブログには書いていない作品もあります。それらはあまり印象に残らなかったり、ピンとこなかったものが多いです。

今年こそ、観たらすぐ書いてアップする、を心がけたいと思います 笑


◎とても印象に残った作品

「関心領域」
「哀れなるものたち」
「悪は存在しない」
「Perfect Days」
「侍タイムスリッパー」


◎印象に残った作品

「ボーはおそれている」
「12日の殺人」
「時々、私は考える」
「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ」
「コール・ミー・ダンサー」