《政宗》と魔女の43日間 Ⅱ | まじょねこ日記

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魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

 

 

《政宗》のお葬式を終えてからの魔女は

仕事とまじょねこ、のらねこ軍団のお世話と精密検査以外の時間を懇々と眠っておりました

 

リビングで、バスルームで、テラス、至るところで・・

そしてベッドでは政宗を包んでいたブランケットを抱きしめて、いまだに夜中や明け方に《政宗》のトイレだ、ご飯だ、と飛び起きながら

 

 

 

 

 

43日一緒に暮らしたけれど

《政宗》の写真はいくらもありません

 

《政宗》にカメラを向けるのだけど

レンズの向こうの痩せた体が悲しくて

なかなかシャッターを押すことができないまま・・

 

いつか太って元気になったら、いっぱい写真を撮るからね、と《政宗》には言ったのだけど

 

 

 

 

《政宗》の発作が何に起因したものか

急激に痩せ細って貧血、脱水を起こしてしまっている体では到底検査も出来ず

例え検査をしたとしても治療は難しい、と言われ

 

 

 

けれど、《政宗》はご飯だけは良く食べた

 

薬で朦朧としていても

部屋中を闇雲に歩き回ってぶつかった壁におでこを押し付けるという奇行を繰り返していても

私の姿だけは認識し、側にやってきては腕を噛んで繰り返し食事を欲しがった

 

部屋中を闇雲に歩き回る行為は、私にあの頃の《なでしこ》を思い出させた

 

《ジンジン》たちのきょうだいで、《エダ》が産んだ5にん目の子

生まれつき脳に障害を持った《なでしこ》は成長と共に障害が顕著となり、《政宗》と同じ行為を繰り返した

 

やはり《政宗》の度重なる発作は彼の脳に何らかの障害を持たせてしまったのか・・

 

 

 

それでなくても鼻炎のまま保護した《政宗》の鼻からは一日中鼻水が流れ

抗生剤も効かず、辛そうな呼吸が常にガーガーと部屋に響いていた

 

1時間も目を離せば鼻は塞がって詰まり、さらに苦しくなる

 

 

 

 

 

電気敷き毛布が気に入って爆睡する《政宗》

 

でもちょっと目を離すと固まった鼻水で鼻は塞がり、鼻のまわりもこのように汚れてしまう

 

 

 

 

 

 

私は買って来た加湿器の蒸気で鼻詰まりを少しでも楽にしようと試み

病院で点鼻薬を処方してもらい

さらに一日中《政宗》の鼻や口の周りを拭いて暮らした

 

 

 

 

 

《政宗》は一日で大き目の缶詰を2缶以上は食べた

噛みつき食べでもって、それは必死の形相で、取り憑かれたように食べていた

 

これで体力をつけて以前のように大きな《政宗》に戻る

私はそう信じた

 

 

だが・・ 《政宗》は一向に太る気配をみせなかった

どんなに食べても、水を飲んでも、貧血も脱水症状も改善されない

 

 

 

 

《政宗》の右の口脇が膨れている

初めは発作で暴れた時に何かにぶつけて腫れているのかとも思ったが違った

そのシコリは固く、傷による腫れとは異なっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌がる《政宗》をなだめすかして唇を持ち上げる

シコリを見た私は思わず首を落として目を閉じる

 

 

 

シコリが邪魔をして、《政宗》はウェットを辛そうに食べるようになった

 

右側の口元から涎が流れる

私は毎回の食後に、嫌がる《政宗》の口を開け、涎を拭き

歯茎や歯の間に詰まったものをティッシュやコットンで丁寧に拭き取るのだけれど・・

 

 

いよいよウェットが食べづらくなったなったのか、《政宗》はドライフードを食べるようになった

相変わらず涎が酷い

 

 

 

 

鼻に関しては1ヶ月程するとガーガーという苦しそうな息は止まったけれど

鼻水は相変わらずとめどなかった

 

それでも息が楽になったことで私の心も少しだけ軽くなった

鼻水はひたすら拭き続ければいい

 

 

少しだけ気が楽になったのも束の間

《政宗》の食が減った

 

私に食事をせがむからには食欲はあるのだ

しかし、上手く食べられなくなってしまっている

 

それでも《政宗》は、私が差し出す食事に噛み付き

何粒も口に入れ

だかその殆どは口から零れ落ち

やっと残った一粒ばかりをようやく喉に通す

 

その繰り返しに疲れた《政宗》は食器から目を背けるようになった

 

 

 

もう病院に連れて行くつもりはなかったのだけれど

痩せた《政宗》をキャリーに入れる

何の抵抗もなくそのままキャリーに入れられる《政宗》が悲しい

 

 

車の中で、待合室で、《政宗》は私の顔だけを見詰めていた

それはぼんやりとした目だったけれど

 

 

 

 

 

《政宗》の右口脇のシコリを見た先生の口から 「これは・・」 と言葉が漏れる

 

触診で、腹腔にも腫瘍と思われるものが発見された

 

 

 

手の施しようがない  お役に立てず、申し訳ありません」

 

 

 

わかってはいたけれど

それでも時々細く陽が差すように現れていた希望が

絶望に変る

 

 

《政宗》、もう家に帰ろう

私たちの部屋に戻ろう

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな灯りが灯る部屋のベッドで、《政宗》を抱いてその体に顔を埋める

《政宗》が初めて喉を鳴らしてくれた

 

それが尚更悲しくて、とめどなく涙が零れる

 

 

 

つづく