いんどらが亡くなる前日
いつものように インドラいますかー？ とやって来た《かって》は
こんなにふっくらとしていました
《かって》にとって
たったひとりの友だち
インドラが突然逝ってしまい
もうどこにもいないと悟った時から
《かって》は生きる気力を失いました
まじょねこたち、とくに《チャンドラ》も憔悴が激しかったのですが
《かって》のそれは想像を絶しました
食事を摂らず
日に日にぼろぼろになってゆき
痩せこけ
終いにはお化け屋敷の屋根の上で動かなくなってしまいます
屋根の上までは手が届かず
それだから、何度も声を掛けましたが《かって》は動く気配を見せず
突き出した背骨は痛々しく
終いには死んでいるんじゃないかと不安になり
何度も大声で呼ぶと
やっと少し頭をもたげましたが
こちらを振り向くことはありませんでした
こうして《かって》は
ただぼんやりと
終日を、ただぼんやりと寝たきりで過ごし・・
どんなに促しても食事を摂らず
そうして１ヶ月以上が過ぎました
先日
《ボンネット》が、廊下に《かって》がいる、と知らせました
魔女が急いで廊下に出ると
階段の手すりにガリガリに痩せて、目が潰れかけた《かって》が座っていました
魔女 「《かって》・・、 こんなに痩せちゃって・・」
かって 「・・」
魔女 「悲しいのは魔女も同じだけど、私たちはどんなに辛くても生きていかなきゃいけないのよ」
かって 「・・」
魔女 「《かって》がそんな風にしてたら、お空の《インドラ》がとっても心配するでしょう」
かって 「・・《インドラ》の」
魔女 「《インドラ》の？」
かって 「夢見た」
魔女 「《インドラ》の夢を見たの？」
かって 「僕、もう なにもかも嫌になっちゃって、 だから寝てて ずっと動かないでいて、 そのうち頭がぼんやりしてきて・・ 夢かほんとかわからないけど たぶん夢だと思うけど、《インドラ》が僕を覗き込むようにして言ったんだ」
魔女 「なんて言ったの？」
かって 「 『 かってたん、 あとは 頼むね 』 って言った」
魔女 「・・」
かって 「 『 家のこと 《涼子》のこと 』 頼むね、って」
魔女 「そうなのね・・ 《インドラ》がそう言ったのね」
かって 「言った・・」
魔女 「さあ、《かって》、 ご飯にしようね」
かって 「うん・・」
魔女が食事を運ぶと
《かって》はそれを食べました
それからは以前のように
ご飯の時間にきちんと現れるようになりました
そうしてちゃんと食事を摂り
少しずつ体力を取り戻しています
《インドラ》が逝ってしまってからというもの
《涼子》は物置の住処を引き払って、家の中で暮らすようになりました
きっと、淋しくて不安なのでしょう
《インドラ》と《たぬきち》がいなくなってから
時折どこかの雄猫が姿を現すようになりました
彼らは玄関から魔女の部屋の側に暮らす《涼子》を覗きます
そんな玄関先で
先日猫が争う声が聞こえ、まじょが外に飛び出すと
新参の雄猫と戦う《かって》の姿がありました
あの臆病な《かって》が
《涼子》を守って戦っていたのです
《かって》が魔女家に姿を現して３月で丸５年が経ちました
その５年間を猫と見れば逃げ回っていた《かって》
後半は《インドラ》がかばってくれ、相手を撃退してくれていましたが
とにかく外の雄猫に虐められ、ひたすら逃げ回り続けた５年間だったのです
近所の猫に襲われ、悲鳴をあげて逃げ惑う《かって》を、魔女は何度もどかしく思ったことか
それが今、
魔女の目の前で《かって》が戦ってる
必死で《涼子》を守って戦っている
《かって》・・
また 涙が出ちゃうじゃないか
相手は逃げ出し
猫用で入り口から《かって》が戻って来ました
《かって》、ご飯にしましょう
今日は特別美味しいものをあげる
大きくて強い猫になるんだよ
《インドラ》みたいに強く、優しい心を持ってね
《かって》は今
魔女家の玄関が見えるお隣の物置の屋根に陣取って、警備に余念がありません