昔話 | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください


その日の夜もパン屋に行った


ギリンチェの閉店前

何組かの客がまだいたが

せっかちなラクちゃんは、さっきからずっとパンを買いに行こうよ! とそればかり言っている


魔女は昼間は友人たちを訪ね、慌しくも愉快に過ごし

夕方暗くなる頃はなるべくギリンチェに戻ることにしていた

店を手伝うためだ


ティハールのこの時期

従業員の半分がバイティカなどのために実家に帰ってしまい

残った子たちはてんやわんやだった


インドからの嫌がらせでLPガスがないため

薪調理でしか食事を提供できないので限られた料理しか出せないが

観光客は宿泊先のホテルのレストランが調理ガスがなくて営業できないこともあって、ギリンチェは夜な夜な大変な混み具合だった


デイブは人手のない調理場に入り

ホールはラクちゃんと魔女だけ


客から注文を聞き、それを調理場に伝え、料理を運び、後片付けをする


外国客の殆どはこの現状を理解してくれ、少ないメニューから料理を選んでくれた


目まぐるしい時間が2~3時間続き、閉店(基本9時だが、最後の客が買えるまでは待つ)、テーブルが空き出すと、ラクちゃんは仕事に飽きてくる



ラクちゃん 「魔女もういいよ・・」


魔女 「よかないわよ、私はこっちを片付けるから、ラクちゃんは早くあっちを片付けて」


ラクちゃん 「誰かやるよ」


魔女 「調理場の子たちにやらせるの?! ダメよ、ホールは私たちの責任でしょう!」


(・・なんで私たち、って言ったんだろ)


ラクちゃん 「パン買いに行こう」


魔女 「まだみんな働いてるじゃない」



ラクちゃん 「パン! パン!! パン!!!」



魔女 「うるさいっ!」



ラクちゃん 「今行かなきゃ50%OFFが売り切れちゃうよー」


魔女 「・・」


ラクちゃん 「バーベキューと一緒にクロワッサンが食べたい!」


魔女 「私はお腹がいっぱいなの」 (昼間食べ過ぎてるから)



それでもラクちゃんは言うことを聞かず

後は人のいいデイブに店を任せて魔女を引っぱってパン屋に向かう



パン屋でラクちゃんはチョコデニッシュ食べる? チーズパンも食べなよ! と、しつこい


だから腹がいっぱいだって行ってるだろうが!!


トレイをパンで山盛りにするラクちゃん

それを片っ端から棚の籠に戻す魔女



それでもラクちゃん、デイブもうんとお腹が減ってるから彼の分も買わなきゃ、と言って大振りのパンを6個も買った


さあ、店に戻るよ! 


急ぎ足で歩いていたら、隣にいるはずのラクちゃんがいない・・


振り返ると立ち止まって路地の奥を見詰めている


ラクスマン! 呼ぶと、ラクちゃんが手招きをする

仕方がないからそこに行くと、ラクちゃんは路地の奥を見詰めたまま



ラクちゃん 「覚えてる?」


魔女 「覚えてるよ『ジャットラ』でしょ」 (昔この店でラクちゃんの深刻な悩みを聞いた)


ラクちゃん 「懐かしいね・・」


魔女 「何年前だっけね・・」


ラクちゃん 「行こう!」


魔女 「待ちなよ! 店はどうするの? デイブが大変じゃん」



魔女がそう言ってるのにラクちゃんはとっとと路地奥のジャットラに入って行ってしまった



ジャットラはダイニングバー、酒を飲むところだぞ

後ろからそう声を掛けるも、ラクちゃんは 「気にしないで、気にしない」 と答える



                 この通り、酒を飲むところです



        

                  ね、酒を飲むところでしょ



                     ここは酒場

私たちの昔からの知り合いのバーテンダーがそこにはいて

中庭のオープンスペースのバーカウンターに陣取ったラクちゃんが彼に言う



カフェラテ2つ !Σ(=°ω°=;ノ)ノ 



それでもこのバーテンダーはバーの裏からカフェラテを作る道具を持ってきて

笑いながらラテを煎れてくれる


そうしてカフェラテが差し出されると

ラクちゃんやにわにパンの袋をバーカウンターに置き


「さあ、みんなでパンを食べよう!」 


バーテンダーに向かって 「はい、これは君の分!」


・・やりたい放題だな



「いやぁ、おいしいね、ここで全部食べちゃおうぜ」


さっきお腹を空かせてるデイブの分も、って言ったお口を縫ってやろうか?




                  そして結局こうなった・・



何度も言うようだけど

ほんとラクちゃん見てると自分を見てるようでやだ・



それからラクちゃんの思い出話しが始まり

私たちは昔話をした


長い付き合いの私たちには山ほどの思い出があり


今となっては懐かしいが

互いに辛い時代もあって

人生を左右する出来事やら

人生が華やかに変わる出来事やら


人に言えない悩みも打ち明けられて 

魔女は悩みを人に話さない主義だけどね


とにかく、これまでお互いハンパない人生を送ってきたのは事実だ


彼の本質を良く知っているのは私なのだろうと思う

そしてその逆も然りだ


私たちは親友同士だ

これからもそれが変わることはない



すっかり夜も更けて

手ぶらでギリンチェに戻った私たちを待っていたのは


従業員が帰った後の広い店内の真ん中で

冷めた鶏肉とウインナの皿を見詰めて座る疲れ果てたデイブの姿だった