インドラの心 | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください


昨日の午後のお話


室内ではいまだ《ひな》がネズミを咥えた顔をビニール袋に突っ込んだままうろつき

軍団に怪しがられている



外からは《かって》の鳴き声が聞こえ

それが次第と悲惨な声に変わる


《インドラ》と一緒に玄関先に出てみると、《かって》が涙目で訴える



かって 「お腹が すいたあせる お腹が すいたあせるあせる


魔女 「朝ごはんあげたでしょ」


かって 「《たぬ吉》にとられた汗


魔女 「盗られたの?!」


かって 「夕べも、その前の日も 毎日盗られる あせるあせる


インドラ 「《タヌ吉たん》がご飯をとったの?!」


かって 「うん・・汗


インドラ 「・・」



そうか・・

朝食時、夕食時にやって来るも

魔女は軍団のご飯に忙しく、見張っていてあげられないためにそうなったんだ


一緒に食べている《涼子》、《アゾ》は気が強く、《タヌ吉》が彼女たちの食器を覗こうとしただけでぶっ飛ばされるし

ちょっと大人しく、以前はよく《タヌ吉》にご飯を盗られていた《バブー》は、頭を使って階段の手摺で食事を摂ることにしている

《タヌ吉》は階段の手摺には乗れないからだ


それで、最も気が弱く、絶対に『イヤ』と言えない、誰にも逆らえない《かって》が《タヌ吉》の唯一の標的となるわけだ


勿論《タヌ吉》にもご飯をあげているが、何しろ強欲なため

奪えるなら何でも奪えという男なのだ



《かって》は《かって》なりに考えたのだろう

ご飯の時間でない時に貰おう、って


それで《タヌ吉》のいない時間にご飯を貰うしかないと思ったのだ



インドラ 「魔女、《かってたん》にご飯あげて!」




《タヌ吉》が自分のご飯を貰いながらも毎回《かって》のも脅し取っていたという事実は

毎朝《タヌ吉》とつるんで付近を徘徊している《インドラ》にとってはかなりショックだったようで・・


《インドラ》の複雑な表情がその困惑を現していた



魔女はてんこ盛りのご飯を玄関先に持って来て《かって》の前に差し出し

《かって》は半端なく空腹だったのだろう

うぉんうぉん言いながら、涙をこぼさんばかりにしてご飯を食べ始めた


それから魔女はアトリエに入って仕事を始めようとしていた

アトリエの窓は大きく、外の様子が全て見て取れる



と、その時・・

庭の向うの階段からぬっと姿を現したのは《タヌ吉》


《タヌ吉》は躊躇うことなく《かって》のご飯を目指した



タヌ吉 「めしだ!  めしだー!」



《タヌ吉》の姿を確認した《かって》は、《インドラ》が止める間もなく悲鳴をあげて逃げ出した


《タヌ吉》は当然のように《かって》の食器に顔を突っ込み、それを食べ始めた



インドラ 「《タヌ吉》、なにやってるのさ!」


タヌ吉 「はぁ? むしゃむしゃ!」


インドラ 「それは《かってたん》のご飯だよ!」


タヌ吉 「だから?  むしゃむしゃ!」


インドラ 「ひとのをとるのはやめな!!」


タヌ吉 「うるせえな・・  おれの かってだろうよっ!」



その言葉を聞いたとたん

《インドラ》が《タヌ吉》に襲い掛かった


《インドラ》の勢いに驚いた《タヌ吉》はその場から逃げ出す


しかし《インドラ》の怒りは治まらず、逃げる《タヌ吉》を追った


慌てた魔女はアトリエから飛び出し、《インドラ》の後を追う

《インドラ》があの巨大で喧嘩上等の海千山千の猫、《タヌ吉》に敵うわけがない



庭から下の道に出る階段の踊り場で《タヌ吉》に追いついた《インドラ》が《タヌ吉》に飛び掛った


そこで取っ組み合いの大喧嘩となり


走って来た魔女を見て逃げ出した《タヌ吉》を再び《インドラ》が風のような勢いで追う


そしてまたその先の道の真ん中で恐ろしい唸り声と共に取っ組み合いが始まった


この時、ご近所の女子、《てんてん》が走って来て、《インドラ》に加勢した

《てんてん》は《インドラ》に組み敷かれている《タヌ吉》をバンバン殴った



その後、《インドラ》はお化け屋敷に逃げ込んだ《タヌ吉》を追って再び襲い掛かり、そこでも更なる大喧嘩となる



魔女は枯れ枝に押されながらもふたりを引き離し

逃げる《タヌ吉》をさらに追おうとする《インドラ》を押さえつけた



「離せ! 離せよ!!  ぼくは あいつを許さない!!」


そう言って暴れながら喚く《インドラ》を私は抱き上げる

抱かれても《インドラ》は、 「離せ! ぼくは許さない!」 を繰り返してもがいた



魔女はそのまま《インドラ》を部屋に連れ帰った

その間、《インドラ》の体を検査したが幸い取りだてて怪我はなかった


部屋に戻ると

軍団が駆け寄り、何があったのかと《インドラ》を取り囲み、体の臭いを嗅ぐ


それが嫌だっやのか

気づくと《インドラ》は、ひとりでテラスにいた




悲惨な幼少時を過ごし

魔女家で生死の境を彷徨い


どうか生き延びて欲しい

生き延びて強い猫になって欲しいとの願いからつけた《インドラ》という名前


インドラ神はバラモン教、ヒンドゥー教の神で、雷を操る雷霆神であり、軍神である


《インドラ》の生い立ちはインドラ神のそれを地で行くようなものだった

母親から育児放棄され、父親にも嫌われ、幼くして放浪するのだ


そうして生き延び、大きくなった《インドラ》

どんな猫とも仲良くなれる不思議な猫


そんな《インドラ》にとってこれは生まれて初めての喧嘩だった


彼はとてつもなく強かった



その強さが証明されたというのに   《インドラ》は・・



       




                    ひとりで泣いていた・・





     涙の粒はどんどん大きくなって、《インドラ》の手にぽたぽたと落ちた


                           

                                ※ 室内から望遠で撮ったものです  

                            


涙は陽の光りがあたって

きらきらと輝きながら落ちていった


それはまるで《インドラ》の心のように美しく光っていて・・


《インドラ》の悲しみが手に取るようにわかる



軍団はもう誰も側には寄らず

みんな心配そうな表情でガラス越しにそんな《インドラ》を見詰めている




その後、《インドラ》はこたつに潜り、夕食にも朝食にも出てこない


これまで、雨の日も雪の日も《タヌ吉》とつるんで歩きまわっていた《インドラ》


今日は外に出してとも言わない