《キリット君》がアトリエにいるという噂は、あっという間に軍団の間に広まった
おしゃべりな《かって》が、みんなにベラベラ喋りまくったのだ
アトリエは玄関の隣にあり、南向きの窓は全面ガラスで魔女家の他の部屋同様に厚手のカーテンはなく、レースのカーテンがあるだけだが、それだって常に束ねられていて用を成していない
だから誰だって覗こうと思えば好きなだけ覗けるわけだ
《バブー》、《アゾ》、《かって》、《インドラ》、《ジンジン》、《ユリぼうず》、《凜》たちがガラス越しにアトリエを覗く
終いにはご近所の《みこちゃん》や《てんてん》までもが覗きに来る有様で・・
バブー 「魔女、あの子・・ おトイレできないの?」
魔女 「ああいうトイレには慣れてないのよ」
バブー 「おトイレが置いてあるのに新聞の上にしてるよ・・」
魔女 「新聞紙はカサカサ言うから枯葉に似てるのかもね」
インドラ 「枯れ葉のとこがおトイレだったの?」
魔女 「そうよ、 《キリット君》は枯れ葉が好きでね、夜は枯葉の中で寝てたの」
バブー 「おしっこまみれで?!」
魔女 「違うわよ・・ おしっこ用のところと 寝る用のところは別なの」
バブ- 「わあ!」 (どういう わあ! なのかがよくわからない)
インドラ 「そういえば・・ 僕も子供の頃、草のところでおトイレやってた気がする・・」
アゾ 「あ、あ、あでが うわさの《きりっと》か! でしに してやろうとおもったが・・ よわそうじゃのう」
ジンジン 「弱そう、じゃなくて、弱ってるんだよっ!」
外に出られる軍団は一日何回もアトリエを覗いては《キリット君》の噂をした
噂をされる《キリット君》
初めは、知らない猫が入れ替わり立ち代わり覗くので驚いていたが
次第に覗かれることにも慣れていった
それより寧ろ、魔女を嫌がること甚だしく・・
アトリエに入って 「キリット君」 と声をかけると即座に警戒し、睨む
更に魔女の顔を見ただけで箱に逃げ込み、こちらに背中を見せる
その日、魔女はアトリエで展覧会に出品する絵の下描きをしていた
《キリット君》はちょっと離れた机の下から相変わらず魔女を睨んでいる
するといきなり ど~~ん! とドアが開き
《パパ・ジョン ブリアン》が乱入してきた!!
《パパ・ジョン ブリアン》が自らアトリエに入ることはこれまでなかった
驚いた私は鉛筆を放り出して床に座り、《キリット君》の様子を見た
《キリット君》はその場で固まってしまったのか、大きな目を更にデカくして《パパ・ジョン ブリアン》を凝視している
そんな《キリット君》にはお構いなしに
《パパ・ジョン ブリアン》は床に座っている魔女にダカダカと駆け寄り、したたか甘え始めた
「うんごろ~~~ん まじょお~ だいすきですよお~~
」
ふぇ?
ここまで甘える《パパ・ジョン ブリアン》は初めてなので私の脳みそが混乱した
戸惑う魔女にお構いなく
《パパ・ジョン ブリアン》はさらに私の膝に乗り、両手で魔女の顔を掴み、自分の方に引き寄せたかと思うと・・
かぷっ と私の鼻の頭を噛んだ
ふぇ!!
そうして魔女の鼻は《パパ・ジョン ブリアン》のよだれにまみれた
さらに《パパ・ジョン ブリアン》は魔女の顔にスリスリをし始め
さのおかげで私は鼻だけではなく顔中がよだれだらけとなった
その間、《パパ・ジョン ブリアン》は《キリット君》を一切見ることなく
ひたすら私に甘え続けた
うんごろ、うんごろ、まじょ、だいすきです~
ただそればかり・・
魔女が再び下描きを始めても
《パパ・ジョン ブリアン》は机の下で
うんごろうんごろお~
まじょ だいすき~
うんごろお~ まじょ だいすきい~
べろべろべろ~~
パパ・ジョン ブリアン 「まじょは いいひと~」
キリット (むむ・・)
玄関先でセキュリティーの仕事をする《パパ・ジョン ブリアン》は
どんなに声を掛けても、《キリット君》に嫌われ、無視される魔女の姿を毎日見ていて
それでわざとこんなことをしてくれているんだ
《パパ・ジョン》、ありがとうね
さらにその後、ドアを バン! と開けてアトリエに入ってきたのは・・
《インドラ》じゃないか!
《インドラ》は
「まあじょお~、 大好きだから~」
と言いながらふざけ始め、私に抱きついてきた
散々そうした後・・
「あら、こんなところに 猫がいる~」
とか わざとらしいことを言いながら
そこにいた《キリット君》にいきなり抱きつき・・
驚いた《キリット君》に 「やめて!」 と押しのけられ 嫌われた
《キリット君》は部屋の隅で固まってしまい・・
《パパ・ジョン ブリアン》と《インドラ》はトボトボとアトリエを出て行った