ネパール日記 ~ グンバにて ~ | まじょねこ日記

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魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください


山の頂上を制した私たちは、そこから少し下ったところにあるグンバの門を潜った


一人につき100Rsの拝観料を支払い、チケットの控えにサインをする

手ぶらの私と家族ちぃは、ラクスマンにそのお金を借りた


考えてみれば、私たちはトレッキング中以外は常に手ぶらで・・

こういう場合、常にラクスマンからお金を借りていた気がする



こういった地方のチベット仏教グンバはわざわざ困難な場所に建てられている

僧侶たちはそこで地道に寺を造る


例えば地面を掘った時に虫がいれば、その手に乗せて他の場所に移動させる

地面の下に暮らす虫なら、違う場所に穴を掘って埋め戻す


そうして困難な山頂に、崖に、大岩にも五色のタルチョーを張り巡らす


時には経を唱えながら


質素な食事と塩バター紅茶で日々を凌ぎ

朝は暗いうちに起床し、経をあげ、作業を始める


寺の壁に曼荼羅を描くのも僧侶だ


その全てが彼らにとって大切な修行となる


生きとし生けるものはすべからく等しく

太陽、水、火、大地、風は五色のタルチョーで表され

これらは私たちを生かしてくれるこの地球上で最も重要なものとして崇められる


私たちを生かすのは他でもない大自然である

これをおろそかにすることは決して許されない


欲を持たず

人がこの世に生きる意味探求し

惜しみなく与える心を持ち

この世に在るすべての命を尊重しながら

自然と共に生きる


こんな仏教の教えが好きだ


私はそれをこの地で学んだ

それまでは時に日本の寺に参拝してもこのことはわかならかった


それは日本の寺が立派過ぎるからか

はたまた僧侶がベンツに乗っているからか・・


そう考えると、欲を持った時点で僧侶ではなくなるんだな



本物の僧侶の姿がここにはある


高僧リンポチェも見習いの小坊主も

上座下座はあろうとも等しく佛の前に座し、経を唱える


その経を聞いていると

煩悩に塗れた心が何者か(仏?)によってきつく、きつく締め付けられてゆく


サンスクリット語で唱えられる経が


『人よ、驕り高ぶるなかれ』


と私には聞こえてくる



その戒めを心に留め置き、顔を上げると


締め付けられた心を和らげるようなにこやかな笑顔でもって、寺男がやって来る

そうしてお茶を飲んでください、と表情で語り、膝元にカップを差し出す


頷く私に、この人はアルマイトでできた凹みのある古いポットから熱いお茶をカップに注ぐ


塩バター紅茶だ


私はそれを熱いうちに飲み干す

その人は再びやってきてお茶を注ぐ


それは心の収縮を解すように熱く、体に染み入る


彼は着ているものも質素で、そのところどころが破けたり繕われたりしており

如何にもムスタンの過酷な気候の中で生活を続けてきたらしい風貌であった


斯様な生活の中でも、瞬時に人の心を見て取り、それを思いやる気持ち、また、客人をもてなす気持ちが寺の人々の間で優しく溢れる


その前にも、私たちが板床に座っていると

長い座布団を運んでくれた人があった


それは如何にも使い古されて端は破けてはいたが

気遣い、思いやりの暖かさに、その座布団は膨れて見えた



話は逸れるが


言葉は便利だが、決して重要なものではないことにその昔アジアの大地を旅していて気づいた

寧ろ言葉なぞない方が通じるものが深かった


例えばここネパールでも

山奥に行くとそれぞれに民族言語があり、彼らはネパール語とはまったく違う言葉で話す


そうなると言葉はまったく通じない


しかし彼らは微かな表情や仕草から相手の心情を読む

そのことについては私たちが及びもつかないほどの深い感性を持っている


彼らはまだ生き物本来の動物的情緒を失ってはいない


それに比べて私たちはどうなのだろう

言語や情報の発達によりそういった感性を失ってしまったような気がしてならない


言葉が人間本来の感性を退化させているのだ


私たちは誰かと話す時、話の中から相手の真意を探ってはいないだろうか


たくさんの言葉を自由に操れる人間たちは

その中に言い訳や、見栄や、自慢や、時には嘘も織り交ぜる

そうして人を騙したり、陥れたりもし、言葉から諍いも生まれるのが現実だ


ここでは純粋に ありがとう の笑顔

ごめんなさい の表情


こうして旅をしていると

寧ろ言葉なぞない方が人は深く通じ合えるという事実がはっきりと見えてくる



交わす笑顔は一期一会


鮮明に思い出せる彼らひとりひとりの純粋な笑顔は

今も私の心に暖かな思い出として留まっている


この時私はチケットにサインをした際に寺の男性から借りたペンを返し忘れていた

お堂でその人を見つけ、ごめんなさいの表情でペンをお返しする

深い皺を刻ませた美しい笑顔でもってその人はペンを受け取り、お辞儀をする


どんなものを身にまとっていようが

人の美しさは

相手に対して礼を尽くす毅然な姿と、純粋な心が現れた表情で決まる


そんな笑顔に逢いたくて

私は旅に出るのかも知れない



                   


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