魔女
《ボンネット》が隠れている器というのは、以前やはり同様にして集団で脱走をした時に隠れていたのと同じ器だった
昨年10月上旬、『臆病ボンネットのミニマムな冒険』 としてブログに書いたあの縁側の下の大きな陶器の壺だ
その時は、足の手術後で動けない魔女に変わって軍団のみんなが交代で説得に出向いてくれた
それでもダメで、終いにはネバーランドからやってきた《インジゴ》が彼に勇気をくれてやっと家に戻れた
《ボンネット》、あの時の勇気はどこに行った!
今回は《ボンネット》本猫に、学習することを覚えさせるしかない
みんなは説得に行かなくてよろしい!
こうして4日目が過ぎ
壺猫となって5日目の昨日の夕方
この間《ボンネット》は軍団の食事を用意する食器の音を空しく聞き続け
台所を行き来する魔女を眺め、(台所の窓から《ボンネット》の入っている壺が見える)
換気扇から流れる人間の食事匂いを嗅ぎつつ、壺暮らしをしていたわけで・・
これぞ 壺暮らしの ボンネッティー
え・・っと (・・;)
台風の影響から風は強く
たまにいきなり激しい雨が降り
そうして《ボンネット》の気力体力共に限界が訪れた
《ボンネット》がついに鳴き始めた
それを聞きつけた《バブー》と《凜》が金網に張り付いて《ボンネット》に呼びかける
それで《ボンネット》は堰を切ったように大声を張り上げて泣き出した
前回脱走した時は、説得しに行った猫のせいで、大の猫嫌いのここの家人に見つかり、入っていた壺を倒された
だが幸いこの日は留守で・・
魔女 「ユリぼうず!」
水玉 「でたよ・・」
ジョン ブリアン 「また《ユリぼうず》に頼むの?」
魔女 「仕方ないでしょう、猫を探し出したり連れ戻したりする才能にかけちゃ《ユリぼうず》の右に出る猫なんていないんだから」
ジンジン 「だけど、《ボンネット》どうして帰れないのに外に出るかなぁ」
凜 「バカなんですよ」
水玉 「おまえが言うか・・」
魔女 「で、《ユリぼうず》!」
ユリぼうず 「まぁ、自力で帰宅するの待ちましょうや」
魔女 「いったいどこのオヤジの真似だい?」
ユリぼうず 「甘やかすとためにならないのよね」
魔女 「今がチャンスなのよ あの家が留守だからね」
ユリぼうず 「どうしていつもこういうことは僕なのかなぁ」
魔女 「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行ってきてよ! あなたは《ボンネット》の母ちゃんでしょ!」
ユリぼうず 「もうやめた」
魔女 「どうして」
ユリぼうず 「だって《ボンネット》ってぜ~んぜん学習しないんだもん、母ちゃんとしては情けないのよね」
魔女 「なに・・ 学習しないだって? 情けないだって?」
ユリぼうず 「そうだよぉ 前の時もあの器でひどい目にあっておきながらまた入るなんて信じらんな~い」
魔女 「学習ならお前の方が1000倍もしないでしょう! あちこちにマーキングしては叱られて泣き真似して、懲りずにまたやっては叱られて泣き真似・・ の日々じゃないか! 情けないのはおまえの方よ!」
ユリぼうず 「あれは動物の本能だ! マーキングもできない人間に僕の気持ちがわかるのか! ええ~?!」
魔女 「なんだってぇー!!」
バブー 「やめなよ・・」
魔女 「もうあったまに来た! 《ゆりぼうず》!」
ユリぼうず 「は~い、なんですかあ~」
魔女 「ドライブに行きたくなぁい?」
ユリぼうず 「え・・?」
魔女 「大好きな大型バイクが見られるかもよぉ」
ユリぼうず 「行きます」
魔女 「じゃあ、《ボンネット》連れて来たら行こうか」
ユリぼうず 「はい、は~い 」
《ユリぼうず》が出て行ってすぐに強い雨が降り出した
戻って来るのではないかと心配だったが、戻って来なかった
《ユリぼうず》にとってドライブの魅力は豪雨にも勝るのだった・・
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ユリぼうず 「お連れしました」
魔女 「どこ・・」
ユリぼうず 「猫用出入り口の前でカットーしております」
魔女 「《ボンネット》、お家に入りなさい」
ボンネット 「」
魔女 「泣いてないで入りなさい!」
ボンネット 「」
魔女 「前にそこで《インジゴ》に言われたことを思い出してみなさい!」
それから20秒位して《ボンネット》が猫用出入り口から現れ
そしてそのまま弾丸のようにみんなの待つ部屋に飛び込んだ
五日ぶりにいつもの場所にてんこ盛りのごはんが置かれた
しかし《ボンネット》は延々と《水玉》にすがりつき
その後《バブー》の胸に顔を埋め
《凜》や《ジョン ブリアン》に強力なスリスリを繰り返し
食事どころではなかった
ボンネット 「あにさあぁぁぁ~~ん」 水玉 「やっと帰って来たな」
水玉 「おい、《ボンネット》おかしな臭いがするぞ」 バブー 「うん、変な臭いがする」
10分以上もそれを繰り返し、やっと食事を始めた
それもオンオンと泣きながらの食事で・・
食事中も誰かが側を通ると、食事をやめてまたスリスリを始める
こんな落ち着かない状態なので、食事を終えるまで30分以上掛かってしまった
それから部屋中をうろつき、いつもの所にあるベッド、壊れかけた猫ハウス、オモチャ箱、テラスの椅子などを巡り・・
ベッドに入ってぶっ倒れるように眠ってしまった
それでも10分おきくらいに変な声と共に目を覚まし
辺りを見回してはまた眠る、の繰り返しだった
そんな様子の《ボンネット》を、側の椅子で寝そべって眺めながら、《凜》が言う
「やっぱり《ボンにいちゃん》はバカです」
そしてここに・・
びしょ濡れ姿で約束をの行使を要求する猫がひとり
さあ、ドライブに行きましょうか