魔女
カーブだらけのトリブヴァンハイウェイを走るトラックやバスをごぼう抜きにし
バスで5、6時間かかるドゥムレまでを、この運転手は4時間を切って到着させた
ここから更に車と徒歩で2時間ほど行ったところにドゥデクナの村がある
実は村の家に泊まってくれと強く要望されていたのだが
おかしなところで神経質な家族②が、ヤギや鶏と一緒に寝るのは問題ないが、知らない人と一緒には寝られない
と、この国の習慣的にまったく失礼なことを言い出し
そしてこればかりは何と言っても譲らず・・
この日はドゥムレに泊まって翌日村を訊ねることになった
ドゥムレでホテルを探す
といってもそう何軒もない
以前もここでホテルを探していて、ネパール語でホテルと書いてあった所に入って行って部屋を見せてもらったら、そこのおばあちゃんが普段使っている部屋に案内されたし・・
それでも比較的新しいと思われるホテルを見つけた
部屋は広いし、シャワー、トイレ、バルコニー、そして点かないテレビ付き・・
ここだったらまあまあかな
この前泊まったホテルはシャワー小屋が食堂(こういったホテルは大抵1階で食堂もやっている)の奥で、出入りする度に食堂の客にジロジロ見られた
その上、部屋がやたら狭苦しいからとドアを開けておけば、巨大なコオロギのような噛み付く虫が入って来て、夜はそれを外に出して寝なければならなかった
さらにテラス側のカーテンを開けると、目の前でその家のじいちゃんが日向ぼっこをし、ばあちゃんが洗濯物を干したりしていて、かなり見晴らしが悪かった
運転手は山の方に言行ってみる、ということで、明朝7時半にホテルに迎えに来てもらうことにした
このスピード狂の運転手のおかげでだいぶ時間が余ってしまった
それでバザールをぶらついたが、人々にジロジロ見られるだけで、こちらとしては取りだてて見るものがない
結局ホテルの食堂で食事を作ってもらい
ここのオーナーのお兄ちゃんに地震の件でお悔やみを言われながら夕食を取った
翌朝食堂に行くと、オーナー兼コックのお兄ちゃんが寝坊し、食事の準備ができてない とか言い出した
仕方なく、食べ物を求めてバザールをうろついていたら、後ろから名前を呼ばれた
それはちょうど店先のサモサ(カレー味のジャガイモを皮に包んで揚げたもの)を覗き込んでいた時で・・
声の主はラーズという少年だった
彼はこの先の山を少し登ったところに住んでいる少年で、これから身内と一緒にポカラまで仕事に行くのにバスを待っているのだと言う
見ると他の2人も知った顔で、にこやかに微笑んでいる
ラーズが 「魔女・・またお腹を減らしてるの?」 と言ってポケットから小銭を取り出した
私は慌てて 「そんなことはないよ、ちょっと見てただけ」 と取り繕った
彼らは貧しく、日々の糧を得るために必死で働いているのを知っているから
彼らと別れてサモサを買い、ホテルで食べていると運転手がやってきた
さて、ドゥデクナに向けて出発だ
ここ、ドゥムレを街道から外れてベシサハール方面に登り
暫く走って左に曲がり、更に山奥に向かう
当然舗装などされていない
途中から獣道のようになり、くねくねとしたカーブが続く
大きな岩と石と赤土が混ざり合った悪路で、車は左右に大きく揺れ
運転手は歩くよりもはるかに遅いスピードで、いくつものカーブを曲がる
大きな石が車の底に当たり、同時に大きな振動と音が座席の下から響く
その度に車が壊れるんじゃないかと身が縮む思いをする
車の修理代は運転手持ちだとはいえ
壊れてしまったら私だって気が咎める
私はここから歩く、と言ったが
運転手は意地のようになって車を走らせ続けた
道はますます狭くなり、もう民家もない
私はもう直ぐ道さえもなくなるような気がしていた
そうやって揺られ続けること1時間
向うの山の麓に何軒かの見慣れた集落が見えてきた
私はホッとした思いで前の座席をつかんでいた手を放した