魔女
タクシーはどうにか壊れることなく、ドゥデクナに到着した
私たちはタクシーを降り、山に向かって細い道を登る
山の一番手前には学校があり、人々の住処はそこから山に向かって点在している
学校では子供たちが待っていてくれた
みんなが笑顔でよかった
村の女性たちが次々と集まって来た
彼女たちはそれぞれの手に美しい花びらと赤いティカを持っていた
学校の先生が 「それは後にしましょう」 と女性たちに言うと
女性たちは困った顔になって言った
「私たちはこれから家畜をつれて畑に行き、野良仕事をしなければなりません、私たちには今しか心を差し上げる時間がないのです」
そうして彼女たちは私の頭と手に花びら落とし、おでこに赤いティカを押した
そうして女性たちは何度も笑顔で振り返りながら野良仕事に出かけて行った
それを終わるのを待っていた子供たちが一斉にやって来て
教室を見てくれ、と言う
そう、それが今回の一番の目的だ
子供たちに手を引かれ、校舎に向かう
半分が崩れかけていた校舎はきれいに建てかえられていて
教室の全てには椅子と机が並べられていた
椅子と机に不足はないか、と子供たちに聞くと
「みんな机で勉強ができているよ!」 と元気な声が飛び交う
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それは数年前の春先のこと
私はたまたまこの村を訪れていた
春とはいえ、山間部はまだまだ寒い
朝、村を歩き回っていた時
学校の庭の霜の降りた草の上で勉強をする子供たちを見た
足もお尻も冷たいだろうに、彼らはキラキラとした眼差しでもって、熱心に先生の話に耳を傾けていた
校舎は半分近くが崩れた状態で、残った教室を覗くといくつかの机で上級生たちが勉強をしていた
空いた教室もあったが、そこは湿った冷たい床で、日が射していなければとても寒くて勉強などできる状態ではなかった
それで彼らは日の当たる屋外で勉強をしていたのだった
この子たちに校舎と机を・・ そう思った
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取り敢えず数十台の椅子付きの机を買ってはみたものの、不足分をどうするかで悩んでいた
そんな時にカトマンズの隣、パタン市にある大きな私立学校の女性校長が何か役に立ちたい、と申し出てくれた
彼女は、それならば自分の学校の机を入れ替えするから、古いものを必要な分だけ村に差し上げる、と言う
見せてもらうと、古いものとはいえまだまだ使える丈夫な作りの机と椅子だった
私のネパール滞在期間は限られているので
私は小型のトラック(村の近くまでの道が狭いので)のチャーター代をパタンの校長に託し、村に運ぶ机と椅子を整えて帰国した
その後、村の学校の校長とこの校長とで直接話をし
村の先生がトラックをチャーターしてカトマンズへやって来て机と椅子を村まで運んだ
何とか村の近くまで移送された机と椅子は、そこからは村人や生徒たちの手で学校まで運ばれたのだった
これは前回、私の帰国後のことだ
それには私の知り合いたちの方々の協力があった
私は私立学校の校長を始め、協力してくれた人たちにこの学校の報告をしなければならない
今回どうしてもこの村を訪れなければならなかった理由はそれだ
この種類の机は私が用意したものだが、良く見たら全部の机になにやら書かれている・・
「DONATING BY M****」 何でいちいち書いてんの?!
勉強するのに、その字・・ 邪魔くさい
こちらはパタンの学校から運ばれてきた机と椅子です あと3クラスにもあります
校舎を建て直し、机と椅子で学ぶ環境を手に入れたのは
子供たちの真剣に学習する心でした
つづく