魔女
カトマンズ4日目
朝8時に、チャリコットから友人のジリがやって来た
夕べカトマンズに着き、仕事があるのでこの後チャリコットに戻るという
バスで5,6時間かけてやって来て、直ぐに戻るなんて・・
とにかく2時間ほどおしゃべりをして彼を見送った
11時の約束だったのが、12時近くになってデバキがムルパニ村からゲストハウスを訊ねて来た
小さなゲストハウスだから道に迷ったようだ
彼女は憔悴していた
それは散々道に迷ったからではなく
ディヤが連れ帰った子犬が母親恋しさに一晩中鳴き続けて眠れなかったから
子犬は母親の元に返して来たという
一緒にギリンチェに食事に行く
が、途中でデバキのサンダルが壊れてしまった
今朝のムルパニは大雨で、泥道を必死で歩いて来たのがいけなかったようだ
ちょうどティロチャンの店の側だったので、彼女をそこで待たせ、魔女は近くの店に新しいサンダルを買いに走った
彼女の雰囲気に合うサンダルを探す
が、サイズが合っても色が気にいらない
色が気に入ればサイズがない・・
店員の男の子が店を出たり入ったりして色んなサンダルを持って来る
いったいどこから持ってきてるんじゃ・・
そこで何とか気に入ったものを見つけ、値段をまけさせ
それをデバキに渡す
デバキ 「いくらだった?」
魔女 「150ルピー」
デバキ 「ええ~! 私の壊れたサンダルはこんなにいい物じゃないのに300ルピーで買ったのよ!」
魔女 「任せなさい! お代はいらないよ」
デバキは新しいサンダルをとっても気に入ってくれた
それはとても魔女には似合わない薄いピンクの花びらが型押ししてある乙女チックなもので、デバキにはすごく似合った
食事も終わって話をしていると、デバキの様子がおかしい
魔女の後ろの男性がガン見していて怖い、と言う
振り返ると後ろの席にスペイン人と思しき男性がこちらを凝視していた
しかしその男性、魔女の顔を見るや、いきなり三白眼になってしまった
三白眼の男性が後ろにいると思うと気味が悪いので、店を出た
デバキが 「あの男性、魔女が振り返ったら変になっちゃったけどどうしたのかしら」 と聞いてきた
しかし彼女はメデューサのお話なぞ知らないから・・
「どうしたんだろうね・・」 とテキトーに返事をしといた
石も三白眼もたいして変わるまい・・
道すがら、デバキが言う
私、夫にタメルに来たなんて言えない
今日私がここに来たこと、夫には内緒にしておいてね
タメルという狭いエリア・・
ここにはカトマンズで暮らす普通の人々は来たがらない
まして田舎の人はなおさらだ
地元の人々には大変評判の良くないエリアなのだ
ネパールにやって来る外国人はタイプが分かれる
この国の文化や人々の生活に興味を持っている人
自分の国での生活が嫌で、ひとり静かに過ごしたい人
ひとり静かタイプの人は結構多くて
例えばレストランではいつもの席で本を読む
菩提樹の木の下でものを思う
カトマンズの喧騒の中を悠々自適に歩く
すっかり顔見知りになっても、少しだけ感じのいい笑顔で街をすれ違い
隣のテーブルにいても、顔を上げて微笑み合うだけで後は自分の世界に浸る、という魔女的には大変好ましいタイプ
だが、夜な夜な酒浸りの外国人観光客も多い
たまに日本人のオヤジもいるよ
物価が安いから日夜遊べる!的な考えで、ナンパした現地のネエチャン引き連れて騒いでいる
ハッパパーティが大好きなジャンキーも多い
ハッシシ、マリファナ (工程が違うだけでどちらも大麻から作る)
ヘロイン (ネパールのは殆どが純度の低いブラウンシュガー)
などが簡単に手に入る
こんな外国人などは勝手にやってろ、という感じだが
私が最も嫌いなのが外国かぶれの地元の若者
とにかく節操がない
心にネパール人としてのプライドがない
この街には一生懸命に働く子供たちもいれば
シンナーを吸いながらうろつくストリートチルドレンもいるし
不良外人にジャンキー
地元民からよそ者
金持ちから物乞いまで・・
まさに坩堝だ
国籍、人種に関係なく同じ価値観を持つ人々と交わるのは気持ちがいいが、多くを占める破廉恥な人間は見苦しい
魔女、この気性から、ここではかなりの嫌われ者だったりする
敵も多い・・な
だが、その分強い味方もいるので
タメルを歩いていてイラッとしたら、近くのカトマンズ ゲスト ハウスに飛び込む
そこの庭はそれまでの喧騒が嘘のように静かで、こうしてお茶を飲み、短気を制するのが常になってしまった
私たちはこんなタメルを通り過ぎ
これからマチンドラに向かう