魔女
近所の家の物置でノラ犬が子供を生んだという
ディヤと一緒に見に行った
3匹の可愛い子犬が母親と共にいた
母犬の許可を得て、抱かせてもらった
あぁ・・ 素朴な子犬の臭いがする
その家の青年が、1匹貰ってよと言う
それでディヤが、魔女が止めるのも聞かず子犬の1匹を家に持ち帰った
家に着くと、ディチャが駆け寄って来て
「プラビッシュ兄さんがご飯を作り始めたよ!」 という
魔女は慌てて裏庭に走った
ヤバイ! ヤバイ!!
手遅れだったらどうしよう・・
体中の血管がどくどくした
果たして・・
いた・・! ちゃんと二羽いた・・
気が抜けてへなへなしながら台所に入ると
デバキの弟のプラビッシュが料理の準備をしていて
振り返りざまにこう言った
プラビッシュ 「あぁ魔女、今から美味しいチキンのスープ付きのダルバートを作るからね」
魔女 「チキンはやめて! 野菜がいい!!」
プラビッシュ 「あれ? 魔女はチキンが好きだって聞いたけど・・」
魔女 「野菜が食べたい!!」
それで野菜のダルバートになった
良かったあ~! 間に合った・・
いつも肉好きの自分には自己嫌悪を覚える
それでプラビッシュは野菜のダルバートを作り始めた
台所におわすヒンドゥーの神様
食事が出来るまでの間、散歩に出かけた
どこまでも続く広い田んぼを眺める
収穫時に稲刈りをする女性達の色合いがとても美しい
高い木に登ったり
田んぼのあぜ道で鬼ごっこをしたり
小さな池で熱くなった足を冷やしたり
そこいらを駆け回っているうちに・・
北の空に暗雲が立ち込め、空模様が怪しくなってきた
こうなるとあっという間に豪雨がやって来る
みんなを呼んで足早に家に向かうが
あと5分というところで大粒の雨に追いつかれた
体を拭き、出来上がったダルバート タルカリをいたく
夕刻、ムルパニを後にする
明日はデバキがホテルまで訊ねて来るとのこと
帰り際に、一番おしゃれな服を着ての写真を撮ってくれ
と、デバキと彼女の妹に頼まれた
帰りはタクシーなぞ走っていないからバスだ
ゴビンダの家から、タクシーを降りたところの少し広い道に出て
通りかかったマイクロバンのバスを止める
混みあったバスの座席はいっぱいで
背中を丸めて窓枠につかまる
側に座っていた野菜売り女性が魔女の荷物を取って自分の膝に乗せてくれた
その隣の上品な女性は魔女の目の前を邪魔くさく揺れるバッグを、こっちによこしなさい、と言って持ってくれた
それから車内は賑やかになっていった
魔女 「みなさん、ありがとうね」
野菜売りの女性 「あんた、どこから来たのさ」
魔女 「どこからだと思う?」
上品な女性 「う~ん、ネパール人じゃないわね・・」
後ろの女性 「なんだかよくわかんない顔だねぇ」
そのまた後ろの女性 「だけどさ、ネパール語を喋ってるよ」
魔女 「ちょっとしか喋れないよけどね それにしても皆さん美人だね」
上品な女性 「まぁ~たぁ~、そんなこと言っちゃってぇ」
後ろの女性 「あんたの顔もなかなか複雑ねぇ」
野菜売りの女性 「ちょっと、後ろの席の男たち、この人に席を譲りなさいよ!」
男ー1 「ぎゅうぎゅう詰めで動けないよ」
後ろの女性 「なんとかしなさいよ!」
男ー2 「どうにも動けないよ」
上品な女性 「どこまで行くの!」
男たち 「・・」
上品な女性 「もう降りちゃいなさいよ!」
魔女 「いいよ、私はこのままで平気だからさ」
野菜売りの女性 「いいよ、私が立つからあなた座りなさい」
魔女 「平気だから」
野菜売りの女性 「いいからっ!」
そんな女性達の視線が余程痛かったんだろうね
男性陣はボダナートで全員降りてしまった
残るは女性ばかり
車内はお喋りと笑い声で溢れた