ネパール日記 ~ 旅人たち Ⅲ ~ | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

魔女


カトマンズのトリヴァン空港で帰国のためゲート付近の椅子に座っていると

ひとつおいた隣の席で、小柄で細身の中年の白人女性がそわそわしている

まったく落ち着かない様子でパスポートと搭乗券を握りしめ、立ったり座ったり

ガラス窓の所にまで行って外を眺めては顔を引きつらせて戻って来たり・・


人の事などまったく関心のない魔女でも

さすがに近くで立ったり座ったり、うろついたりを頻繁に繰り返されると気にはなる


しかもこの女性、暑い時期のネパールだというのに、長袖のブラウスにきりっとした黒いスーツを着て、高級なブリーフケースを持っている

如何に国際空港といえ、ネパールでこれまでこのようないでたちの女性を見かけた事がなかった

とても上品で美しく、知的な顔立ちではあるが・・

かなりの場違い感を周囲に与えている


ネパール人は、結構人をジロジロ見る

彼らは見慣れない者をジロジロと見ているだけで決して悪気はない

見ている相手にニッコリと笑って見せれば、彼らもニッコリと笑って返すものだが

どうやら、そういった周囲の視線が、彼女をますます四面楚歌に陥らせているようにも見えた


その表情には・・

何故私はここんな所にいるの!

ここは私のいるべき所じゃないわ!


そんな感情があからさまに滲み出ていた

それで彼女は余計に周囲からジロジロと眺められるという・・ 

ドツボにハマり込んでいた


明らかに観光客ではないこの白人女性

それにしても、このネパールで高級スーツを着てやりとりするようなビジネスなんてあったっけ・・


たぶん国連関係者だな・・

それとも国際問題でやって来たヨーロッパの政治家の秘書かなぁ

だけど政治家らしき連れもおらず、彼女ひとりだし・・


女性の顔は時間と共に緊迫感が増している

あぁ、もう耐え切れない! 

そんな絶頂に達したかに見えた時・・


彼女は私の方に向ってき来た


そして、持っていた全ての書類を差し出し、泣き出しそうな顔で訊ねた


白人女性 「私の乗る飛行機はどれでしょうか!」


魔女 「別にパスポートや書類は結構ですから・・ 搭乗券だけ見せてください」


白人女性 「搭乗券はこれですが・・ 私の乗る筈の飛行機が見当たりませんの」


魔女 「・・見当たってますよ」


白人女性 「ど、どれです!」


魔女 「すぐそこに止まってるじゃありませんか、 あのタイ航空機がそうです」


白人女性 「・・あれじゃありませんわ」


魔女 「あれじゃありません・・って 航空券ではそうなってますよ」


白人女性 「冗談じゃないわ!」


魔女 「冗談など言ってませんけど・・」


白人女性 「私はあんな飛行機には乗りません!」


魔女 「乗らなかったら帰れませんよ!」


白人女性 「とにかくあれは違いますわ!」


魔女 「じゃあ、どんな飛行機だったら違いませんの!?」


白人女性 「・・」


魔女 「とにかく、あなたはこのチケットであの飛行機に乗るんです!」


白人女性 「・・」


魔女 「私もあの飛行機に乗りますから・・」


白人女性 「あれに乗るなんて気が進まない・・」


魔女 「じゃあ知らない! 望み通りの素晴らしい飛行機がやって来るまでここにいたらいいわ」


白人女性 「汗


魔女 「そしてここでどんどん年取っちゃえ」


白人女性 「あせる


フランス人とおぼしきその女性は・・

何を言っても納得しなかった

自分が乗るのは、あんな飛行機ではない! の一点張り


それでも搭乗が始まると意を決したように機に向って行った


それにしても、ここに来る時はいったいどんな飛行機に乗って来たんだろう・・

大統領専用機にでも乗って来たのか?