ユリぼうず
玄関で・・
僕 「魔女・・ 何してるの」
魔女 ハッ・・
僕 「何してるの・・?」
魔女 「な、何でもない!」
僕 「なに、キョドってるの?」
魔女 「あっちに行ってなさい!」
僕 「何で!」
魔女 「行かなきゃ、そのヒゲを引っこ抜くよ!」
僕 「・・」
それで僕は一旦退散し、夜になってまた玄関に行き
魔女がキョドってたらへんを検証した
確か・・ ここらでこそこそ何かやってた・・
何もないなぁ・・
僕は魔女と同じ格好で、玄関の靴入れの下の部分を覗き込んでいた
そこには魔女のきったないスニーカーが無造作に突っ込まれているだけで・・
念のためにスニーカーの中を覗いてみた
くっさ!!
僕は思わず顔を離した
多分僕はこの時フレーメン現象を起こし、目がイッちゃったみたいになって、口はだらしなく半開きになっていたはずだ
僕は利口だから、それ以上覗くのは僕の体にとって毒だと判断した
この現象が治まったら即刻この場を立ち去るべきだと思った
空白になってしまった僕のオツムが元に戻り掛けた時・・
スニーカーの上の部分の裏から何かが覗いた
え・・ 何かいる・・
僕は思わず覗き込もうとして・・ やめた
やっと元に戻った僕の脳みそが
覗きたいよぉ! だけど体に悪いよぉ!って葛藤してる
覗きたい・・ でもヤバイ・・
そうやって僕が非常に苦しんでいると・・
覗いていたものが、出てきちゃった!
それはスニーカーの上の紐のところまでやって来て
僕に気づいたようで、突然動かなくなった
なんだかよく見えないな・・
僕は玄関を後にした
それからというもの
玄関を通る度に気になって仕方がない
それで、つい、そぉ~っと覗いてみる
くっさいのを我慢し、ちょっと離れて覗く
靴入れ箱の下だし、靴の中は暗くてよく見えないけど
それでも2回、長い手だけが見えた事がある
昨日の前の日、僕はまた覗きに行った
そしたら何かがスニーカーの上に乗っかっていて
僕がじぃ~っと玄関に置かれたテーブルの影から見ていたら・・
スニーカーから お・り・たっ!
またスニーカーに乗っかって中に入るのかと思ったら
そのままスニーカーを向こうに越えて壁を這い出した
そして靴入れ箱の底を逆さに這って、箱の正面にやって来た
その時僕は、はっきりとその姿を確認した
僕はテーブルの裏から飛び出し、玄関のタイルから、ちょっと高い板の部分に駆け上がり、階段も駆け上がり、ドアの前まで行くと、緊急な場合を現す甲高い方の声で鳴いて騒いだ
僕 「魔女お~!! 魔女お~!!」
魔女 「いったい何の騒ぎなの」
僕 「《もっくん》が縮んだっ!」
魔女 「《ユリぼうず》・・ 見たね・・」
僕 「・・」
魔女 「スニーカー、覗いたのか・・」
僕 「・・もう、靴入れ箱のドアの上を這っているよ」
魔女 「ひえ~! マズいじゃないの!!」
僕と魔女は階段を駆け下りた
魔女 「どこだ! どこなんだ!」
僕 「そこの靴入れ箱のドア・・ あれ? いない・・」
アゾ 「ま、ま、まじょ、こんにちわ」
魔女 「ここで何してる・・」
アゾ 「お、おなかが へりましたんで・・」
魔女 「食ったのか!」
アゾ 「あ、あ、あでは 《もっくん》 でしょーか・・ ごっはんがなかったんだろか・・ ちっちゃくなりましたが、どーでしょー」
魔女 「食ったのかっ!!」
アゾ 「あ、あでは おっいしいのかなぁ・・ と思いまして」
魔女 「食ったのかあ~~!!」
アゾ 「た、た、ためしに 食うかな・・ と思いましたら た、高いとっころに 行ってしまいましたが クソッ!!」
魔女 「あぁ~ 良かった・・」
僕 「あんな所にいる・・」
魔女 「動き回るようになったからここは危険だな・・」
僕 「《アゾ》、《もっくん》を食ったらいっぱい殴るからね」
アゾ 「い、いっぱいって?」
僕 「・・」
アゾ 「・・」
僕 「とにかく食うな!!」
アゾ 「・・はい」
魔女 「あの子は《もっくん》の子供なんだ、大切に育てないと《もっくん》が復讐しに来るよ!」
アゾ 「ふ、ふくしゅうしに やって来た ばあいは 食べてもいいんですかね・・」
魔女 「いいわけないだろう! 何が何でも食うなっ!」
アゾ 「はい・・」
それでも魔女は、《アゾ》の返事は信用ならないと言って・・
椅子を持って来てそこに乗っかり、壁にいる《もっくんの子供》の下に手を出して
「ここに乗りなさい」 と言った
《もっくんの子供》はすぐに長い足を動かして魔女の手に乗っかった
魔女は手のひらに《もっくんの子供》を乗せたまま、庭に出た
そして桜の木の枝の高いところに移そうとしたが、《もっくんの子供》が嫌がって魔女の肩の方に移動してしまった
そこで魔女がきっちり言い聞かせた
家の中で動き回ると危ないの
壁の色が白いから、そこにいるとすごく目立つんだよ
大切な《もっくん》の子供に危険な事があったら大変だから、今日からここで暮らしていなさい
そしてもっと、もっと大きくなってまた家に帰っていらっしゃい
この木の根元にちょっとした洞があるからそこで暮らすのよ
《もっくんの子供》なら、この木と同じ色だから目立たないからね
怪しいヤツがやって来たら動かないでじっとしてるんだよ
ここなら食べ物に困らないから、あっという間に巨大になれるよ
そうして魔女は肩の《もっくんの子供》をそっと抱えて木の枝に移した
《もっくんの子供》はそこでじぃ~っとした
僕は、時々様子を見てちょうだいね、って魔女に頼まれた
《もっくんの子供》さん、元気で巨大な蜘蛛になりましょう!!