魔女
あまりの人の多さに気を悪くしたクリシュナ・シンダール
彼は突然ダンスをやめてしまった
観衆が期待の視線を浴びせる中
彼は不機嫌な顔で座り込んだままだ
そこへクリシュナにタバコをすられた兄貴が近づいて来た
この兄貴、先ほどから壁際で友人達と弟のダンスを見物していた
兄 「おいクリシュナ、踊れよ」
クリシュナ 「いやだ」
兄 「タバコの事はもう忘れてやるからさ」
クリシュナ 「いやだ」
兄 「踊れよ、俺の友だちも見たがってるんだよ!」
クリシュナ 「いやだっ!」
兄 「やれよっ!!」
クリシュナ 「い・や・だっ!」
兄 「ダバコ・・ やるからさ」
魔女 「えぇ~!!」
クリシュナ 「・・やだ」
兄 「このお~!」
父親 「ちょっと、待ちなさい」
魔女 (今度は父ちゃんが出てきたぞ・・)
父親 「なあクリシュナ、こうして大勢さんが待ってるんだぞ」
クリシュナ 「・・」
父親 「みんなにおまえのダンスを見せてあげろ」
クリシュナ 「いやだ」
父親 「・・」
クリシュナ 「・・」
父親 「・・ほら、タバコだ」
魔女 「オヤジもかい!!」
クリシュナ 「やだ・・」
父親 「タバコをやるって言ってるだろうがあ~!」
クリシュナ 「いやだ!」
父親 「このお~!」
婆ちゃん 「まあ、待ちなさい」
魔女 (ついに婆ちゃんまでもがやって来た・・)
婆ちゃんが着ているのはネワールの伝統的な民族衣装だ
一番左はペプシ コーラの母ちゃん
婆ちゃん 「クリシュナ・・ タバコを袋ごとあげよう」
魔女 (ひっ、1パック出した!)
婆ちゃん 「これだけあれば、たくさん吸えるぞ」
クリシュナ 「やだ! あとで父ちゃんになぐられるもの」
婆ちゃん 「だぁれもそぉんなことしやあしないさ、タバコ、欲しくないのかい?」
クリシュナ 「・・」
婆ちゃん 「ほら、袋ごとあげるよ、だから踊りなさい」
クリシュナ 「・・いやだ」
婆ちゃん 「このお~!!」
兄 「婆ちゃん、待ちな!」
魔女 (また兄貴だ・・)
兄 「クリシュナ、ほら、小遣いやるぞ」
魔女 (20ルピー・・)
兄 「これだけの人たちがおまえのダンスを見たがってるんだぞ、婆ちゃんのタバコとこの金やるから、さあ、やれよ」
クリシュナ 「・・あと 10ルピーおくれ」
兄 「このお~!!」
父親 「渡してやれ・・」
魔女 (オヤジ・・ ホントにそれでいいのか?)
クリシュナは渋々と立ち上がった
それでも前に立つと、先ほどのイジケ顔とは打って変わり
すっかりマイケルの顔つきになってボイパと共にダンスを始めた
それはまるで、マイケル ジャクソンがモンゴロイドの子供に乗り移ったかのようだった
観衆はもう大喜びだ
動画でお伝えできないのが実に残念
それほどバカウケしたショーだった
私たちもまた子供たちと共に乗りまくった
クリシュナは私たちに見せてくれたほどには長々と踊らなかったが
それでも周囲の人々は大いにウケて
一緒にノリノリになっている青年やら
体が反り返るほど腹を抱えて笑うおじさんやら
あまりの面白さに立っていられなくて、座り込んでしまうお姉さんやら
外国人には事の外大ウケで、クリシュナは大拍手を浴びていた
そんなこんなで思いがけないパフォーマンスはやがて終焉を迎え人々は笑顔のまま、それぞれに散って行き・・
広場には私たちと子供たちだけが残った
クリシュナがボケットからタバコの包みを出し
そこから1本取り出して
カズリさんが止めるのもきかず慣れた手つきでマッチを擦り、それに火をつけた
彼はそのタバコを浅く吸い
下唇を突き出し、イッチョ前に煙を吐き出している
こいつ・・ どうしようもないな
すると
いきなりどこからともなく親父が現れて
クリシュナをボコしてタバコを取り上げ・・
再びどこかへ去って行った
頭を抱えたクリシュナが・・
涙目で魔女を見上げている
おわり