魔女がニャパールに行ってから
俺らは憂鬱な日々を過ごさなければならなかった
いつも通り、しばらく待っていればきっと帰って来る
それは分かっているんだけど・・
ずいぶんの日が過ぎると
ある時期から急に大きな不安が襲ってくる
それは俺らのほとんどが、同じ頃、同じ気持ちになるんだ
そうなると俺らの心は荒れてくる
魔女が行ってしまって間もなくからぼーこーえん症状を訴え始めた《ユリぼうず》
こんなこともあろうかと魔女は既に薬を用意して行ったようで
《ユリぼうず》は家族①によってすぐに薬を飲まされ始めた
ぼーこーえんはじきに治ったはずだったのだが
この《ユリぼうず》・・
軍団の不安がつのる時期あたりから
ぼーこーえんのふりをして、そこらじゅうにやけっぱちのようなおしっこをかけまくリ始めた
プリャンターの横、ストーブやテレビの前、俺らのおもちゃ箱、廊下、玄関、終いにはデンシィ レンジンの裏に潜り込んでわざと掃除のしにくい所を狙って・・
これは完全なる嫌がらせだ
家族① 「《ユリぼうず》!何やってるのよ!!」
ユリぼうず 「ぼーこーえん・・」
家族① 「膀胱炎でこんなにシャーシャーおしっこが出るのか!」
ユリぼうず 「・・」
毎日どんなに叱られても・・
《ユリぼうず》の嫌がらせは絶対に止まなかった
《アゾ》と《バブー》はひどくわがままになっていった
食事の時、他猫の茶碗の顔を突っ込み盗み食いを始めた
それもまた、どんなに叱られても止めなかった
また《アゾ》は、早朝から外に出て夕食まで帰らない日々を過ごした
今まで臆病だと思われていた《ボンネット》は、大胆な行動を取り始めた
夜な夜な冷蔵庫の上やら食器棚の上に乗っかってはそこにあるものを床に落とした
それは使われていない箱入りの食器だったり、小さな器械(料理用の計り)だったり、コーフィーの箱だったり・・
《ジョン ブリアン》はコタツに潜っている事が多かった
ただ、薬を飲まされる時は大いに逃げ回った
家族②は、いつも薬を片手に追い駆けていた
それでも《ジョン ブリアン》は、魔女との約束を守って、絶対薬を隠すことはしなかった
《ジンジン》はいつも道に出ていた
そして、魔女が帰って来るはずの方向ばかりを見て過ごしていた
そして時々情けない声を出して鳴く
《ジンジン》はほとんど毎日をそうして過ごした
《涼子》は魔女がいないことには関心がないようで
とにかく食事の時間にはきちんと玄関前にやって来て
ご飯をもらう事だけに専念した
そして俺は
毎日見回りをしていた
《水玉先生》の仕事は魔女がいないからお休み
だから《夜回り先生》の仕事を欠かさずやった
軍団の喧嘩の仲裁もした
それでも魔女がいない間の責任感は、俺のお腹をキリキリと痛ませた
罪もない家族①と②は疲れ果てていた
その日も《ユリぼうず》のおしっこがまだ乾かないままで
棚から落とされた食器の箱が散乱し
《バブー》がハッポーシュチロルのトレをバリバリ噛みちぎり
《ジョン ブリアン》はコタツに潜り込んでいて
なぜか《アゾ》は朝から外にも出ずカタツムリのような形で朝からずっと眠っていて
《ジンジン》はいつも通りに道で魔女を待っていた
そんな時・・ 突然魔女が帰って来た
その日から
《ユリぼうず》のおしっこはピタリと止まった
《バブー》も《アゾ》他猫の茶碗に顔を突っ込まなくなり
《ジョン ブリアン》は素直に薬を飲み
《ボンネット》は高いところに上らなくなった
(でも部屋に誰もいなくなると、たまに上ってるぞ・・)
《ユリぼうず》、《ジンジン》、《ジョン ブリアン》は常に魔女にくっつきっ放しだ
昨日魔女が、玄関前にいた俺に向って
「《水玉》、ご苦労様でした、ありがとうね」 と言った
俺は思わず魔女の膝に飛び乗った
それから、まわりに誰もいないのを確認して・・
魔女に甘えた
いっぱい甘えた
やっとまたフツーの日が始まったんだな・・って感じた
フツーがどんなに良いものか、すごくわかった気がした